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強行採決で派遣法改正案を通すことは、いくら何でも、さすがに筋が通りません

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長

自民党の国対委員長によれば、派遣法の改正案を11月6日には衆院を通したいということです。

派遣法、来月6日衆院通過を=自民国対委員長

これは、今国会で参院本会議を通すためにはこの日程でギリギリだということです。

審議入りが遅れたのは誰のせい?

しかし、こんなことでいいのでしょうか。

そもそも、なぜ審議入りが遅れたのでしょう。

当初は、28日の審議入りよりも2週間早い日程が組まれていました。

それが、ご存じのとおり、2人の閣僚の辞任という事態となり、審議入りが遅れたのです。

これは野党が欠席戦術をとったとか、審議入りを妨害したとか、そういうわけではなく、完全に与党側のエラーです。

もっといえば、この程度のチェックもなく大臣に任命した安倍首相の責任です。

にもかかわらず、11月6日に衆院を通過させようというこんな強引なやり方は、いくらなんでも道理もへったくれもない、なりふり構わないやり方といえるでしょう。

改正内容は?

さて、今回の派遣法改正案は派遣期間の制限撤廃を柱とした、超規制緩和を実現することを内容とするものです。

下のリンクがわかりやすいです。

日本の雇用を壊す 派遣法改悪案Q&A

質問なるほドリ:「派遣」どんな働き方?=回答・東海林智

このとおり派遣先に永久に派遣社員を送り込めるという、まさに派遣業界からすれば待望の改正案です。

他方で、この法案一つで、我が国における「働き方」に重大な影響を与えます。

ゆえに労働側からは「正社員ゼロ法案」と指摘されており、不安定雇用が急速に拡大するおそれのあるものです。

この点は前の記事をご覧下さい⇒今、提出されている派遣法改正案が成立すると派遣社員が激増する理由

このような影響の大きい法案は十分な議論が必要であり、そのために国会が存在しているはずなのです。

そもそも成立を急ぐ法案なのか?

ところが、こういう重要な法案を、ろくな審議もしないで通してしまおうというのが今の自民党の考えということになります。

では、本当にそれほど急ぐ必要があるのでしょうか?

答えは簡単で、実際は成立を急ぐ必要性は全くありません。

自民党は何を焦っているのか、理解に苦しみます。

急ぐべき法案というのは、既に被害者がいて緊急に法的な手当をしなければならないようなものが典型でしょうが、派遣法改正案がそれに該当しないことは明らかです。

また、制度疲労を起こしているから一刻も早く「改革」が必要という事情もありません。

なぜなら、今の派遣法の最終改正は平成24年(2012年)です。

つい最近です。このときの改正には自民党も賛成しています。

しかも、まだ2015年に施行される部分が未施行のままなのです。未施行部分があるのに改正すること自体、前代未聞です。

派遣法改正の理由がおかしい

安倍首相は「改正案は派遣会社に対し教育訓練を新たに義務づけるなど、派遣労働者のキャリアアップを支援するとともに、正社員になったり別の会社などで働き続けることができるようにする措置を義務付けることで、派遣労働者の雇用の安定・保護を図り、多様な働き方の実現を目指すものだ」と述べているそうです。(労働者派遣法が審議入り

まぁ、安倍首相は用意された原稿を読んでるだけでなのでしょうが、それでもやはりこの発言はおかしいですね。

まず、「教育訓練の義務づけ」なんて、ほとんど意味ありません。

そもそも教育訓練自体、内容が曖昧ですし、だから何?実効性あるの?というものです。

百歩譲って、仮に教育訓練に意味があったとしても、そもそもキャリアアップする先がなければ不安定なままです。

今回の派遣法改正案で派遣社員が激増し、直接雇用が減れば、アップする先がないのですから、無意味ですね。

また、よく言われる「正社員になったり別の会社などで働き続けることができるようにする措置を義務付ける」ってのも、ごまかしです。

法案では、派遣先が派遣労働者を直接雇用する義務を負う内容になっていません。

派遣元会社が直接雇用を派遣先企業に要請さえすれば、この「措置」はしたということになります。ただ単にそれだけやればよく、実効性はありません。

さらに、「派遣労働者の雇用の安定・保護を図り、多様な働き方の実現を目指す」ってのも何を言っているのやら、というものです。

派遣労働という形態が、そもそも雇用の安定と対極にあります(その点はここに書きました⇒派遣労働の不安定さの理由と派遣法改正案が持つ危険性)。

したがって、改正案が成立しても、今より派遣労働者の保護が図られることは絶対にありません。

もちろん「多様な働き方」なるものは実現するでしょうけれど、安定した働き方が増えた上でないと、多様性だけ充実しても無意味です。

強行採決は筋が通らない

与党は何を焦っているのか、派遣業界への顔立てなのか、とにかく異常に焦っている様子です。

しかし、そもそもの発端は、自らの大臣の失態にあったわけです。

それを逆用して、ろくな議論もしないまま国会を通そうというのは、筋が通らないでしょう。

さらに、国会軽視も甚だしいですね。自民党・公明党の議員の皆さんも怒るべきです。

最低でも正面から正々堂々と議論をすべきだと思います。

まだ、強行採決が決まったわけではありません。

政情は微妙なようです。

強行か、断念か…労働者派遣法改正案 迷う与党 意気込む民主 でも野党足並みバラバラ

民主・維新国対委員長会談 労働者派遣法改正案を徹底議論する考えで一致

労働者派遣法改正案:自公、11月成立確認

ここで強行採決は許さないという声を一人一人が上げることが大事だと思われます!

是非、反対の声をお願いいたします。m(_ _)m

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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