《都市対抗野球大会》1回戦敗退にリベンジを誓う、もと阪神タイガースの選手たち
7月15日から東京ドームで熱戦が繰り広げられている『第87回都市対抗野球大会』。社会人チームが目指す一番大きな、夢の舞台です。プロから社会人へと戦いの場を移した選手たちにとっても同じ。抱える責任の重さはNPB時代と変わらず、もしかしたらそれ以上かもしれませんね。
ことし本大会に出場した阪神OBたちは、新日鐵住金鹿島の玉置隆投手(29)、パナソニックの阪口哲也選手(23)、三菱重工神戸・高砂は若竹竜士投手(28)と、カナフレックスから補強で参加の藤井宏政選手(26)の4人でした。そこまでの道のりは、この記事でご覧ください。<社会人の夢・東京ドームへ!もと阪神の選手たちが戦った都市対抗予選 ・その1>
“4人でした”と過去形なのは…20日までに行われた1回戦で、残念ながら3チームとも負けてしまったからです。新日鐵住金鹿島はJR北海道に1対2で敗戦。パナソニックは初出場のきらやか銀行と延長13回(12回からはタイブレーク)まで戦って3対4で力尽きました。そして三菱重工神戸・高砂も延長に突入、12回で日立製作所に3対4のサヨナラ負け。3試合すべて1点差で、そのうち2つが延長戦という結果になっています。
近畿勢は開幕試合で昨年の覇者・日本生命(大阪市)が敗退し、その後もNTT西日本(大阪市)、昨年は準優勝の大阪ガス(大阪市)、パナソニック(門真市)、三菱重工神戸・高砂(神戸市、高砂市)と、次々に1回戦で姿を消してしまったわけです。唯一、2回戦に残った近畿地区第1代表の日本新薬(京都市)は、きょう23日にJR北海道と対戦して9対1の勝利。阪神・榎田投手の弟である榎田宏樹投手(27)が7回に1点を失ったものの、7回6安打1失点の好投でした。
◆先発の玉置が粘投、新日鉄住金鹿島
昨年は、もと阪神・野原将志選手(28)の三菱重工長崎が本大会に出場したものの1回戦は都合がつかず、そこで負けてしまったため行けなかった東京ドーム。ことしは18日から2日間、生観戦できました。秋の社会人野球日本選手権(京セラドーム)も大いに盛り上がっていたのですが、やっぱり都市対抗はすごいですね。しかも連休中で、関東の試合などはもうギッシリのお客様でした。
大会4日目、18日の第1試合だった新日鐵住金鹿島(鹿嶋市)も一塁側内野席はもちろん、ライト外野席の空きがなくなり、試合開始前から2階席を埋めるほどの応援団。第2試合で同じ新日鐵住金のかずさマジックが登場するというのもあったでしょうね。あとで聞いたところ、鹿島市から大型バス200台で駆けつけたとか!納得です。
7月18日 第1試合
(札幌市) vs (鹿嶋市)
JR北海道-新日鐵住金鹿島
JR北 010 000 010 =2
鹿島 000 000 100 =1
玉置投手が先発。いきなりファウルで散々粘られて手こずっていましたね。2回に2死から内野安打と二塁打で先取点を許し、その後も再三ピンチを招きますが追加点は与えていません。4回まで先頭をすべて三振に切って取ったのも、要所での変化球(チェンジアップ?)もさすが。4回1死一、三塁でスクイズされた打球をキャッチャーへグラブトスした場面など、阪神時代と変わらぬ落ち着いたマウンドさばきです。
6回に連打されながらも連続三振を奪ったところで、富士重工業から補強の小野投手に交代。5回2/3を投げて8安打7三振2四死球で1失点でした。7回に打線が5番・林選手のタイムリー二塁打で追いついたものの、8回に勝ち越され、そのまま2対1で負けて2回戦進出ならず。
試合後、背中に『TAMAKI 30』と書かれた鹿島のユニホームを着た方がかなりおられたので、思い切って聞いてみました。すると「玉置くんはうちの、鴻池運輸の社員ですから!」と初戦敗退にもかかわらず、胸を張ってのお答え。きっと予選でのピッチングもご存じなのでしょう。3年ぶりの都市対抗出場に大きく貢献した玉置投手を、とても誇りに思ってくださっていると感じました。
「来年また戻ってきて恩返ししたい!」
玉置隆投手のコメントをご紹介します。東京ドームでは阪神時代に2、3度目登板したそうですが、こんなに長く投げたのは初めてのはず。「120球以上らしい」という球数は、そこまでいっていないものの114球とかなり多めです。「コチョコチョと当ててくるんですよ。逆方向に。それでファウルで粘ってピッチャー疲れさせてという…。まんまとやられました。入り方の難しいチームでイメージはできていたけど、思ったよりしつこかったですねえ。気持ちが強いなと思った」
わかっていながら術中にはまってしまったようで。それよりも、バシッと捉えてくる打者の方が逆に料理しやすいのでしょう。とはいえ毎回ランナーを出しながら1失点で「ゲームは作れたかな」と安堵の表情。いったん追いついただけに残念ですね。「そこが、うちの課題です。何とか意地を見せたけど」と玉置投手は言いました。サラリと出た「うちの」という言葉が、チームへの思いを表しています。
玉置投手にとって初めての都市対抗。1試合で終わったものの、社会人の華と言われる舞台で先発を任されたこと、期待に応えられたことが大きかったと思います。着替えてからご家族や知人の皆さんと話をしていても、充実感が見て取れる顔でした。この日を振り返って、こんなコメントです。
「またNPBのグラウンドで野球ができて、すごく楽しかったし嬉しかったです。東京ドームへ連れていってくれたチームに、またチャンスを与えてくれ、いつも応援していただいている会社に、感謝しかないです!また来年ここに戻ってきて、恩返ししたいですね!」
この時、言葉にはしていませんが、もちろん朝4時に起きて和歌山から応援に駆け付けたお母さんやお兄さん、そして新日鉄住金鹿島で野球を続けるにあたり、ついてきてくれた奥さんと子どもさんにも感謝の思いは同じだったはず。秋は京セラドームの社会人日本選手権で大阪に凱旋してください。「同じ年に2大ドームってのがまだないみたいなんですよ。頑張ります!」。お待ちしています。
◆パナソニックは延長13回の死闘
翌19日、大会5日目の第2試合でパナソニックが登場。昨年はまさかの予選敗退でしたが、ことしは梶原康司新監督のもと、2年ぶり50回目の出場です。
ちなみに梶原監督も阪神OBで、退団後は2014年までパナソニックでプレー。その10年間ずっと4番を打ち、ずっと(補強での2度を含め)都市対抗に出て10年連続表彰も受けました。2年ぶりの都市対抗に監督として戻ってきたわけです。
7月19日 第2試合
(山形市) vs (門真市)
きらやか銀行-パナソニック
きら 000 000 020 001 1=4
パナ 000 000 002 001 0=3
※延長13回、タイブレーク
試合はパナソニックの先発・藤井聖投手が、8安打されながらも要所を締めて7回無失点。2人目の阿部投手が8回に暴投とタイムリーで2点を失いますが、9回に横田選手が右前打、1番・泉選手が左中間二塁打で1死一、三塁として立花選手(ミキハウスBCからの補強)が中前タイムリー!続く福原選手の右犠飛で追いつきました。10回、11回と得点なく、12回からはタイブレークに。
きらやか銀行は5番からの打順を選択し、その前の2番から4番が塁を埋め1死満塁でスタート。9回からの3イニングは毎回ランナーを背負いながら0点に抑えていた北出投手が、ここで押し出し四球を与えてしまいます。次は併殺で1点止まり。するとその裏、パナソニックは4番からの打順を選び、その柳田選手が遊ゴロ(二塁封殺)でまた同点。13回の打順は前回の続きからです。
パナソニックは10年目のベテラン・四丹投手を投入するも犠飛で1点を取られ、その裏は6番・大江選手が二ゴロ併殺打で試合終了。初出場・きらやか銀行が4対3で2回戦進出となりました。
出られなかった自分に悔し涙
阪口哲也選手は、残念ながら出番なし。今回は補強の立花選手がサードでフル出場していたこともあるでしょうけど、ことしはベンチスタートも多いので、ちょっと寂しいですね。それでも試合前練習から大きな声を出してチームを盛り上げていました。攻撃中も、イニング間のキャッチボールも、抑えて戻ってきたピッチャーを迎える時も、また何度か組まれた円陣では笑顔でゲキを飛ばしたり。
そんな笑顔が延長13回で敗れた瞬間に消え、表情を歪めた阪口選手。整列したあとは何度か涙も拭っていました。試合後、ご家族とともに会った時はもう普段の哲ちゃんスマイルだったのですが「悔しいです。出たかった…」と繰り返すのみ。初めての都市対抗で、試合に出られず去ることも、そこに出られない自分自身にも悔しい思いがいっぱいだったと思われます。
ただし、小さい頃から勝っても負けても涙が出る子だったそうで「泣いてるから負けたのかと思ったら勝ったって。なんで泣いてるの?と言ったことがよくあります」と、お母さんは笑っておられました。わかる気がします。今回は昨年末に結婚した智美さんも「野球はよくわかっていないんです」と言いながら、ご両親とともに観戦。だから余計に出たかったでしょうね。
「来年も東京ドームへ来て、絶対に出ます!」。阪口選手の目標も一段と形があらわになったはずです。都市対抗の場合は開会式があるので、そこで「若竹さんと藤井さん(三菱重工神戸・高砂)には会えて、藤井さんと少し話もできた」と喜んでいました。そして「その前に京セラドームで絶対出ます!」と宣言。そうですね。秋の社会人日本選手権を楽しみにしています。
◆サヨナラ負けの三菱重工神戸・高砂
三菱重工神戸・高砂は20日、大会6日目の第3試合。つまり1回戦のラストゲームでした。この日、私は東京ドームではなく自宅でテレビ観戦だったのですが、なんと前日のパナソニックに続いて延長タイブレークまでもつれ込んでいます。カナフレックスから補強の、もと阪神・藤井宏政選手は7番サードで先発出場しました。
藤井選手の、補強が決まってからチームに合流するまでの話はこちらでご覧いただけます。<もと阪神・藤井宏政内野手が補強選手で都市対抗に―「いいところで打ちたい!」>
7月20日 第3試合
(神戸市、高砂市) vs (日立市)
三菱重工神戸高砂-日立製作所
三菱 000 020 000 001 =3
日立 000 011 000 002x=4
※延長12回、タイブレーク
先制したのは三菱重工神戸・高砂。5回に先頭の藤井選手がショートの捕球エラーで出て、代走を送られます。そのあと犠打と死球で1死一、二塁として1番の石上選手が右中間へ2点タイムリー二塁打!先発のエース・守安投手はその裏、1死三塁で犠飛を許して1点。6回は4番・菅野選手の左中間タイムリー二塁打で同点。
延長戦に入り、10回も11回も両チーム無得点で、ついにタイブレークへ。ともに4番からの打順を選択しています。三菱は12回、日立製作所の荻野投手(もとロッテ)から4番・久保田選手(新日鐵住金広畑からの補強)が左前タイムリー!二塁走者もホームを狙いますが、ここはタッチアウトで1点のみです。
その裏も続投の守安投手は、まず4番を空振り三振で2死とするも5番の中村良選手に右前タイムリー。2人が還って日立製作所がサヨナラ勝ち。守安投手が完投したため、若竹竜士投手の出番はありませんでした。
相手応援団の多さに圧倒された!
藤井宏政選手は1打席目が2回1死ランナーなしで右邪飛、2打席目が前に書いた通り5回の先頭でショートゴロエラーです。ここで代走が送られベンチに下がっていますが、先制点につながったことは何よりでしたね。守備で直接の捕球はなく、4回2死一塁で右前打された時にライト・那賀選手からの素晴らしい送球を受け三塁でタッチアウトにしたところだけです。
初めての都市対抗、感想を聞いてみたら「最初は緊張したけど、楽しかったです」とのこと。緊張した?「試合に出てから緊張しました。すごい人だったんで」と言います。人って、お客さんでしょう?「はい。(相手の)日立の応援が25000人ですよ!スタンドの半分。すごかった。しかもオレンジ色だったから巨人戦みたいでした(笑)」。平日でそれは確かにすごい。なるほど、巨人戦ってのはわかりやすいですね。
東京ドームも初体験で、本番前に練習もあり「試合がナイターだったので大丈夫でした。昼間だと打球が見えにくいって聞いていたんですけど」と藤井選手。打席では「1打席目はまだ緊張していたので、とりあえず初球は振っとこうと思った」とか。しっかり振っていました。それで何とか落ち着けたのでしょう。2打席目の5回でベンチに下がったあとは、必死に応援していたそうです。延長12回(タイブレーク)に1点取って、その裏に「あと1人までいったんで、勝ったと思いましたねえ」と。
本当に残念でしたが、1次予選敗退のチームからの補強で、しかも先発出場した藤井選手。得たものは多いはず。同僚の大西健太投手が補強されたNTT西日本も1回戦敗退で、大西投手は登板機会なし。投げたかったと話していたそうです。2人とも、来年は補強でなくカナフレックスとして東京ドームの都市対抗に出場したいと、決意を新たにしたでしょう。
昨秋に出場した日本選手権とは「全然違いますね。お客さんの数も全然。いい経験になった」と振り返る藤井選手。確かに京セラドームで外野まで埋めつくす応援団はなかったと思います。じゃあ来年の都市対抗はもう大丈夫?「はい。あれ以上、人が多いことはもうないので(笑)」。よっぽど圧倒されたんですね。その前に日本選手権で。「ことしは(去年に比べて近畿の)枠が少ないんで、何とか出られるよう頑張ります」。また、いいクジを引いてください。梁川マネージャー!