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スーパーGT富士テストも急遽中止に。遠ざかるエキゾーストノートが聞けるのはいつの日か?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
富士スピードウェイから見た富士山

世界的な感染拡大となっている新型コロナウィルスの影響は、ついに無観客開催が決定していた国内の人気レース「SUPER GT」の富士スピードウェイにおける合同テスト(3月28日、29日実施)をも中止に追いやってしまった。

国内の感染者数は3月26日(木)時点で1387人となり、首都・東京での感染拡大が懸念される中、東京都はもちろん富士スピードウェイがある静岡県も不要不急の活動自粛を要請していた。

無観客でもテスト走行中止

国内屈指の人気レースである「SUPER GT」は岡山国際サーキットの合同テスト(3月14日〜15日)を関係者のみ入場可の「無観客開催」で実施。今回の富士スピードウェイでの合同テスト(3月28日〜29日)も同じく無観客での開催を予定していた。

(SUPER GT 2020年プロモーションビデオ)

しかし、その直前の3月27日にGTアソシエイションからテスト走行の中止がアナウンスされた。

(SUPER GT公式ツイッター)

観客を入れずに開催するテスト走行なら実施しても良さそうな気がするが、今やF1に代表される世界中のモータースポーツは中止または延期に追い込まれ、完全に活動停止状態にある。

日本国内でも「SUPER GT」の開幕戦(岡山国際サーキット/4月12日決勝)の延期が3月18日に決定し、「スーパーフォーミュラ」は開幕戦(鈴鹿サーキット/4月5日決勝)、第2戦(富士スピードウェイ/4月19日決勝)が延期されることになっていた。

3月27日時点で、「SUPER GT」は5月4日決勝の富士スピードウェイでのレース、「スーパーフォーミュラ」は5月17日決勝のオートポリス(大分県)が今のところ開幕レースとなる予定だが、コロナウィルスの感染者数の増加が続く中での判断は難しく、タイムリミットが近づいてきている。

なお、5月末の開催となる「SUPER GT」第3戦・鈴鹿サーキット(5月31日決勝)のチケットは当初3月29日に発売予定だったが、4月5日に変更。しかし、3月27日にチケットの発売を見合わすことが発表された。

国内でのレース開催は現時点では5月も見通せなくなってきたということだ。

(鈴鹿サーキットのツイッター)

テスト走行を行う意味

突然の中止発表となった今回の富士での合同テストだが、統括団体のGTアソシエイションは中止の理由を「東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、山梨県、静岡県など各地で発表された外出自粛要請および特定地域への訪問自粛要請等の状況を踏まえ、感染防止対策を強化する社会要請に応え中止することを決定いたしました」としている。

日本のレースでは選手や関係者は首都圏在住者が多い。外出を控えるように促されている中でのテスト走行はいくらクローズド環境での実施と言えども難しかった。

「SUPER GT」は国内の3大自動車メーカーが参戦するレースであり、影響力も大きい。そして、海外チームや外国人ドライバーも多く参戦している。芸能人やプロ野球選手などの有名人にもコロナウィルスの陽性反応が出ている今の社会情勢を鑑みても強行実施はできない現状にある。

本当にいつ開幕レースを迎えるのか全く不透明な状況だが、レーシングマシンという道具を使うモータースポーツでは事前のテスト走行は欠かせない。特に今年のSUPER GTではGT500クラスが新しい車両規定「クラス1」を導入したため、より多くの走行距離を走って準備を進めなければならないという事情があった。ホンダはNSXがクラス1規定に合わせ、エンジンレイアウトをミッドシップからFR(フロントエンジン・リヤ駆動)に変更した初年度だ。

GT500新規定ではドイツのBOSCH(ボッシュ)製のセンサーやエンジンコントロールユニットなどエレクトロニクスを含む共通コンポーネントが導入されている。冬の間に各メーカーはテスト走行をそれぞれ行ってきたものの、これまでの規定下と同様に各メーカーの勢力図が拮抗する接戦のレースにする為にも、合同テストでの走り込みは重要な意味を持つものだった。

五輪延期でスケジュール改訂が進むか

また、今年は東京五輪の自転車競技が富士スピードウェイで開催される予定だったため、6月から9月にかけて、富士でのレース開催ができない予定になっていた。

このため、SUPER GTは例年1戦のみ開催の海外戦を2戦に増やし(タイとマレーシア)、変則的なスケジュールを組んでいた。しかし、新型コロナの感染拡大防止策として、政府が全世界を対象とした危険情報をレベル2(不要不急の渡航は止めてください)に変更したことで、海外戦の開催に影響が出る可能性は否定できない。

過去、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行していた2003年には、当時の全日本GT選手権(現・SUPER GT)のマレーシア戦が中止され、富士スピードウェイで代替開催されたことがあるが、海外渡航が難しいとなれば、国内でのレース開催が検討されることになるだろう。

【SUPER GT 2020年スケジュール】

Rd.1 岡山国際サーキット(4/12決勝)延期

Rd.2 富士スピードウェイ(5/4決勝)

Rd.3 鈴鹿サーキット (5/31決勝)

Rd.4 ブリーラム(タイ)(7/5決勝)

Rd.5 セパン(マレーシア)(7/18決勝)

Rd.6 スポーツランド菅生 (9/13決勝)

Rd.7 オートポリス (10/25決勝)

Rd.8 ツインリンクもてぎ (11/8決勝)

【スーパーフォーミュラ 2020年スケジュール】

Rd.1 鈴鹿サーキット(4/5決勝)延期

Rd.2 富士スピードウェイ (4/19決勝)延期

Rd.3 オートポリス (5/17決勝)

Rd.4 スポーツランド菅生 (6/21決勝)

Rd.5 ツインリンクもてぎ (8/30決勝)

Rd.6 岡山国際サーキット (9/27決勝)

Rd.7 鈴鹿サーキット (11/15決勝)

東京五輪の延期が決まり、富士スピードウェイのコースは夏の間空くことになるので、すでに延期で代替日程が未定の国内レースは選択肢に含めたスケジュール調整が行われると考えられる。

ただ、全ての調整は新型コロナウィルスの感染拡大が世界的に終息に向かうかどうかにかかっており、F1などの世界選手権との日程調整を含めて全く何も見えてきていない。状況は日々変わり、あまりにも複雑だ。

シーズン開幕を心待ちにしているファンにとってもフラストレーションが溜まる春になってしまっているが、プロ野球の開幕も不透明、Jリーグは5月上旬の再開を目指すと報道されている中で、いくら屋外スポーツのモータースポーツと言えども今は為す術なし。割り切って終息の日を待つしかない。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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