ママ・パパ世代を揺さぶった2022年の子供の水難事故 年齢によって注意すべきことは #日本のモヤモヤ
2022年8月に富山県にて2歳男児が、9月に千葉県の小1女児が行方不明となり、いずれも後日遺体で発見されました。目撃者に乏しく、子供の単独行動が悲しい結末となり、特にママ・パパ世代を揺さぶりました。事故を未然に防ぐため、注意すべきことはあるのでしょうか。
今年の小さなお子さんの単独行動の水難
このうち、広島県、富山県、千葉県の行方不明事案については、テレビや新聞などが総力を挙げて大々的に報道したため、記憶にある方が多いかと思います。
いずれも子供の単独行動がきっかけとなり、目撃者に乏しくて途中経過がわからず、最終的に悲しい結末となり報道が終わるのですが、その間、事故か事件かよくわからず、特にママ・パパ世代を中心に動揺が走り、そして様々な憶測が流れました。
一昔前の日本だと、このような水難は神隠しとかカッパの仕業とかにされて大騒ぎしたところですが、最近はこれら妖怪の仕業から一応切り離されました。しかしながら現代では、子供の行動によるもの(事故)か他人の介入によるものか(事件)、妖怪の仕業にできない分だけさらにモヤモヤが増幅し、社会が揺さぶられるわけです。
小学1年が単独行動の境界か?
中学生以下の子供の水難に特化すれば、単独行動だったか、複数行動だったかの境界線は、小学1年にあるようです。
まず、わが国の中学生以下の子供の水難について、警察庁が公開している水難の概況から図1のようにデータを抽出してみましょう。
この6年は毎年30人前後の犠牲者数で推移しています。でも、10年前に比べたら水難による子供の犠牲者数はほぼ半減していることがわかります。一昔前は数がもっと多かったのですが、家族で海水浴に出かけて子供が行方不明になる事故がだいぶ減り、その結果として近年の子供の水死が目立って減りました。
その一方で、用水路、ため池、川など、自宅周辺での水難については、近年でもコンスタントに発生しています。なぜかというと、家族に連れて行かれなくても水難は人の生活圏内で発生するものだからです。
例えば、2歳児は自宅の池や周辺の用水路で溺れますし、小学校入学前後で川やため池での事故が多くなります。特に子供同士となれば年上の子供に連れられることで、いっきに行動範囲が広がります。こうなると、自宅からだいぶ離れた隠れ家的な、大人の目が行き届きにくい場所での水難が発生することになります。
図2をご覧下さい。2012年から2022年にかけて発生した用水路での水難事故者の年齢分布です。新聞に公表された分だけを集計していますので、すべての事故を網羅しているわけではありません。それでも2歳児、3歳児の単独行動による事故がなんと多いことか。
「うちは高齢者ばかりだから、心配ない」とおっしゃるご家庭も、2歳、3歳のお孫さんが年末年始、お盆休みに遊びに来たら要注意です。この統計の中には、長期の休み中に祖父母の家に遊びに連れてこられたお孫さんが、その家の目の前の用水路に落ちて亡くなった例を筆頭に、悲しい事故がいくつか入っています。
では、自宅から少し離れることの多いため池の場合はどうでしょうか。図3をご覧ください。図2と同様に新聞等で公表された分だけの集計です。
こちらは複数行動をしている時の事故が圧倒的に多い。特に5歳、6歳、7歳は要注意の年齢です。お兄ちゃんやお姉ちゃんなど上級生に連れられて事故に遭うことが多い年齢です。小学校に入学し、交友関係が上の学年に向かって広がり、それとともに自分が今まで知らなかった世界に入り込んでしまう、ここに大きな課題があります。
子供の年齢によって注意すべきこと
ここまでの解析で、2歳、3歳は自宅付近の用水路での水難事故、5歳から7歳はため池での水難事故が多いことが理解できました。まさに子供の行動範囲、そしてきょうだいや友人関係が大きくかかわってきます。
2歳、3歳のお子さんの単独行動には保護者が最大限の注意を払うことを前提として、お子さんが万が一危ない行動をした時に溺れずに済む方法はあるのでしょうか。
1.”のぞき穴”をなくす
上述した事例のうち、水難B~Eが該当します。報道によれば、Bは保育園の園庭には植え込みに隙間があった(注)とされ、Eについても同様のことが指摘されています。Cでは自宅付近を流れる農業用水路があり、水路は近所の庭から一段低くなっており、水路に近づくことにより水路の中が見えるようになっていきます。Dでは河川敷の運動公園と川の間には草木が生えていて容易に川に近づくことができない中、所々でそれが途切れていて、一段低い川に近づくことができる箇所がありました。
水難事故、なんでもそうなのですが、人が水に落ちる所には必ず”のぞき穴”があります。のぞき穴がない完璧な壁になっていれば水に近づく理由がないのですが、やはり”のぞき穴”があれば、穴の向こうの世界をのぞくために、人はそこから危ない世界に近づくものです。
2.開口部にネットを張る
上述した事例のうち、水難CとEが該当します。フェンスには限界があります。人の立ち入りを完璧に防ぐためにはメンテナンスに相当な努力が必要になります。例えば経年劣化などでフェンスの途切れた箇所から子供が水辺に入り込んで溺れた例はこれまで枚挙にいとまがありません。「子供が入りやすくなっていた」として、溺水事故が民事訴訟に発展している例もあります。
それであれば特に小さなお子さんのいる家の付近では水路の開口部にネットを張る手があります。最近の樹脂ネットとして、丈夫で経年劣化に強いものが開発・販売されています。ネットを張ることで開口部をつぶし、どうやったって人が落ちないようにすれば、フェンスに比べて子供の事故防止には現実性があります。簡単な工事で費用もそれほどかかりません。
3.危険性を具体的に知らせる
上述した事例のうち、水難AとDが該当します。小学校入学前後では、特に小学生に対して「子供同士で水辺に遊びに行かない」を徹底します。でもそれは筆者も子供のころに散々聞きました。本当に心に響いたかというとそんなことはありませんでした。
例えば、次の記事にある動画を繰り返して子供たちに見せて、具体的になにが危ないのかをしっかり伝えると効果的です。
こういう動画を使うことによって、世の中には「どうしても助からないことがある」ということをしっかり伝えてください。事故を起こせば、お兄ちゃんでも、お姉ちゃんでも、そしてお父さん、お母さんでも助けることができないことがあると。
昔はカッパの仕業にされた
今年発生した富山県や千葉県の水難では、事件性を念頭に置いたインターネット上でのつぶやきが散見されました。警察庁の水難の統計がなぜ「水難事故の統計」ではないかというと、やはり水難には時々事件が付きまとうからです。
一昔前までは川の水難事故は妖怪、特にカッパの仕業にされていました。例えば”「河童が相撲を取りたがる」という伝承に関する研究”を参考に読んでみるとなかなか面白いです。”川辺で人を見つけると、やたらと相撲を取りたがり、そしてそのまま川に引きずり込もうとするというのである。” に至っては、水難学で読み解くと「こんな川、簡単に渡れるから、向こう岸にいくぞ!」という言い出しっぺがいて、川を渡る年長集団の後ろを幼い子供がついていく、という構図が目に浮かびます。
今も昔も「子供たちが自ら危険な川に向かう訳がない」と思い込み、現代なら「犯罪に巻き込まれたか」と騒ぐところですが、昔は犯罪者の代わりに「カッパ」を立てました。人の心理の根本は今も昔も同じです。
いろいろとモヤモヤのある水難ではありますが、今後の事故を減らすためにも現状をきちんと見据えて(犯罪の可能性は考えつつ)子供の行動に合わせた安全対策を年齢ごとに考えていく必要があります。
水難事故をなくすために、年齢ごとの行動(傾向)をしっかり把握すれば、できる対策が必ずあります。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
(注)この植え込みの隙間から園児が園庭の外に出たかどうかは、明らかになっていません。