サンタクロースは、一晩で子どもたちにプレゼントを配る! どうやっているのか、空想科学で考えてみた。
メリークリスマス! 空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今日の研究レポートは……。
クリスマス・イブの夜、サンタクロースが世界中の子どもたちにプレゼントを配る。
すばらしいことだが、実践するサンタクロースの身になってみると、これは大変な仕事だ。
真冬の夜、トナカイが牽引する吹きッさらしのソリに乗り込んで、子どものいる家を一軒一軒まわる。
しかも、赤い服と赤い帽子に白いひげ、袋を担ぎ、煙突からそっと入って、靴下のなかにプレゼントを入れる――など、様式も細かく定まっている。
これを滞りなく毎年毎年続けているサンタクロースは、あまりに偉大である。
彼に敬意を表しつつ、その仕事っぷりを空想科学的に考えてみたい。
◆プレゼント代は2兆円!
そもそも世界には子どもが何人いるのだろうか。
総務省統計局のデータによれば、2020年の世界人口は77億9500万人。そして14歳までを「プレゼントがもらえる子ども」と仮定すれば、その人口は19億8400万人である。
ということは、サンタクロースはまず19億8400個のプレゼントを用意せねばならない。プレゼントの値段を1個千円とすると、総額は1兆9840億円! 高い。
そして、これを運ぶのにも苦労するだろう。プレゼント1個の重さを500gとすれば、総重量99万2千t! これを運ぶトナカイもたまったものではない。
さらに、子どもたち1人ひとりに配る必要がある。
それも、玄関でご両親に渡せばよいのではなく、寝ている子どもたちの枕元にそ~っと置いていかなければならない。これがいちばん難しい。年も押し詰まった夜半、他人の居宅にどうやって侵入するのか。
サンタクロースの出入り口といえば、煙突と決まっているが、それは家々に暖炉のあった古いヨーロッパだからこそ。
だからといって、まさかサンタクロースが窓ガラスに吸盤を貼り、ガラスを丸く切ってパカッと外し……というわけにはいくまい。
長短さまざまな針金をドアの鍵穴に差し込んだりしたら、間違いなく逮捕され、大事なクリスマスの晩を留置所で過ごすことになる。最悪だ。
◆地獄のクリスマス!
サンタクロースがどうやって各家庭に侵入しているのか、筆者にはわからない。
そこで、その問題はどうにかクリアされたとして、サンタクロースが一晩で世界中にプレゼントを配る方法を考えたい。
話をシンプルにするために、ここからは配る人数を20億人と考えることにしよう。
まず、彼に与えられた時間はどれくらいなのか。
子どもが確実に寝ている時間を考えると、サンタクロースが活動できるのは、12月24日の午後10時から25日の午前5時くらいまでだろう。
単純計算すると、わずか7時間だ。
しかし、地球各地には時差があるから、西へ西へと進んでいけば、時刻を遡ることができる。
日付変更線のすぐ西、キリバス共和国のライン諸島が24日の午後10時を迎えるとき、日付変更線の東にあるサモア独立国は23日の午後9時。そのサモアが25日の午前5時を迎えるのは、32時間後のことである。
つまりサンタクロースは、地球を西へ西へと進みながら、32時間かけてプレゼントを配ればよいことになる。
そして、世界の陸地の面積は1億5千万km²。
砂漠や森林、農地や工業用地を除く総面積の5%に人家が広がっているとし、子どものいる家に14歳以下の子どもが平均2人いるとしたら、訪ねるべき家は10億軒。これらが前述の面積に均等に散らばっているとすると、家々の平均間隔は77mとなる。
すると、トナカイが走る総延長距離は7700万km。これを32時間で走破するスピードとは、マッハ1960だ! すごいぞトナカイ!
こうなると、もう一軒一軒の家に入り、子どもたちの枕元にソッとプレゼントを……などという悠長なことはしていられないだろう。
ソリに乗ったまま、子どもたちの寝室の窓に向かってプレゼントをビュンビュン投げるしかない。
そんなコトをすると、どうなるか?
現在サンタクロースはマッハ1960で高速移動中。ということは、プレゼントもマッハ1960で運動しているのだから、そんなモノをブン投げたら、その速度のままガラスを突き破り、部屋の壁や床に激突する。
プレゼントの重量が500gなら爆薬26t分の破壊力となり、要するに家が大爆烈! 犠牲者続出、街は騒然、心待ちにしていたクリスマスは、阿鼻叫喚の地獄絵と化す……。
◆サンタクロースがいっぱい!
待て待て。こんなヘンな話になったのでは、全世界の子どもに申し訳ない。
そうなるのは、サンタクロースが1人しかいないと考えたからであり、ここからは発想を変えて、サンタクロースが複数人いると考えよう。
調べてみると、フィンランドにはサンタクロースたちが住むコルヴァトゥントゥリ山があるという。
毎年12月24日の晩には、ここから何人ものサンタクロースが飛び立ち、海を越え、山を越えて、子どもたちにプレゼントを配っているに違いない。
その場合、何人のサンタクロースがいればいいのだろうか?
仮に1時間に10軒ずつ訪れ、平均2人の子どもにプレゼントを渡すと考えよう。
時差が使えないので、活動時間は夜10時から朝5時までの7時間。この条件下で必要なサンタクロースの人数を計算すると、なんと1400万人!
フィンランドの人口は550万人だから、全国民がサンタクロースになっても足りない。
だったら、サンタクロースは世界各国にいると考えるべきなのだろう。
もちろん日本にもいて、普段は別の仕事をしているが、12月24日の夜になると、サンタクロースに変身する……に違いない。
その場合、わが国には何人のサンタクロースが潜んでいるのか。
日本の14歳以下の人口は2021年の確定値で1485万人だから、すると日本のサンタクロースは10万6千人。
なんと、国民の千人に1人がサンタクロース!
地域別に見ると、人口の最も多い東京都には、1万1700人のサンタクロースがいることになる。収容人数1万3千人の武道館を満席近くにする大軍勢だ。
1日に350万人が乗降する新宿駅では、毎朝2942人のサンタクロースが人波にもまれている計算になる。
また、人口最少の鳥取県でも467人。筆者の故郷、種子島にさえ23人。そんなにいるなら、知人に1人ぐらいはサンタクロースかも……。
世の中サンタさんだらけですなあ。
子どもたちに夢を運ぶ人がこんなに大勢いるとはすばらしい。
――そんなふうに夢が広がる12月24日である。皆さんも、よいクリスマスを!