年6万8千円の食費増 年6万円の食品ロス減らせば相殺可能
値上げによる家計負担は年間68,760円
2022年9月22日、帝国データバンクは、食品の値上げによる家計負担は、年間68,760円になると発表した(1)。
2022年9月7日付の日本経済新聞には、2022年度の世帯あたりの食料品への支出額は対前年で36,000円増えるとする、日本総合研究所の試算が出ている(2)。
日経の記事は、
京都市が推計した年間5万6000円(19年度)という世帯あたりの食品ロスの金額と照らし合わせると、ロスを6割ほど減らせば、物価高を相殺できるのではないかということだ
としている。
家庭の食品ロスは年間60,000円
一方、一世帯が排出する食品ロスは、金額に換算すると、年間56,000円。これに年間の処理費4,000円を加算すると、一世帯あたり年間60,000円に相当する(3)。
ただし、これは、日本の政令指定都市の中で、家庭ごみが最も少ない京都市のデータだ。京都市は、人口50万人以上の自治体の中でも、1人1日あたりのごみ排出量が最も少ない。
京都市は、2000年に年間82万トンあったごみ量を、2019年には41万トンと、半減させた。いわば、ごみ削減と食品ロス削減における、自治体のロールモデルといえる。拙著『賞味期限のウソ』(幻冬舎新書)でも、京都市の360度方向の取り組みについて9ページを割いて解説した。
そんな優等生の京都市ですら、年間60,000円分、食品ロスを出している。ということは、他の自治体では、もっと多い金額に相当する食品ロスを家庭から出しているということになる。
食品ロス6万円を捨てなければ値上げ分を相殺可能
前述の日経の記事でも述べられているように、これまで捨てていた食品ロスの分を捨てないようにすれば、価格高の分を吸収できる可能性がある。
2022年9月24日付、愛媛新聞の社説「食品ロス 物価高を契機に意識を変えよう」では、
レジ袋の有料化でエコバッグの持参が一般化したように、現在の物価高を行動変容の契機と捉え、食品ロスを抑えるだけでなく、家計の節約にもつながる消費行動を習慣付けたい。
と提唱している(4)。
2022年10月1日に放送されたNHKサタデーウォッチ9(5)では、
との内容が特集された。
デンマークのメディア「食品ロス削減が値上げに対抗する解決手段」
2022年4月、かつて取材したデンマークの魚屋HAV(ハヴ)のTommy(トミー)さんをオンラインで取材した(6)。
トミーさんに、日本の食品値上げについて伝え、デンマークの状況を聞いたところ、次のように話した。
メディアでも、食料の値段が上がって手に入らなくなると言われています。ガソリンの値段が上がると、小麦やバターの値段が上がる、生活必需品の不足や価格上昇が見られます。消費者は、高過ぎて手に入れられません。ですので、「食品ロスをなくして全部使う」ことが解決法の1つとして大きく取り上げられています。今は時世も食品ロス問題に注目してきています。時のタイミングが、食品ロス削減を後押ししています。食料を全部使わないと消費者にとって高過ぎて手に入らない、食せないことになってしまうからです。
メディアは「値上げ」だけでなく「食品ロス削減」と併せて報道を
値上げに関する報道は、ここ1、2ヶ月でもよく目にするようになった。だが、食品ロス削減の提唱とあわせて報じるメディアはまだ少ないように思う。
日本最大のビジネスデータベースサービス「G-Search」(7)で調べたところ、「値上げ」と「食品ロス」の両方のキーワードを含めて報じたのは、この1ヶ月間で20件だった(2022年9月1日〜2022年10月2日)。
「食品ロス」と「物価高」を同時に報じたのも29件のみだった(G-search, 2022年9月1日〜10月2日)。
食料品の値上げに対抗するには、収入を増やすか、支出を減らすかしかないように見える。でも、すくなくとも年間60,000円以上も食品を捨てているのであれば、それをなくすことで、値上げ分をすこしでも吸収できるのではないだろうか。
メディアが値上げのことを報じるときには、値上げで困る側面だけを報じるだけでなく、解決策の1つとして「食品ロスを減らす」ことについてもぜひ触れていただきたい。
参考情報
1)相次ぐ食品の「値上げ」家計負担は年間 7 万円の増加と試算 ~ 低収入世帯で食品値上げの負担感がより強く発生~(株式会社帝国データバンク、2022/9/22)
2)食品ロス 6割減らせば物価高を吸収(日本経済新聞、2022/9/7)
4)食品ロス 物価高を契機に意識を変えよう(愛媛新聞、社説、2022/9/24)
6)「食品ロスなくして全部使う」のが生き物への礼儀であり食料危機の解決法 デンマーク八代目の魚屋語る(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/5/4)