子どものいじめと学級崩壊
被災地からの転校生に対するいじめ
先日、新潟県で小学校の先生が被災地から避難転校した生徒の名前に「菌」をつけて呼び、その生徒さんが不登校になったという出来事が起きました。その前には横浜市で生徒同士で被災地からの転校生をいじめた件が発覚しました。どちらも非常に悲しい事件で、生徒さんたちが何とか立ち直ってくれることを願います。
いじめの認知件数が2006年から増加
いじめは今年10月に文部科学省より認知件数速報が発表され、小中高における認知件数は22万4千件と前年度より3万6千件以上増加したということでした。生徒1,000人あたり16.4件(前年13.7件)と2割の上昇状況です。この調査によるいじめの数が報告されると「今まで言わなかったものを申告するようになったから増えた」と見る向きがあります。確かに「どこからがいじめか」という判断は難しいです。文部科学省は2006年にいじめ件数の呼称を「発生件数」から「認知件数」に改めました。結果、2005年には2万件であった発生件数は、2006年には12万件と6倍の認知件数になりました。「発生」の件数は起きたクラスの教員の「過失」の性格の強い数字ですが、「認知」は積極的に介入する「成果」としての性格を持つ数字になるので改めた、と聞きました。
2006年にはもうひとつ、「いじめの定義」についても見直しが行われました。
いじめの新旧定義の概略は、下記のとおりです。
<従来の定義>
「いじめ」は「1、自分より弱い者に対して一方的に、2、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、3、相手が深刻な苦痛を感じているもの」なお、起こった場所は学校の内外を問わない。
<新しい定義>
「いじめ」は「当該生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」とする。個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。
従来の定義によると「一方的で」「継続的で」「深刻な」状況ではないといじめではない、と判断されてしまい、それを教師の主観で判断してしまう傾向にあるので、上記のように改められた結果、2006年に前年の6倍の認知件数になったわけです。
2012年度に再び認知件数が増加
2006年に12万件の認知件数になったいじめは、2007年:10万件~2008年:8万件~2009年:7万件~2010年:8万件~2011年:7万件と微減傾向でしたが、2012年度に20万件に一気に跳ね上がります。これは2011年10月に発生した「大津市中2いじめ事件」をふまえて、各都道県で緊急調査がされたためです。実際に2012年度は4-9月の半年間で14万件と前年年間の2倍になり、結果年間の件数では20万件となりました。2013年には「いじめ防止対策推進法」が成立・施行されますが、その後もいじめの認知件数は高止まりし、2013年度:19万件~2014年度:19万件、そして2015年度は22万件に増加と発表された状況です。いじめは少なくとも「全く減っていない」と言ってよいと思います。
小学生で特に増加
2012年度から2015年度の動きの中で、注目すべきなのは小学生のいじめ認知件数の増加かもしれません。小学生1000人あたりのいじめ認知件数は下記のとおりです。
*( )内は中学生
2012年度:17.4件(17.8件)
2013年度:17.8件(15.6件)
2014年度:18.6件(15.0件)
2015年度:23.1件(17.1件)
中学生は減少/増加が一進一退ですが、小学生は一貫して増加し続けています。今回の被災地の生徒に対するいじめの件でも、新潟県は小学4年生、横浜の件は現在中学生ですが主にいじめにあったのは小学2年から5年生までであったと言われています。小学校でのいじめの環境は年々深刻化していると言えます。
いじめの要因にも課題
同じくいじめに関する調査で「その原因・動機は何だったのか?」という統計があります。これは警察庁の資料にありました。(出典:警察庁「少年の補導及び保護の概況」)
これを見るといじめの動機の第1位は「力が弱い・無抵抗」をいじめるものであり、近年ずっと最上位の理由であり、他の理由をさらに引き離す勢いです。過去には「生意気なやつ」や「一匹狼的な存在」の子どもが対象になるケースなども結構ありましたが、現代のいじめは「弱い者いじめ」の傾向がますます強まっているわけです。今回の被災地の生徒のケースもまさにそうでした。記憶に新しい2015年の「川崎事件(川崎市多摩川河川敷で当時中学1年生の男子がいじめられた上に殺害された事件)」でも逮捕された主犯格の少年は「弱い者いじめの常習犯」「強い人間には逆らえないが、年下の子分に威張っていた」と伝えられました。
小学校現場での気づき
このようにマクロ的に統計を見るだけでいくつかの示唆がありますが、
最近小学校現場を見ていて、ひとつの大きな気づきがあります。
それは「学級崩壊といじめが連動するケースが多い」ということです。
「学級崩壊といじめはコインの表と裏」なのです。学級崩壊が起き、クラスの雰囲気が荒れ始め、いじめの種が始まる。先生がクラスをグリップできていないので、結果としていじめが拡大していく。先生に生徒が相談しても先生も余裕がなく対応できない悪循環。実際に私の周囲でもいわゆる学級崩壊状態をよく見かけるようになりました。これもどこからが「崩壊」かは曖昧ですが、生徒が勝手気ままに教室を出ていく姿、授業中ずっとざわつく教室、「死」と書かれた大量の紙が貼られた黒板、次々と先生が心労でお休みに入る状況などを色々な小学校で見ました。このようなクラスの子が私たちの放課後の現場に来るときも心が荒れた状態であり、それがトラブルの種になることが極めて多いと感じています。
小学校の中で放課後のアフタースクールを開校している私たちもいじめ対応を頑張る当事者です。私たちの放課後の現場は概ね子ども10人に1人くらいは大人がおり、授業中の教室と比較して大人の数が多いので、子どもの関係性に気づきやすいのです。早期に発見してトラブルを回避したり、クラスとは違う人間関係で子どもたちのコミュニケーションを良くしたりすることができます。
子どもたちは何しろ「いいところを認めてもらいたい」と思っています。そして「僕を見て、私を見て」ということを全身から発信していると感じます。全ての子が認められ、弱い者をいじめることがなくなるようにこれからも小学校の現場で頑張り続けたいと思っています。