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大晦日に大切な家族を見送るということ 突然の交通事故で命奪われて…

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
突然の理不尽な事件や事故で絶たれる家族との平穏な時間をどう受け止めるか…(写真:イメージマート)

 年の瀬も押し迫った12月30日、以下の記事が目に留まりました。

「もう一度、会いたい」飲酒運転事故で二十歳の娘を亡くした遺族が明かす〝悔しさ〟…母が娘に宛てて綴る手紙(BSS山陰放送) - Yahoo!ニュース

 私も親しくさせていただいている島根県出雲市の江角さんご夫妻。24年前、大学生だった娘の真理子さん(当時20)を、飲酒運転による事故で突然奪われたご遺族としての思いが綴られています。

■飲酒の逆走事故で命を奪われた20歳の真理子さん

 事故が起こったのは、1999年12月26日の未明のことでした。この日、真理子さんは大学の友人とともにクリスマスイルミネーションを見るため出かけていました。その途中、鳥取県内のトンネルで逆走してきた飲酒運転の車に衝突され、被害者に乗っていた女子大生4人のうち3人の命が奪われたのです。

 母親の由利子さんは、記事の中でこうおっしゃっています。

「真理子へ。あの日から、やがて、24年。なぜ、二十歳で命を落とさねばならなかったのか……、もう一度、会いたい」

 真理子さんの実家である出雲市の仁照寺というお寺には、真理子さんの霊を慰めるため『交通安全観音』が建立されています。

●臨済宗妙心寺派 船子山仁照寺の交通安全観音 (mariko-inochi.com)

亡くなった真理子さんの供養として建立された交通安全観音。その表情には、真理子さんの面影があるという(遺族提供)
亡くなった真理子さんの供養として建立された交通安全観音。その表情には、真理子さんの面影があるという(遺族提供)

■12月26日という日に起こった悲惨な事故…

 実は、真理子さんが亡くなった12月26日は、医療過誤で亡くなった私の父(享年62)の命日です。

 クリスマスの季節は華やかで楽しいはずなのですが、1993年の冬、私たちは救命救急センターの待合室でどうすることもできず、辛い時間を過ごしていました。

 当時3才だった娘へのクリスマスプレゼントは、ディズニーの『美女と野獣』のビデオでした。この時期が巡ってくると、29年経った今も、今も心の奥底にあの日の緊張と悲しみが蘇ります。

●『父はなぜ、死ななければならなかったのか』(柳原三佳/別冊宝島)

 そして、13年前の年12月26日は、東京都大田区の田園調布で、幼い男の子2人と祖父母の4名が死傷する大きな事故が起こった日でもあります。

 待ちに待った冬休み、おじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに行くのを楽しみにしていたみっちゃんとはるちゃんという従兄弟同士の孫たちが、犬のお散歩に出かけた途中、ジグザグ運転をして歩道に乗り上げた暴走車にひかれて亡くなったのです。

事故時、唯一無傷だった柴犬のマイちゃん。黄色い手紙は、亡くなった2人の子どもたちが直前にマイちゃんに宛てて書いていたもの。事故から半年後に見つかった(筆者撮影)
事故時、唯一無傷だった柴犬のマイちゃん。黄色い手紙は、亡くなった2人の子どもたちが直前にマイちゃんに宛てて書いていたもの。事故から半年後に見つかった(筆者撮影)

 ご遺族からの連絡を受け、この事故を取材させていただくことになった私は、『柴犬マイちゃんへの手紙』という本を書かせていただきました(以下レビューです)。

●『柴犬マイちゃんへの手紙』 新刊超速レビュー - HONZ

 加害者は免許を取って間もない若い男でした。「同乗の友人たちを喜ばせるため」におこなったふざけた運転による悪質事故で、二人の孫を失い、ご自身も大けがを負われたご夫妻は、子どもの頃からの教育が何より大切だという思いから、児童書としてこの出来事を世に遺そうと決断されたのです。

 今月、この本を読んでくださったある交通事故のご遺族から、メールが届きました。

『柴犬マイちゃんへの手紙を拝読しました。祖父母さんと、息子さんたちの気持ちは、何と言っていいかわかりません。マイちゃんも口は聞けずとも、飼い主や、遊んでくれた友だちは忘れないんですね。
 すみません、なかなか上手く表現できません。
 クリスマスや冬休み、お正月といったイベントで家族や友だちと過ごす時間が多くなるこの時期は、私達遺族にとっては最悪の時間です。毎年のように、身勝手な運転者により、未来を奪われ、新たな悲しみが生まれます。ご遺族の気持ちを思うと胸がしめつけられます』

■目の前で家族の命を奪われるという恐ろしさ

 そして、田園調布の事故から13年目となった今年の12月26日、またしても痛ましい事故が起こりました。

 歩道を歩いていたお母さん(43)と小学1年生の女の子(6)が、整備工場からバックで飛び出してきた車にはねられ、お父さんとお姉ちゃんの目の前で亡くなったのです。

<杉並母娘死亡事故 車運転の整備士を送検 現場にブレーキ痕なし(日テレNEWS NNN) - Yahoo!ニュース>

 大切な家族が目の前で、一瞬にして命を奪われるという恐ろしさ……。楽しいクリスマスの翌日に、なぜこんな悲しい出来事が繰り返されるのか。

 翌27日、親しい友人から届いたLINEを見て、私はさらに驚きました。

 彼女はこの事故で亡くなった女性と、京都の小学校、中学校、高校時代の同級生で、一緒に東京へ出てからも親しくしていた友だちだったというのです。

 亡くなった女性は、イラストレーターとしての仕事をこなしながら、三姉妹の子育ても頑張っていたそうです。交通事故は、こんな素敵な5人家族の未来を、一瞬にして壊してしまいました。

 親友を失った彼女の声は、怒りと悲しみに震えていました。

 偶然とはいえ、12月26日という同じ日に、被害者にとっては不可抗力の理不尽な交通事故が全国各地で起こり続けてきました。

 そして私は、12月26日、父の命日を迎えるたびに思い出す悲しい事故がまたひとつ増えてしまいました。

 杉並で起こった母娘死亡事故、大晦日の今日、告別式が営まれるそうです。

 心よりお二人のご冥福をお祈りするとともに、こうした理不尽な事故が二度と起こらないよう、来年も微力ながら発信を続けていきたいと思っています。

写真:イメージマート

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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