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プレミア12 落日のキューバ、オリンピック出場に赤信号

阿佐智ベースボールジャーナリスト
プレミア12対豪州戦今のキューバには以前のような国際大会での圧倒的な力はない

 現在行われているプロ中心の野球の国際大会、プレミア12のオープニングラウンド・グループCでのキューバの敗退が決まった。キューバは、前回大会では予選リーグに当たる6か国によるオープニングラウンドは2位で通過、しかし、8か国による決勝トーナメントであるノックアウトステージの1回戦で優勝した韓国に2対7で敗れて、7位に終わっている。

必勝を誓ったボロート監督だったが。
必勝を誓ったボロート監督だったが。

 1勝1敗で迎えた8日、初戦でキューバに勝利を収めたカナダが第1試合でオーストラリアを下せばスーパーラウンド進出を決めることができたのだが、1対3で試合を落とし、この時点で敗退が決まった。キューバは第2試合で、日本行きの決まった地元・韓国に勝ちさえすれば、勝ち抜け、負ければ1勝2敗で並ぶことになるオーストラリア、カナダとの相互の対戦の失点率により敗退が決まるという条件となったが、0対7の惨敗で今大会の舞台から去ることになった。

カナダとの死闘を制した豪州
カナダとの死闘を制した豪州

2010年代に入って急速に勢いを失った「アマチュアの雄」

 かつて「アマチュアの雄」として、プロのいない国際大会では無敵を誇ったキューバ。トップ代表チームは、日本のプロ野球チーム以上の実力を誇り、メジャー球団とも対等に渡り合っていたが、2010年代に入ってその勢いを急速に落としている。メジャーリーガーも含めたトッププロ中心の国際大会、WBCにおいては、初回の2006年大会は決勝まで駒を進めたものの、2013年、2017年の最近2大会は、1次ラウンドで姿を消し、カリブ地域の覇権さえ、メジャーリーガーを多数輩出するドミニカ共和国に奪われたかのようである。とくに今大会は来年の東京オリンピックの予選を兼ね、北中米カリブ地域からの出場7か国中トップに立てば、その出場権を確保することができたのだが、オープニングラウンド敗退によりそれもなくなってしまった。

第1戦 カナダに零封される

カナダには元メジャーリーガーのマイケル・ソーンダースも参加した
カナダには元メジャーリーガーのマイケル・ソーンダースも参加した

 台湾でのグループBに1日遅れで、始まった韓国・ソウルでのグループC開幕戦。キューバは、高尺スカイドームでカナダと対戦した。大会が始まった時点で、キューバは世界ランク5位、カナダは10位だったが、カナダはメンバーの半数がこの夏銀メダルに輝いたパン・アメリカン大会にも出場。これに巨人で活躍したスコット・マシソン、オリンピックを前に現役復帰したメジャー1603安打のジャスティン・モルノー、メジャーリーグ・オールスター戦にも出場経験のあるマイケル・ソーンダースらが加わった。キューバは、ほぼ同じメンバーでこのパン・アメリカン大会を6位という屈辱的な結果に終わっている。

カルロス・ビエラ
カルロス・ビエラ

 キューバは先発のカルロス・ビエラが6回1アウトまで1失点と踏ん張ったが、8回に3番手でマウンドに立ったソフトバンクのリバン・モイネロが2失点。打線も3番ユリスベル・グラシアル、4番アルフレッド・デスパイネ(ともにソフトバンク)、5番フレデリク・セペダ(元巨人、サンクティ・スピリトゥス)のクリンナップが機能せず、カナダの先発、フィリップ・オーモント、9回からマウンドに立ったマシソンのリレーの前にホームを踏むことができず、0対3の完封負けを喫してしまった。

第2戦 延長で辛くもオーストラリアを制す

 第2戦は、11月7日にデーゲームで行われた。オーストラリアは先発のジョシュ・ガイヤー(シドニー)から、元メジャーリーガーで今シーズンをチェコ・リーグで送ったピーター・モイラン(ドラッシー・ブルーノ)、日本の独立リーグや台湾リーグでのプレー経験のあるライアン・サール(ブリスベン)とつないできたが、この3人からキューバは9回まで5回の2点しか取れず。一方で、投手陣も2番手のラサロ・ブランコ(グランマ)が6回に追いつかれ、8回には中日のライデル・マルチネス、9回からはモイネロを投入して、なんとかオーストラリア打線を封じこめる。

ラサロ・ブランコ
ラサロ・ブランコ

 そして10回裏、この回から登板した現在フィリーズの3Aでプレーするジョシュ・トルス(メルボルン)がランナーを残したまま1アウトも取れず降板すると、1アウト満塁からトルスをリリーフしたルーク・ウィルキンス(米独立シカゴ・ドッグス/シドニー)から、グラシアルがサヨナラ犠飛を放って辛くも今大会初勝利を挙げた。

サヨナラ犠飛を放つグラシアル
サヨナラ犠飛を放つグラシアル

第3戦 地元・韓国の大声援に押され惨敗

 勝利のみの背水の陣となったグループC最終戦。高尺ドームに詰めかけた満員の韓国ファンの熱気は、試合開始からフィールドに伝わった。韓国は2回裏、2アウト満塁から2番のキム・ハソン(キウム)の2点タイムリーで先制。5回には3本のタイムリーなどで4点を取り試合を決めた。

 一方のキューバは散発7安打で、期待されたベテランのセペダは結局、大会を通じて無安打に終わるなど、世代交代もままならない現状を象徴するような結果に終わった。

元巨人のセペダは結局無安打で大会を去ることになった
元巨人のセペダは結局無安打で大会を去ることになった

「赤い稲妻」はオリンピックの舞台に立つのだろうか

 南北アメリカ地域のオリンピック出場権については、この夏に行われた、パン・アメリカン大会でプレミア12に出場できなかった国々のうち上位2か国が、来年3月にアリゾナで行われるパン・アメリカ大陸最終予選の出場枠を確保することになっており、3位のニカラグアと4位のコロンビアがこれを確保した。ちなみにこの大会の金メダルはプエルトリコ、銀メダルはカナダだった。アメリカは出場せず、キューバは、ソフトバンクのグラシアル、モイネロなども招集したにもかかわらず、先述のニカラグア、コロンビア、そして国際大会にさして熱心でもないドミニカ共和国の後塵を拝して6位に終わっている。

 キューバの東京オリンピックへの道はまだ閉ざされたわけではなく、1枠を争うこのパン・アメリカ大陸予選、そしてこの予選を逃したとしても、3位までに入れば、その後のインターコンチネンタル予選で最後の1枠を確保する可能性もあるが、プレミア12での戦いぶりやパン・アメリカン大会の結果を考えると、パン・アメリカ大陸予選の突破は難しいと考えるのが妥当だろう。なにしろこの予選には、プレミアで出場権確保がならなかった場合、「本拠」・アリゾナという地の利を生かして「本命」・アメリカがシーズンを前にしたメジャー40人枠を狙うマイナーの精鋭を集めて参加してくる。また、仮に最終のインターコンチネンタル予選に回った場合でも、現状を見ると、オランダをはじめとする世界の強豪相手にここを勝ち抜くことができるのかははなはだ疑問である。

 しかし、キューバのいないオリンピックなど世界中の野球ファンには考えられない。東京に「赤い稲妻」の雄姿が戻ってくることを我々は心待ちにしている。

(写真はすべてWBSC提供)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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