旬の柿を練り切りで「鈴懸」さんの照柿で味わう濃厚な干し柿入り餡とこし餡ふたつをじっくりと
豊穣の秋と申しますように、春の嵐や夏の酷暑を乗り越えて、色彩豊かな収穫の季節を迎える賑やかな季節。土の下からも木の上からも、あちこちから届く旬の味覚が店頭にならびはじめる今日この頃。
さて、今年2023年に創業100年目を迎え、ますます美味しい和菓子作りに磨きがかかっている「鈴懸」さん。福岡県を中心に、都内や名古屋でも「鈴懸さんの限定品は必ず購入します」という根強いファンも多いお店です。
鈴懸さんでは福岡県や九州の特産品を活かした和菓子が店頭に行儀よく整列し、豊富なラインナップに目移りしてしまうほど。箱入りのご贈答品から生菓子まで勢ぞろい!その中でも人気の和菓子が、その月ごとの生菓子。今回はその中から、「照柿」と「甘芋」をご紹介。
練り切り製の「照柿」は、白小豆のこしあんに刻んだ干し柿をたっぷりと加えた上生菓子。あえて紅色と橙色をまだらにし、ヘタのみ本物を使用することにより、今まさに収穫してきましたといわんばかりの生命力が溢れているような気がします。透明な錦玉を纏うことで、柿の皮特有のツルンとした艶やかさも表現。
寒風にさらすだけで糖度が2倍以上にもなるという柿の甘味、旨味、仄かな渋みが口いっぱいに広がり、目だけではなく舌の上でも秋真っ盛りに。白小豆のこしあんや皮むきこし餡をあわせることにより、一般的な白手亡豆や小豆こし餡よりも滋味深く他の素材の輪郭をくっきりと縁取ってくれるような構成。また、干し柿は刻まれているにも関わらず、練り切り餡や中の餡玉とはまた異なるねっとりとした食感を生み出し、歯ごたえとはまた異なる濃厚な二重奏に。
「甘芋」には、さつまいもの産地としても有名な宮崎県大束産のさつまいもを使用しているとのこと。大束産のさつまいもの多くは、ほくほくとした食感が特徴だそうです。
バターや卵、さつまいもが織り成す甘美な芳香は、どこか背徳感さえも漂っていると思うのは私だけでしょうか。ほのかな焼き色も食欲をぐっと掻き立ててくれます。
しっとりと湿潤な和のスイートポテトは、確かに乳脂肪分を纏っているもののあくまでさらりとさりげなく。とはいえあっさりしすぎておらず、コクをのこしたまま白餡とさつまいも双方の甘味へとバトンタッチ。濃厚かつ奥行きのある豊かな味わいです。また、こちらのさつまいもの特徴のひとつでもあるほくほくとした食感は、裏ごしされてもなお完全に損なわれておらず、ほろりと引き際の良い口溶けも印象的です。
手のひらサイズの小さい秋には、大きな満足感がぎゅっと詰まっていました。