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ケレメ取締役の元日本代表FW大津祐樹が語る「Jリーガーが経営者になったらプレーが向上した理由」

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
プロ15年目の大津祐樹は経営者の顔を持ちながら、まだまだ成長を続けている(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 現役Jリーガーでありつつ、サッカーシューズなどを手がけるスポーツブランド「KELME(ケレメ)」の取締役を今年から務めている元日本代表FW大津祐樹(ジュビロ磐田)が、プロ15年目の今季、充実のパフォーマンスを見せている。

 現在32歳。2年ぶりのJ1リーグでのプレーで、ここまでリーグ戦全16試合に出場(先発8試合、途中出場8試合)し、チーム2位タイの3得点を決め、15位と苦しむ磐田の中で気を吐いている。大津がゴールを決めた試合はいずれも勝利。献身的なプレーも光っている。

 確かな存在感を保っている理由はどこにあるのか。

今季既に3得点を挙げている大津祐樹
今季既に3得点を挙げている大津祐樹写真:YUTAKA/アフロスポーツ

■“社員”と“経営者”の視点を持っているメリット

「サッカーだけやっていた頃と比べて、ビジネスを始めてからサッカーの見え方も変わった」

 大津はそう語る。

 Jリーガーは個人事業主としてクラブと業務委託契約を結んでいるが、大津の考え方としては「僕自身はジュビロから雇われている“社員”のイメージ」だという。

 一方で、大津は欧州から帰国して柏レイソルに復帰した2015年からサッカースクールの経営をスタートさせ、その頃からだんだんと経営目線を持つようになった。2019年にはサッカーなどのスポーツとアスリートを支援する株式会社ASSISTを設立して代表取締役社長CEOに就任。この2年半で事業は拡大し、社員は増えた。もはやバリバリの経営者でもある。二つの立場を経験中の大津はこのように言う。

「以前は“社員側”の気持ちしか知らず、わがままな行動をしたこともあったと思う。けれども自分が経営を始めたことで、チーム側からの視点を持てるようになったし、経営側が社員をどう見ているかも分かる。それによって、サッカー選手としてチームにとって必要な行動、チームにとってプラスになることが何であるかが見えてくる。会社経営を始めてから以前よりも増してチームのことを考えられるようになった。選手の気持ち、監督の気持ち、強化部の気持ち、チーム全体が分かるようになった」

スーツを着ると途端に若き経営者の顔になる(写真:大津祐樹提供)
スーツを着ると途端に若き経営者の顔になる(写真:大津祐樹提供)

■会社経営とサッカーの共通点

 大津によれば、使われる側と使う側の両方を同時にやっていることにもメリットがあるという。

「チームメートの気持ちに寄り添いながら『チームがこう考えている』ということを周りの選手に伝え、共有させられる。チームのために頑張ろうよ、会社のために頑張ろうよというムーブメントをつくれる」

 経営をしていて感じていることがある。

「チームのために社員が頑張れるのがベストであり、そういう働きを社員がしてくれる時が、会社が一番伸びる時だと思う。それはサッカーに置き換えると、チームが強くなること。会社経営もサッカーも全部つながっている」

 経営者になる以前は自分を輝かせることにフォーカスすることが多く、行動ひとつを取っても、自分の捉え方とチームの捉え方に行き違いが生じることもあった。しかし、今は違う。

「自分で良いと考えてやっていたことが会社にとってメリットじゃなかったり、会社側としては『ありがとう』という動き方ではなかったりしたのを感じ取れるようになった。こういう“気づき”も、ビジネスを始める前はないことだった」

 幅広い視座から物事が見えるようになったことが、サッカー選手としての大津を成長させることにつながっているというのだ。

「年齢を考えても、こうやって成長させていただいているのは、ビジネスを始めたことでいろいろな視点を持てることがプラスを生んでいるからだと思う」

アマチュアチームの中にはコロナ禍で苦しんでいるチームも多くある。割安な価格でユニホームやスパイクを提供することでコスト削減を実現し、浮いたお金を強化費に回すなどしてほしいという(写真:大津祐樹提供)
アマチュアチームの中にはコロナ禍で苦しんでいるチームも多くある。割安な価格でユニホームやスパイクを提供することでコスト削減を実現し、浮いたお金を強化費に回すなどしてほしいという(写真:大津祐樹提供)

■経営者としての新戦略「KELME 100チームサポートプロジェクト」

 そんな大津が「KELME(ケレメ)」の取締役に就任したのは今年2月のことだった。ケレメはスペインのブランドで、リーガエスパニョーラのアラベスとエスパニョールのユニホームサプライヤー。

「新しいことに挑戦するのが好き」という大津は、ケレメから経営に携わってほしいとのオファーを受け、取締役就任を決断した。そして、このほど自ら企画・立案した「KELME 100チームサポートプロジェクト」という、全国のアマチュアサッカーチームを支援するプロジェクトを新戦略として打ち出した。

「具体的には、ケレメのユニホームやスパイクを割安で提供し、クラブのコスト削減を手助けする。プロサッカーチームのようにチームのウェブサイトにケレメのバナーを使用することができる。そうすることで、そのチームのブランド力向上やPRをサポートする。ケレメ自体もこのプロジェクトを通して多くの人に知ってもらう良い機会になる」

 大津は企画の意図をそう説明する。対象は小中高や社会人までのアマチュア100チーム。

「僕自身もアマチュアチームからプロになっている。いずれはケレメがサポートしたチームからプロサッカー選手が誕生することを期待しているので、少しでも手助けになりたい」

 大津自身、今季からケレメのシューズを履いてプレーしており、3得点と結果を残している。

「スパイクはアッパーにカーフレザーを使っていて、クオリティがすごく良い。履きやすいし、プレーしやすいので、コンディションが良いのはスパイクのお陰。それは間違いない」

 製品の良さを自分のプレーで証明できるのも現役Jリーガーの強みだ。

 大津の胸には「サッカー、スポーツを盛り上げたい」という考えが軸としてある。選手としてはプレーで示す。経営者としては社会貢献という示し方もある。

「会社経営をしていて思うのは、会社の仲間も家族のようだということ。この社員のために頑張ろうというモチベーションを、社員が僕に与えてくれているからこそ、お互いに向上心を持てるし、良い関係になっている。社員を自分の子供と同じように大切にしなきゃいけない、だから自分自身もきちんとしていなくてはいけないという責任感にもつながる。守るものが多くなると、より頑張らないといけない。会社で経験していることはサッカーにも生きている」

「会社で経験していることはサッカーにも生きている」と語る
「会社で経験していることはサッカーにも生きている」と語る写真:YUTAKA/アフロスポーツ

■磐田は現在15位。「どんどん勝ち点を増やしていきたい」

 磐田は現在15位。「僕らは昨年J2で優勝してJ1に復帰した。J1でビリの状態からシーズンに入って、少しでも上の順位にいけるようにと思ってプレーしているが、ジュビロは残留争いするようなチームではないとも思っている。J1のレベルは簡単じゃないが、後半戦はどんどん勝ち点を増やしていきたい」

 成長も挑戦も、スピードを緩めるつもりはまったくない。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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