マツコ・デラックス氏と有吉弘行氏による小学校の給食に対する指摘はなぜ間違っているのか?
マツコ氏と有吉氏による学校給食への指摘
日本で教育を受けてきた方なら、給食を体験したことがあるのではないでしょうか。
少し前になりますが、マツコ・デラックス氏と有吉弘行氏が出演するテレビ朝日「マツコ&有吉 かりそめ天国」で学校給食を取り上げていました。
・マツコ&有吉、学校給食へ提言「量は各々違っていい」「嫌いなもの無理して食べさせないで」/スポニチ
・有吉&マツコ、給食に悩む小学生女児に力強い助言 「先生がおかしい」/Sirabee
小学2年生の女子が、先生から給食のデザートは最後に食べなさいと指示されたところ、「食べたい時に食べたい」といいました。マツコ氏は「西洋料理のマナーを勉強させたいのかね?」、有吉氏は「給食なんてバイキングと一緒なんだから、好きに食べりゃいいんだよ」と指摘します。
マツコ氏は「お腹いっぱいにさせないためかな?」「だったら1品1品出しなさいよ」、有吉氏は「もうデザート隠しとけよ!食べた者にだけあげればいい」とも言及。さらに有吉氏は「量も各々違っていいんだよね」、マツコ氏は「嫌いなものを無理して食べさせるのは良くない、あれみんなトラウマになってるから」といいます。
影響力のある2人であるだけに、これらの発言が気になっていましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大していたこともあって、記事を書くタイミングを逸していました。
2人が述べた学校給食への指摘について考察していきたいと思います。
学校給食とは
まず学校給食とは何でしょうか。学校給食は学校給食法によって定められています。
学校給食法の目的については以下の通り。
簡単にまとめると、学校給食法の目的は、学校給食を拡充したり、学校における食育を推進したりすることです。
学校給食の目標については、次のように述べられています。
7つの項目がありますが、かいつまんで説明すれば、学校給食の目標は、栄養をとること、望ましい食習慣を養うこと、学校生活を楽しくすること、食文化やつくり手について学ぶことが挙げられるでしょう。
学校給食法をもとにして、マツコ氏と有吉氏の発言を振り返ってみます。
デザートの順番
先生から給食のデザートは最後に食べなさいと指示されたことに対して、マツコ氏は「西洋料理のマナーを勉強させたいのかね?」と述べました。
西洋料理でも日本料理でも、最後にデザートが供されるのが基本です。イタリア料理やフランス料理では、基本的に料理に砂糖が使われません。その代わり、最後に砂糖をたっぷりと用いた甘いデザートが提供されるのです。
日本料理では、料理に砂糖が使われることもあって、最後は水菓子などの軽い甘味の果物などが提供されます。西洋料理と同じようにコースの途中でデザートが提供されることはありません。
中国料理であっても同様。最後になって杏仁豆腐やマンゴープリン、胡麻団子が提供されるのが普通です。
西洋料理ではなく、日本料理であっても中国料理であったとしても、デザートは最後に構成されるもの。したがって、最後にデザートを食べなさいという教師の指示は、西洋料理のマナーを学ばせるためではありません。
コースの流れ
もう少し掘り下げて、コースの流れについて考えてみましょう。
食事を食べる時の流れは、軽いものから重たいものへ、薄いものから濃いものへと提供されるのが基本。なぜならば、最初に重たいものや濃いものを食してしまうと、満腹感が高まってしまい、その後に食べるものがおいしく感じられなくなったり、食べられなくなったりしてしまうからです。
満腹感に大きな影響を与えるのが塩味、油脂、糖分になります。
デザートは当然のことながら、糖分が多い食べ物です。血糖値が高まると満腹中枢が刺激されてしまい、もう食べたくなくなってしまいます。したがって、学校給食で最初にデザートを食べてしまうと、重要な栄養素が含まれた他の料理を食べられなくなってしまう可能性が高いです。
幼児や小児におやつを食べさせすぎたせいで、夕食を食べなくなり、困った経験をもつ親は多いでしょう。そのため、子供に食事をとらせる前にデザートを与える親は多くありません。子供に糖分が多いデザートを最後に提供するのは、一般的な認識ではないでしょうか。
デザートの提供
デザートを最後に食べさせたいのであれば、有吉氏は「デザートを隠しておけばいい」、マツコ氏は「1品1品出せばいい」と言及しました。
ただ、時間的な余裕がなかったり、給食当番の負担が増えたりすることを鑑みると、生徒が大変になるだけなので対応するのは難しいでしょう。
特に1品ずつ提供するシステムは、飲食店であっても、スタッフが充実しているファインダイニングでしか実現できないので、学校給食ではほぼ不可能です。
ブッフェのデザート
有吉氏は「給食なんてバイキングと一緒なんだから、好きに食べりゃいいんだよ」と述べました。
バイキング=ブッフェのもとになったスウェーデンのスモーガスボードでも、前菜、主食、デザートというように、通常のコース料理と同じような順番で食し、最後に甘いものを食べることがよいとされています。
なぜならば、ブッフェといえども、食事であることに変わりがないからです。ブッフェでも、糖分が多いデザートを最後に食べることが推奨されています。
学校給食とブッフェ
そもそも給食がバイキング=ブッフェと同じであるという主張からして、正しくありません。給食では前菜、主菜、デザートの食事1人分が同時に提供されますが、ブッフェではテーブルに最初は何も置かれておらず、自分でブッフェ台に行って取るというスタイルだからです。
ちなみに、食育の一環としてバイキング給食が行われることがありますが、話が脱線してしまうので、当記事では紹介するだけに留めておきます。
食べ残しへの対策
有吉氏は「量も各々違っていいんだよね」、マツコ氏は「嫌いなものを無理して食べさせるのは良くない、あれみんなトラウマになってるから」といいました。
子供によって食べられる分量、および、必要な栄養量は異なるので、ボリュームをフレキシブルに変更できるのは大切なことです。学校給食法では、学校給食を通して学校生活を楽しく過ごすことも目標としているので、トラウマとなるような学校給食を目指しているわけではありません。
実際のところ、SDGsの観点や生徒の負担を考えて、学校給食の食べ残しを減らすために、国や自治体、学校も工夫しています。嫌いな食べ物があるから、料理が多すぎるから、時間が短いから、といった食べ残しの主因を調査。分量が少ない人から順番に配膳したりするなど、対策しています。
・自治体職員のための学校給食の食べ残しを減らす事業の始め方マニュアル/環境省
今では昭和的な「全て食べ終えるまでは昼休みなし」といった学校は少ないです。自分たちの前近代的な学校給食の経験をもとにして批判するだけではなく、現在はどの学校も工夫していることを補足しなければなりません。
日本が世界に誇れる学校給食
影響力のある2人が厳しい意見を述べていましたが、実際のところ、日本の学校給食は世界から評価されています。
・外国人を憧れさせる「日本の学校給食とShokuiku(食育)」/Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)
・中国で日本の「小学校の給食」が大きな話題となっている理由/ダイヤモンド・オンライン
栄養士が子供に必要な栄養を考え、調理師が昼食時間にぴったり合うよう数百人分の食事をつくり上げていることは、敬服に値します。学校給食によって、食への関心をもたせ、食材の生産者や調理人などのつくり手に感謝できるようにさせるのは、非常に大切なことです。
これからの日本の食
日本はこれから人口減少というハンデを抱えますが、2013年12月4日にユネスコの無形文化遺産に「和食;日本人の伝統的な食文化」が登録されたり、2021年の食品関連の輸出額が目標の1兆円を超えたりと、日本の未来を支える根幹産業として食が発展しています。
そういった状況にあって、日本が世界に誇れる学校給食を面白おかしく取り上げ、事実にそぐわないことを流布するのは、どうなのでしょうか。
たとえば、日本が世界に誇る和牛が4種類あることさえ、知らない日本人は多いです。食育が不足しているのはもちろんのこと、影響力のあるテレビ番組において、日本の食文化を真剣に取り上げていないことも影響しているのではないでしょうか。
いまだ最強の影響力を誇っているのがテレビ。このテレビをはじめとしたメディアは、日本の未来のためにも、日本にいる自分たちの子孫のためにも、日本の食について正確かつ真摯なコンテンツを制作するように努めるべきだと考えています。