東京都がひきこもり当事者や家族を含む新協議会を設置へ 犯罪者予備軍扱いからステークホルダーに
東京都の小池百合子知事は6日、都のひきこもり支援の方向性を話し合う新たな協議会を設置し、都内の家族会や当事者会をメンバーに加えることを発表した。都が、ひきこもり施策を検討する会議に、当事者や家族の声を識者らと直接取り込むのは初めてのことで、主に学識経験者や民間支援者、行政職員だけで施策を方向づけてきたこれまでの体制から、大きく転換することになる。
■当事者・家族の両方が参加する支援協議会
新たに設置される協議会は、「東京都ひきこもりに係る支援協議会」。年齢によらず、切れ目のないきめ細かい支援に向けた、当事者・家族の状況に応じた支援のあり方について検討を行うとしている。
福祉保健局地域生活課によると、委員は18人で、斎藤環・筑波大学教授、中島修・文京学院大准教授ら社会福祉や心理、精神医療の学識経験者4人に加えて、家族や当事者でつくる当事者団体からも委員に選ばれた。その他には、地域福祉や保健の各機関、就労支援の民間支援団体、市区町村からの委員で構成される。初回会合は今月20日に予定されており、約1年間の審議を経て、21年度予算要求に向けた来年秋の提言を目指す。
小池都知事は6日の会見で、「この課題が喫緊の部分などもあるので、来年度の予算の中に反映すべきご意見もいただければ、速やかな対応をしていきたい」と話し、必要なら前倒しで施策を実現させる考えを示した。
■若者政策から福祉政策へ 部局の所管替えで実現した当事者参加
今年4月、東京都では東京五輪に絡んだ組織改正のタイミングに併せて所管局の改組と担当施策の移管を行ない、ひきこもり施策の看板は、それまでの青少年・治安対策本部ではなく、福祉保健局が掲げることになった。これにより、「おおむね34歳まで」としてきた相談や訪問支援は、対象となる本人の年齢制限が撤廃されたものの、現在は、旧体制から引き継がれた青少年向けの施策に付け足ししたにすぎない。なかには、命にかかわるような差し迫った状況に追い込まれている本人や家族も存在するとみられ、家族会や当事者会から現実的な事情を可能な限りすくい上げながら、施策を検討し直す必要がある。
昨年度までひきこもり施策の方向性を審議していた都青少年問題協議会の若者部会は、学識経験者や民間支援団体ばかりで構成され、当事者不在のまま就労支援偏重の施策が方向づけられていた。このためか、相談窓口のはるか手前でミスマッチが発生し、都内で活動する複数の家族会や当事者会から、施策の抜本的な見直しを求める要望が繰り返し寄せられていた。
また、そもそも警視庁とつながりが深く、「治安対策」と付く部局が所管していたことなどにより、都内の当事者たちから、「ひきこもりを犯罪者予備軍扱いしている」といった戸惑いの声も上がっていた。
今月から始まる新たなひきこもり支援協議会では、施策の検討過程で当事者不在・家族不在だったこれまでの体制を一新し、「当事者そしてご家族への支援をより一層推進をする」(小池都知事)仕組みづくりに向けた審議を進めていくことになる。
■「今はまだ、マイナスがゼロになっただけ」
ひきこもりの支援業界には、支援に当事者の声を反映させることへの抵抗感は根強く残っており、福祉保健局の宮澤一穂生活支援担当課長は、「協議会の当事者や家族の枠を1つにしようという声もあったが、両方の声を聞いていくことにした」と明かす。今後の協議会の運営については、事務局には(関連する)各局が加わるが、青少年・治安対策本部時代の考え方を引き継ぐつもりはない。中高年層のひきこもりの施策は、福祉の新たな視点で取り組む」としている。
ひきこもり経験者らでつくる「ひきこもりUX会議」の林恭子共同代表とともに新協議会の委員に選ばれた、KHJ全国ひきこもり家族会連合会本部の上田事務局長は、「本人や家族といった当事者が協議会に参加できるようになったことはいいことだが今はまだ、マイナス状態がゼロになっただけだ。重要なのはこれから」と話している。