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不登校支援で官民連携のプレスリリースは、なぜ突然取り下げられたのか? / スダチ・板橋区

加藤順子ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士
混乱の真相は?(画像は、板橋区が連携を示唆した訂正前の説明文を筆者拡大)

 「不登校を3週間で解決する(平均)」とする再登校支援メソッドを掲げる株式会社スダチ(東京都渋谷区、小川涼太郎代表)が5日に配信した、「板橋区と株式会社スダチが連携し不登校支援を強化」と題するプレスリリース記事が13日、取り下げられた。板橋区教育委員会は、これまでの対応方針に変更はないとしつつ、9日から12日まではいったん「選択肢の一つとして、一部の学校で試行を始めたもの」とする説明文を区のウェブサイトに掲載していたものの、13日になり、「その事実はございません」と連携を完全に否定する内容に訂正していた。

板橋区教育委員会がウェブサイトに掲載した説明文(訂正済み版)
「板橋区と株式会社スダチが連携し不登校支援を強化」という記事について(2024/8/13)

 同社のメソッドは、不登校となった児童があくまでも再び登校することを目指し、親が子どもの行動制限などを含めた働きかけを行うオンライン型の保護者支援だ。多様な学びの場を求める声の高まりを受け、「不登校を問題行動としない」とした国の取り組みの方向性とは相反する側面があり、以前より不登校当事者や経験者、専門家、支援者らによる、同社メソッドへの否定的な見方が広がっていた。

 こうしたなか発表された両者の連携の情報は、SNSで大きな波紋を呼んだ。13日は、X(旧Twitter)で「不登校ビジネス」がトレンドワードに登場。スダチの支援が「合わなかった」と記した経験談が上がった一方、効果があったとして賛意や謝意を示す声も投稿された。

 連携実態が一部に存在するかのような説明文をわずか数日で覆す訂正を出した板橋区教委指導室。13日夕方、その経緯を電話で尋ねると、担当ではない人物が戸惑い気味に対応し、

「休みで担当者が不在のなか、今いる何人かで文面を検討した結果、当初の優しい表現になり、誤解を招いてしまった。

 (騒ぎになり)改めて夏休み中の担当者とやりとりしたところ、契約や協定、取り決めを結んだ事実があったわけでもなく、予算や計画もなかったことがわかった。教育委員会主催の会でスダチさんにお話し頂いた後、一部の校長が直接話を聞いただけだったことが確認できた」

 と釈明した。

 スダチ側にも、区との経緯や認識、プレスリリース取り下げに関する受け止めをメールで尋ねた。

「板橋区の件につきましては、現在状況が定かではないためお答えは控えさせていただければと思います」

 との回答が13日夜遅く、小川代表自身のアドレスから届いた。 

 取り下げ済みのプレスリリースには、次のような文言が並んでいた。

・板橋区と連携し、区内の特定の小学校を対象に、スダチが展開するオンライン再登校支援を実施いたします。
・板橋区とこの問題に共同で取り組むことで、区内の不登校児童への支援を強化することを目指します。
・板橋区内の特定の小学校を対象に、再登校支援を実施します。
・サポートの実施後、実際に小学校で効果が出るかを検証します。これにより、サポートの有効性を確認し、今後の本格的な提携を目指していきます。
・株式会社スダチと板橋区は、この連携を通じて、子供たちが安心して学校生活を送ることができる環境づくりを進めてまいります。
(共同通信PRワイヤーから削除済みプレスリリース「板橋区と株式会社スダチが連携し不登校支援を強化」より抜粋)

 「区内の特定の小学校」「実際に小学校で効果が出るかを検証します」「今後の本格的な提携を目指していきます」といった、通常、合意や確認がなければ用いることのない表現や具体的な展開が記されている。

 区の訂正のとおり、両者の間で連携、あるいはそう捉えられるような合意や確認は本当になかったのか。プレスリリースは、両者間のどのようなやりとりを下地に、書き上げられたのか。

 詳しい経緯は未だわからないままだ。

 この他にも、本当に連携の合意すらなかったのだとすれば、区や区教委が、当該のプレスリリースが各社媒体に掲載された5日の時点で、直ちに否定をしなかった点にも、疑問が残る。

 不登校状態にある区内の児童・生徒の先行きに関わる取り組みの話題が、このような形で混乱した原因と真相を、スダチ・板橋区の両者が明らかにする必要がある。

お詫び:板橋区が掲載したお知らせ(文中では説明文としています)の当初掲載日が誤っていました。関連する記述を訂正しました。(8月15日)

ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士

近年は、引き出し屋と社会的養護を取材。その他、学校安全、災害・防災、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。災害が起きても現場に足を運べず、スタジオから伝えるばかりだった気象キャスター時代を省みて、取材者に。主な共著は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『下流中年』(SB新書)等。

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