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地元の街によって一人暮らし学生は投票できず、ほとんど地元にいない国会議員は投票できる制度を見直す必要

原田謙介政治の若者離れを打破する活動を10年以上
(提供:アフロ)

<16年参院選>不在者投票、学生1773人できず

との調査を毎日新聞が公開している。

記事の冒頭にはこのように書いている

選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた昨夏の参院選で、進学先に転居後も住民票を移さずにいた72市町村の学生と生徒計1773人が不在者投票を認められなかったことが毎日新聞の調査で分かった。総務省は「住民票を移して転居先で投票するのが原則」との立場だが、「居住実態の確認は不可能」として容認する自治体の方が多い。

出典:毎日新聞の記事より

つまりは本来、転居の際に14日以内に住民票を移さなければならないと住民基本台帳法により定められていないにもかかわらず、親元を離れて生活を始めたのちも住民票を移さずいた。そのままの状態で”不在者投票制度”を使い投票に行こうとしたところ、住民票のある地元自治体から居住実態がないことを理由に不在者投票制度の履行を断られたということだ。

このような人が当該の選挙ではどこでも投票することができず、選挙権を失ってしまう。

本件に関しては以前より自分も記事を書いている。

当然の前提として法にのっとって対応をすると居住実態がないので投票を断るということは全く問題ない。

しかし問題は”法”があって”人”がいるのではなく、”人”の生活のために”法”があるという前提がこの件に関しては破綻している可能性があるということである。

18歳選挙権に関する意識調査(総務省)
18歳選挙権に関する意識調査(総務省)

総務省が昨年12月に公開した調査によると18歳~20歳のうち親と一緒に住んでいないにもかかわらず、住民票を移していない人は6割近いということである。

この背景をもとに大きく2点から検証してみる。

1:法に定められているにもかかわらず各自治体の対応の差を総務省が容認していること

地元に居住していない人の不在者投票を認めなかった自治体も容認する自治体も悪くない。問題となるのは自治体により対応が異なる状況が国政選挙にもかかわらず存在していることだ。

認めなかった自治体は、法律的にみて対応は当然問題なく、厳密に居住実態を調べ、不在者投票の理由を確認し、断ったということだ。

”なんて杓子定規なんだ!”という気持も分からんでもないが、首長や選挙管理委員が”目をつぶって投票させてあげなよ”とでも方針を堕していない限り、電話に対応する職員は断るという判断しかできないだろう。

対して、容認した自治体は、居住実態がない事の確認をしないことにより、学生の投票の意思を尊重する事を優先したということだ。

後述するが時代にあった対応だと自分は感じているが、単に”隣の自治体より投票率が下がると色々と詰められるし”というぐらいの感覚で容認しているのかもしれない。

当然、現場の各職員や自治体の方針にそれぞれ違いがあるのだろう。法の運用に関しては現場で多少の差があることも当然だし、全自治体が何をどうやるかまで国が規定することはおかしいと思う。しかし、さすがに国政選挙で投票できるかできないかに自治体により差が生じることはだめだと思う。大きな参政権の1つである投票権が地元自治体により左右されるということは本末転倒である。

2:居住実態とはそもそも何なのか

もう一つ考えるべきは「居住実態」とは何なのかという点だ。

昭和29年に寮に入りつつも地元に住民票を置いたままの学生が不在者投票の権利を求めて裁判を起こし、最高裁まで行って敗訴している。

判決文の要旨には以下のように書かれている。

休暇に際してはその全期間またはその一部を郷里またはそれ以外の親戚の許に帰省するけれども、配偶者があるわけでもなく、また、管理すべき財産を持つているわけでもないので、従つて休暇以外は、しばしば実家に帰る必要もなく、またその事実もなく、

出典:最高裁昭和29年判例

この判決を根拠とし、居住実態が住民票を置いている自治体にないとし、不在者投票が断られる。

一方、国会開会中の平日の多くを選挙区を離れ東京で過ごす国会議員や、さらに1年間に数日しか地元に戻らない首相であっても不在者投票の権利はあるようだ。

首相が不在者投票 参院選、利用を呼びかけ  :日本経済新聞

配偶者がいればよいのか!?首相夫人もほとんど山口にはいないのだろうからこれも決定打にはならないだろう。

財産があれば居住実態と認めるのか!?

ふるさと納税により、自分が住んだ経験もなく、なんなら愛着もない自治体に寄付をすることにより、現在住民票をおいている自治体への納税額が減らせる時代だ。

居住実態をどう考えるかなど改めて見直してみてもよいのではないかと思う。

その他:成人式も住民票を移さない一つの要因

余談ではあるが前述の総務省調査によると、住民票を移していない理由の2位には「成人式に参加できなくなるなど不都合が生じると思ったから」とある。(17.6%)

多くの自治体では自治体内の成人対象に成人式の招待状を発送する。これが来ず、成人式に出られず、小中高の友達と一緒に記念行事を行えないことへの不安もあるようだ。もっとも多くの自治体では招待状がなくても出席可能なようだが、移さない気持ちもわかる。

ちなみに1位は「いずれ実家に戻るつもりだから29.0%」

法が先か人が先か

現状を放置することはよくない。だからといって法がそうだから、従うべきという発想になるべきではない。

法が現状にあっており、住民票を必ず移すべきであり、そうでない人は不在者投票ができないと解するとする。それであれば、”住民票を移すべきことの周知の徹底”と”不在者投票に対する自治体間の対応の差の是正”を進める必要がある。

それとも半数以上の親元を離れた大学生が住民票を移していない状況を尊重するのであれば、住民票と選挙人登録の違いをできるようにするべきだ。

そして、選挙を管轄する総務省としては基本的には現状の法による執行を優先する立場をとるのは当然であるので、この状況を変えるには立法府である議会が動くしかないのです。

個人的には国政選挙は住民票の位置に関係なくどこの投票所でも投票できるような制度の構築へと舵を切るべきだと思っている。

政治の若者離れを打破する活動を10年以上

1986年生まれ。岡山在住。愛媛県愛光高校、東京大学法学部卒。「学生団体ivote」創設。インターネット選挙運動解禁「OneVoiceCampaign」。NPO法人YouthCreate創設。「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動。大学非常勤講師や各省有識者会議委員などとして活動を広げていく。18歳選挙権を実現し、1万人以上の中高生に主権者教育授業を行う。文科省・総務省作成「政治や選挙等に関する高校生向け副教材」の執筆者でもある。2019年参議院選挙・2021年衆議院選挙に立候補し敗れる。元岡山大学非常勤講師。元グローバルシェイパー東京代表。元中野区社会福祉評議会評議員

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