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【主権者教育】政治家をもっと学校に呼ぼう!生徒の声を政治に届けるために。

原田謙介政治の若者離れを打破する活動を10年以上
(写真:アフロ)

急遽、中止となった選挙直前の菅前首相の学校での講演会

7月に行われた参議院選挙の直前に予定をされていた、前首相の菅衆議院議員の公立高校での講演会が突然の中止となりました。理由は菅議員の日程上の都合ということです。

中止となる前に、この講演会の実施が明らかになった際には、参議院選挙の直前での実施ということに批判の声も出ていました。

参院選の22日公示が有力視される中、神奈川県立瀬谷西高校(横浜市瀬谷区)が公示目前の13日に菅義偉前首相(衆院神奈川2区)を招き、政治参加に関する講演会を3年生対象に企画していた問題で、同校は8日、講演会を中止することを明らかにした。前首相側が日程の都合で出席できなくなったとしている。

神奈川新聞の記事より

私は、長らく主権者教育の実践や制度づくりに関わってきました。

主権者教育がもっと広がってほしいと思っている立場です。

そして、政治家と学生が出会う機会は主権者教育の大事な要素だと思っています。

その考えの私ですが、今回の菅前首相の講演会企画には賛同できませんでした。

しかし、政治家を学校に呼ぶ主権者教育の授業はもっと広がるべきだと思っています。

なぜ、菅さんの講演会企画に賛同できなかったのか。なぜ、学校に政治家を呼ぶ授業を広げる理由とその方法について本記事ではお伝えします。

選挙直前ではない時期に、前首相の講演会を実施するなら賛成

賛同できない理由は、この講演会の時期にあります。3年に1回、7月に行われることが決まっている参議院選挙。選挙が迫っている中で、1つの党に所属する議員だけの話を聞くことになる今回の企画は、選挙への影響がどうしても出てしまうという点で、賛同できません。選挙の時期が決まっているので、その時期をずらして企画をすることができたはずです。

同様に、昨年の衆議院選挙が近づいた時期には、地元衆議院議員を取り上げたドキュメンタリー映画を生徒に見せた学校もありました。これも私は今回同様に賛同できません。

ただ、企画内容自体には私は肯定的です。首相を辞めてから1年も経っていない時期であり、在任中は学生生活などが様変わりしたコロナ禍でした。例えば、コロナ禍での政治の舵取りなどについて、生徒からの質問や意見も受けながら、菅前首相が話すことは政治への関心が間違いなく高まる機会だと思います。

実は、神奈川県立高校は主権者教育のトップランナーでもあります。以前より、3年に1回参議院選挙の時期に合わせて模擬選挙を実施するなど、計画的に行ってきていました。それだけに、今回の講演会の企画のニュースを見た際には残念でした。

もう1点加えておくならば、この講演会の企画が公職選挙法や教育の制度に触れるわけではありません。そのため、私が尊敬している有識者の方で、「中止すべきでなかった。学校現場の先進的な取り組みを大事にするほうが良い」とするような見解を述べている方もいらっしゃいます。

政治家を学校に呼ぶことは、もっと広がってほしい2つの理由

筆者撮影
筆者撮影

繰り返しになりますが、私は政治家を学校に呼ぶことは広がってほしいと思っています。

その理由は以下の2つです。

理由1:学生が本物と触れることの大切さ

キャリア教育などでも、色んな職業の方を学校に招くことがあります。政治家と直接会って、政治家の話を聞き、質問をして、雰囲気に触れることのインパクトは大きいと思っています。実際に、過去に色んな学校で、政治家を学校に呼ぶ授業を企画したことがあります。その際の学生のアンケートを見ても、明らかです。

理由2:政治家に学生の声が届く重要な機会

これは授業の組み立て方にもよるのですが、学生の声を政治家に届ける「政治参画」の場としても重要だと考えています。一方的に、政治家が話したいことを話すだけの授業ではなく、学生からの質問や意見に答える双方向型の授業であることが大事です。

私の実践例で言えば、事前に2コマを調べ学習やグループワークの時間に当て、学生に政治家への質問を作ってもらいます。そして、政治家に直接質問を行い、意見交換を行いました。

政治家も、学生の関心や困っていることを知ることができたと好評でした。

政治家を学校に呼ぶ際の制度的な現状について

主権者教育テコ入れの経緯

最後に、現状の日本での「政治家を学校に呼ぶ」授業の制度面をまとめておきます。そもそも、主権者教育がクローズアップされたきっかけは、18歳選挙権の導入でした。

これにあわせて、2015年に文部科学省から出された通達の一部をご紹介します。

未来の我が国を担っていく世代である若い人々の意見を、現在と未来の我が国の在り方を決める政治に反映させていくことが望ましいという意図に基づくものであり、今後は、高等学校等の生徒が、国家・社会の形成に主体的に参画していくことがより一層期待される。

それまで、後ろ向きだった主権者教育ですが、この通達からわかるように前向きに進めていく方針へと明確に変わります。

主権者教育の副教材と指導資料

時を同じくして、文部科学省と総務省(選挙を所管)の2つの省が一緒になり、主権者教育に関する高校生向けの副教材と、活用のための指導資料が作成されました。私も、作成メンバーの一人として参加しました。

この活動資料が現時点では、主権者教育の制度に関して体系的にまとまっているものといえます。

その中に、以下のような項目を作りました。

指導資料の実際の画像です
指導資料の実際の画像です

政治的教養を育む教育を実施する場合には,特定の政党に所属している首長や国会議員、地方議会議員、政党関係者などを学校に招くことはどのように考えればよいでしょうか。

上記のQ(質問)に対して、いくつかA(回答)がのっています。

最初のAには以下のように書かれています。

政治的教養を育む教育を行う際に,現実の立法等に携わっている方(以下「政治家等」という)の協力を得ることは,生徒が現実の政治について具体的なイメージを育むことにつながるもの

大前提として、政治家等を招くことはOKだということです。

そのうえで、以下の点などを留意事項として求めている。

  • 多様な見方や考え方があることを理解させる
  • 政治家等から具体な投票行動や支持の呼びかけが行われないよう配慮
  • 複数の会派を招くことも含め、生徒が様々な意見に触れる

このように留意事項があれやこれやと書いてあるため、発刊以来「細かい」「気にすることが多い」といった教育現場からの意見があるのも事実です。

もちろん、同様にこの指導用資料を参考に、主権者教育授業を組み立てることができたとの声も届いていて嬉しいです。

一方で、政治家を招く授業に関しては思い違いが未だに政治家や学校現場にあります。例えば、

・全会派・政党の議員を必ず招かなければならない

・招いた政治家の発言時間は平等でなければならない

・論争中のテーマは扱ってはならない(駅前の再開発・消費税のあり方)

などがありますが、全て間違いです。

副教材・指導用資料などが現場に浸透していないことや、現場の支えになりきっていないことなど、作成側として反省することもあります。

「多様な見方や考え方」「政治家のためではなく、生徒のための授業」がどんどん広がっていくことを願っています。

今後の主権者教育について

2022年度から高校では学習指導要領が改定され、「公共」という新しい科目が導入されました(現代社会が廃止)。公共の授業の中に、主権者教育の要素が重点的に扱われています。

主権者教育が正式に必修科目の中に位置づけられたことで、より広がっていくことを願っています。

また、学校現場での主権者教育を支えるための外部機関の設立などを進めていく必要もあると感じています。

そして、政治を学ぶために学ぶのではなく、活用するために学ぶことが大事です。子供若者議会や、若者のまちづくりなどへの参画なども広がることを願っています。

授業づくりやプログラムづくりの中で、気になる点があれば遠慮なくご連絡ください。

政治の若者離れを打破する活動を10年以上

1986年生まれ。岡山在住。愛媛県愛光高校、東京大学法学部卒。「学生団体ivote」創設。インターネット選挙運動解禁「OneVoiceCampaign」。NPO法人YouthCreate創設。「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動。大学非常勤講師や各省有識者会議委員などとして活動を広げていく。18歳選挙権を実現し、1万人以上の中高生に主権者教育授業を行う。文科省・総務省作成「政治や選挙等に関する高校生向け副教材」の執筆者でもある。2019年参議院選挙・2021年衆議院選挙、2024年衆議院選挙に立候補しそれぞれ次点で敗れる。

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