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大谷、バーランダー攻略成功でみせた大きな成長

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
アストロズ戦の第1打席にセーフティバントを試みる大谷翔平(三尾圭撮影)

 メジャーを代表する投手のジャスティン・バーランダー。昨季はシーズン途中にデトロイト・タイガースからヒューストン・アストロズへ移籍すると、5試合に先発して負け無しの5連勝、防御率1.06の圧巻の成績を残した。

 アストロズがバーランダーを補強した理由は、球団初のワールドシリーズを制覇するため。バーランダーはボストン・レッドソックス相手の地区シリーズで2勝、ニューヨーク・ヤンキース相手のリーグ優勝決定シリーズでも2勝を記録して、アストロズをワールドシリーズに導いた。ワールドシリーズでは勝ち星こそ付かなかったものの、与えられた任務をしっかりと果たして、球団初の世界一に貢献した。

メジャーを代表する本格派投手のジャスティン・バーランダー(三尾圭撮影)
メジャーを代表する本格派投手のジャスティン・バーランダー(三尾圭撮影)

 35歳のバーランダーは年齢による衰えもなく、今季も絶好調。防御率(2.19)、WHIP(1イニング当たりに許した走者数、0.849)、投球回数(143.2イニング)の3部門でアメリカン・リーグのトップに立っている。

 

 5月16日(日本時間17日)の試合でバーランダーと初対決した大谷翔平は、4打数無安打3三振と完璧に抑えられたが、「トータルですごく完成されている投手。いくら払ってでも経験する価値のあること」とメジャー最高級投手と対戦できた喜びを口にした。

 大谷がメジャーへ渡ってきたのはバーランダーのような超一流の選手と対戦するためだが、やられて終わりではなく、高いレベルで競い合いながら自らのレベルを上げていき、彼らに勝つためだ。

 「また対戦する機会があると思うので、そこで超えていけるように練習したい。素晴らしい投手なので、打ち崩すのは難しいと思うんですけど、そこをクリアしていくことによって、自分のレベルだったりチームのレベルが上がっていくのかなと思っています」と次回の対決でのリベンジを誓った大谷に、初対決から2ヶ月が過ぎた7月21日(22日)に2度目の対決機会が巡ってきた。

2ヶ月ぶりにバーランダーと対戦した大谷翔平(三尾圭撮影)
2ヶ月ぶりにバーランダーと対戦した大谷翔平(三尾圭撮影)

 1打席目は2回無死一塁の場面。初球を三塁側にバントしたが、打球は三塁線寄りではなくマウンドと三塁の中間辺りに転がり、打球を素早く処理したバーランダーが二塁へ投じて一塁走者のジャスティン・アップトンが封殺された。

 「1打席目ももっといい打席にできればまた違う展開にもっていけたかなと思います」と試合後に振り返ったが、打球を転がした場所が悪かっただけで、バーランダーに揺さぶりをかけるという意味では意表を突くバントは悪い選択肢ではなかった。

 このバントの際に打席から一塁への到達時間は、3.82秒。この数字を発表したデータ解析システム『スタットキャスト』専門家のデビッド・アドラー記者は、3.82秒は今季のエンゼルスで最速タイムだとツイートしている。

 

 メジャーリーグのスカウトが使う評価システム(最低20点から最高80点まで10点刻みで採点)だと、左打者の打席から一塁への到達時間が3.9秒を切ると最高の80点評価が与えられる。メジャーの左打者の平均時間は4.26秒なので、大谷は0.44秒も平均より速い。

今季のチーム最速となる打席から一塁までを3.82秒で駆け抜けた大谷翔平(三尾圭撮影)
今季のチーム最速となる打席から一塁までを3.82秒で駆け抜けた大谷翔平(三尾圭撮影)

 1打席目でメジャー・トップクラスのスピードを見せつけた大谷は、2打席目でメジャー・トップレベルの打撃技術を披露。

 2ボールとボールが先行したカウントの3球目。バーランダーが投じた96マイル(154キロ)の内角のフォーシームを捉えて右翼へ鋭い打球を放ち、バーランダーとの6打席目にして初安打となる二塁打を打った。

 5月の対戦では自分のスイングができなかった大谷だが、この日は「何回か良いスイングができた」と手応えを得たが、「毎回、次の打席がもっと良くなるように考えますし、ちょっとずつでも進んでいければ」とさらなる進化を誓った。

 打たれたバーランダーは「カウントが悪くなってしまったのは僕のミス」と反省した後に、「素晴らしいヒットだった。(大谷は)とても修正能力が高く、素晴らしい打者に成長していくだろう」と大谷の実力を素直に讃えた。

 アストロズを世界一に導いたAJ・ヒンチ監督も「カウントを悪くしてしまうと、仕留めるのが難しい優秀な打者。打席で多様なことができるので、対策に頭を悩ませる」と大谷を要注意打者だと認めていることを告白。「スイングはとても速く、今日は内角の難しい球をよく捉えていた」と大谷の打撃技術の高さに舌を巻いた。

ジャスティン・バーランダーから二塁打を放つ大谷翔平(三尾圭撮影)
ジャスティン・バーランダーから二塁打を放つ大谷翔平(三尾圭撮影)

 アドラー記者も「メジャー最高の投手が投じた95.7マイル、回転数2600の内角へのフォーシームを二塁打にした大谷は、またしても素晴らしい打撃技術を披露した」とツイート。

 

 第2打席の二塁打は95.7マイルのフォーシームを捉えて、打球初速106.5マイル(170.4キロ)で弾き返した『バレル』打球で安打確率は92%だったが、惜しくもライトライナーに倒れた第3打席はさらに強力な打球を飛ばし、95.7マイルのフォーシームを108.3マイル(173.3キロ)で弾き返し、こちらも安打確率85%の『バレル』打球。

 アドラー記者は「大谷はバーランダーの速球がよく見えているようだ」と呟いた。

 

『バレル』とは?:【参考記事】データで比較する大谷と現役メジャー最高打者

 3打席目は結果としてはアウトになったが、内容はとても良く、今後に繋がる打席となった。

3打席目もバーランダーの速球を捉えた大谷だったが、惜しくもライトライナーでアウトになった(三尾圭撮影)
3打席目もバーランダーの速球を捉えた大谷だったが、惜しくもライトライナーでアウトになった(三尾圭撮影)

 「やはりトップクラスの投手で、今日も絶好調に見えました。球は強いし、投げるところにしっかりと投げている」と大谷が振り返ったように、この日のバーランダーは6回を投げて5安打、11奪三振の好投で、エンゼルス打線を無得点に抑えた。バーランダーが許した『バレル』制の打球は大谷が放った2本だけと、エンゼルス打線の中で、バーランダーを攻略できたは大谷一人だけだった。

 バーランダーが降板した後に回ってきた4打席目では、左腕のシップから二塁打を放ち、結果が出ていない左腕からもきっちりと安打を記録。

 「毎回毎回ほとんど初めての対戦相手なので、勉強だと思ってスイングできればなと思っています」と左腕からの長打にも満足することなく、謙虚な姿勢を貫いた。

左腕シップから二塁打を放った大谷翔平(三尾圭撮影)
左腕シップから二塁打を放った大谷翔平(三尾圭撮影)

 右肘靭帯も医者から復帰にゴーサインが出て、今季中の投手復帰を狙う大谷にとって、この日のバーランダーとの対戦は投手としても収穫は多かった。

 打席からだけではなく、二塁走者として背後からバーランダーの投球を見て、「後ろから見る感じもすごい勉強になる」とメジャーを代表する本格派投手から技術を盗もうとする貪欲さは忘れていない。

 「スピードもそうですけど、ここまで品のある球は経験したことがない」と前回の対戦で語ったように、大谷はバーランダーが持つ野球技術だけでなく、品格までも自分のものにすることだろう。

 

バーランダーの投球を背後から研究する大谷翔平(三尾圭撮影)
バーランダーの投球を背後から研究する大谷翔平(三尾圭撮影)
スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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