「反省と教訓」を求められた文科省は、大学入学共通テストの必要性にまで踏み込めるのだろうか
文科省が「反省」を求められるそうだ。求めるのは、文科省がつくった「大学入試のあり方に関する検討会議」(以下、検討会議)である。自ら立ち上げた組織に、文科省は怒られることになる。
|入試改革の目玉を潰された文科省
検討会が設置されたのは2019年12月27日で、大学入学共通テストにおける英語4技能(聞く・話す・読む・書く)の評価や数学・国語での記述式出題をふくめた問題について検討する目的だった。
英語4技能の評価について文科省は民間検定試験を利用する方針を打ち出したものの、費用や試験会場への利便性などの問題で不公平になるとの批判が強かった。そうした懸念に、2019年10月24日のテレビ番組のなかで萩生田光一文科相が「自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえれば」と述べたことが大問題となる。いわゆる「身の丈発言」であり、民間検定試験利用への批判がいっそう強まることになった。
数学・国語での記述式出題は、単純な選択式と違って当然ながら採点は難しくなる。採点者の能力が採点に影響してくる可能性も大きい。そうしたことから、採点を大量に、しかも短期間にこなさなくてはならない大学入学共通テストに導入することが可能なのか疑問視され、批判を集めていた。
こうした批判に応えるために、文科省は検討会議をつくったことになる。文科省としては民間検定試験と記述式出題を大学入試改革の目玉としたかっただけに、検討会での議論によって世論を納得させたかったのかもしれない。
ところが検討会議は、今年4月2日には記述式問題の導入を、続く20日には民間検定試験の活用も見送ることで一致する。そして6月30日には、文科省に対して「今回の事態が受験者等に与えた影響を真摯に受け止め」るよう反省を促し、「今後、他の施策においても生かされることを求めたい」として教訓とすることを求める文言を、提言書に盛り込む案が示されたのだ。
文科省が「目玉」にしたかった案を葬り去っただけでなく、文科省を批判する内容の提言書は、近く萩生田文科相に手渡されることになっている。
|守るべきは大学入学共通テストか新学習指導要領か
ただし、検討会議は大学入学共通テストにおける民間検定試験と記述式出題の導入は否定したものの、英語4技能と記述式そのものまで否定したわけではない。提言案では、各大学での適切な対応を求めている。
大学入学共通テストでは無理だが、各大学の個別入試では英語4技能や記述式を適切に評価しろというわけだ。問題を各大学に放り投げたようなもので、大学にとっては迷惑な話かもしれない。
そもそも英語4技能や記述式については、高校では来年度から、中学校では今年度から、そして小学校では昨年度から全面実施となっている新しい学習指導要領で大きな柱とされているものである。そうした力が子どもたちに必要になっていることは、文科省だけでなく、広く了解されていることでもあるはずだ。
教育の成果を評価するのが大学入学共通テストの目的だとすれば、新学習指導要領での教育成果も評価しなければならない。しかし、それは無理だと検討会議は結論をだしたことになる。
目的を達成できない大学入学共通テストを続ける意味があるのだろうか。検討会議の提言は、意図しているかどうかは別として、大学入学共通テストの存在意義まで問うていることになる。大学入学共通テストを守ろうとすれば、新学習指導要領との不具合がどんどん顕在化することになり、また文科省は反省と教訓を求められることになりかねない。
はたして、検討会議の指摘を受けて文科省は、どう反省し、どう教訓として生かしていくのだろうか。それによっては、教育そのものが変わっていくかもしれない。