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美女木小の自由進度学習、取り組むのは子どもたちが生き生きするから

前屋毅フリージャーナリスト
ちょっとわかりにくいが、小さい個人用机の上で2人で学習している   撮影:筆者

 埼玉県戸田市立美女木小学校で、6年生の自由進度学習による算数の授業を見学してきた。子どもたち一人ひとりが自分の課題をみつけて取り組むのが自由進度学習で、そこには確かな〝活気〟がある。

|自由進度学習の風景

 教員が教壇に立ち、子どもたちは教員に顔をむける。たまに質問するとしても、主に話すのは教員で、子どもたちは耳をかたむけるだけになっている。これが従来からの一斉授業である。このカタチに慣れ親しんできた保護者にとっては、安心できる光景なのかもしれない。

 しかし、自由進度学習のカタチはちがう。授業の初めに教員が流れを説明し、この時間に自分が何を学ぶか「めあて」を決める。

 漠然と「めあてを決めろ」といっても、できるわけがない。この日は「正比例・反比例」の単元だったが、順序だって学べるソフトが用意されていて、子どもたちは自分のパソコンで、どこを理解していて、どこが理解できていないかをチェックしていく。自己分析である。

 そして、理解できていないところがあれば、そこをソフトによって学習していくことになる。理解できていないところは、それぞれでちがうので、学習する内容もちがってくる。それぞれが自分に必要な学習をするわけで、〝個別最適〟である。

 最初の教員の説明が終わると、子どもたちは自由に席を移動していく。2人で机を並べたり、グループをつくったりしている。もちろんムダ話をするためではなくて、そこで相談したり、教えあったりしている。1人でやることを選択している子もいる。それぞれが、学習しやすい環境を選択しているようだ。

 一斉授業ではクラス全員が同じ内容を学習することになるが、すでに理解している子にとっては退屈な時間でしかないし、その前の段階を理解していない子にとってはチンプンカンプンな時間でしかない。クラス全員が教員の話を聞いているようにみえて、じつはバラバラで、学習になっていない子もいたりする。しかし自由進度学習では、誰もが学びと向き合っている。

「力だめし」というタイトルの紙のプリントに取り組んでいる子たちもいる。わかりやすくいえば、テスト用紙だ。といっても、点数を競わせるのが目的ではない。あくまで単元を理解しているかどうか確認するためのものだ。一斉にやるのではなく、自分のタイミングで取り組み、採点も自分でやる。そのため、教室前方の黒板には答が記入されたプリントが最初から貼られている。いわゆる「テスト」ではなく、あくまで自分のための力だめしなのだ。

|これから必要なのは自分で学ぶ力

 こうした自由進度学習に、なぜ取り組むのか。6年生担任のひとり、後藤宏清さんは次のように語る。

「コロナ禍の一斉臨時休校のとき、子どもたちに『自分で学ぶ力』が不足していることがわかってしまったことが大きなきっかけでした」

 コロナ禍で全国の学校が一斉に臨時休校にはいったのは、2020年3月のことだった。一斉授業の場が失われ、子どもたちはひとりでの自宅学習を強いられた。

 そうしたなかで、「ひとりでは学習できない」という子が多くいたし、保護者からも「やることを細かく指示してくれないと困る」といった声が相次いだ。子どもたちに「主体的に学ぶ力」が欠けていたからだ。

「子どもたちが身につけなければいけない力は何だろうと考えたとき、自分で学びに向かっていける力、自分で学びを選択する力は必要だなと感じました」というのは、6年生の学年主任を務める本橋隼人さん。

 そうした力をつけるのが、自由進度学習である。これから子どもたちが必要とされる力を身につけさせるために、美女木小学校の教員たちは自由進度学習に取り組んでいくことになる。

「最初は子どもたちも戸惑っていました。自由進度学習では、自分は何がわかって、何がわかっていないかを知ることが必要です。子どもたちは、そういう経験をしてきていませんでした」というのは、同じく6年生担任の井上咲希さん。

 一方的に教えられるだけの一斉授業に慣れてきた子どもたちは、自分がどこまで理解できているのか、つまり「現在地」がわからない。一斉授業では個々の現在地より、クラスの平均的な現在地が優先される。そこより前の地点にいると、授業の内容がわからず、ただ座っているだけになってしまうのだ。井上さんが続ける。

「でも、自由進度学習に慣れてくると、自分の現在地がわかってきて、わからないところが理解できるという成功体験を重ねていくことになります。それが自信につながって、子どもたちの表情が、一斉授業のときより生き生きしてきました」

 自主的に学ぶ楽しさを知ることで、子どもたちは生き生きしている。それが教室をつつむ活気となっている。

 それなら、全部の教科を自由進度学習でやればいい、ともおもってしまう。しかし、そういうものではないらしい。学年主任の本橋さんが説明する。

「自由進度学習に良いところがあるように、一斉授業にも良いところがあります。その良さを理解して、どちらでやったほうがいいのか選択していくべきだと考えています」

 そして、美女木小では現在、自由進度学習を導入している教員は算数で実践している。ただし、自由進度学習のスタイルが確立されているわけでもない。逆に言えば、教員は実践を繰り返しながら考え、進化させている。

 それだけに、教員の負担は軽くはない。それでも自由進度学習に取り組むのは、生き生きと学ぶ子どもたちの姿があるからにちがいない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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