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全国の高校生が関ヶ原で大決闘! 知る人ぞ知るマンガ『竜馬翔ける』が面白すぎる!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

9月15日といえば「関ヶ原の戦い」の日。そこでワタクシも、この天下分け目の決戦を描いたヒジョ~に楽しいマンガを考察したい。

その作品とは、1980年代に描かれた『竜馬翔ける』。主人公は坂本竜馬。こう書くと「幕末時代劇?」と思われるだろうが、マンガの舞台は昭和の後半。主人公は、高知県にある長曽我部高校の1年生なのだ。

作品世界において、全国の高校を支配しているのは徳川学園。その独裁体制を打倒するべく、竜馬が仲間とともに立ち上がる……という物語である。

ただし、この作品では主人公の竜馬も高校生だし、敵も仲間も高校生。物語のなかで語られている「天下分け目の関ヶ原」も、高校生たちによって戦われた決戦なのだ。

◆高校生167万人がやってくる!

史実としての関ヶ原の戦いは、1600年9月15日に勃発した。全国の大名たちが、石田三成率いる西軍と、徳川家康をリーダーとする東軍のいずれかにつき、いまの岐阜県関ケ原で激突。半日で勝敗は決し、これによって徳川家康は天下統一に大きく近づいた。

『竜馬翔ける』の高校生たちも、これと同じように西軍と東軍に分かれ、関ヶ原で大乱闘を繰り広げたというのだ。作品中に、高校生たちが大ゲンカをしているシーンが出てくるのだが、そこに描かれているのは関ヶ原を埋め尽くす人、人、人……。

考えてみたいのは、この関ヶ原、いったいどれだけの高校生が参戦したか、という問題だ。

プロレスの「バトルロイヤル」という試合形式では、6m四方のリングで15人前後のレスラーが戦うが、これと同じくらいの密集度と考え、また戦場の面積が関ヶ原全体の半分にあたる4km²と仮定するならば、戦いに参加した高校生は、なんと167万人! 

2019年の男子高校生は160万人だが、この戦いが行われたのは1970年頃と思われ、当時の高校生数は423万人なので、男子高校生の8割ほどという計算になる。

これほどたくさんの高校生が、全国津々浦々から岐阜県不破郡関ケ原を目指す光景を想像してもらいたい。関ヶ原は東海道新幹線の沿線にあり、最寄り駅は米原だから、高校生たちも新幹線に乗って駆けつけたのだろう。来る列車、来る列車、殺気立ったコワい高校生で超満員! 乗っていた観光客やビジネスマンは、恐怖におののいたに違いない。

そもそも167万人ともなると、新幹線で運びきれたかどうか。当時の新幹線0系電車は、16両編成の定員が1258人。他の乗客もいるだろうから、1本の新幹線で移動した高校生を500人と仮定しよう。

2021年9月現在、米原に停車するひかり、こだまは、上りも下りも一日34本。70年当時も同じだったと考えれば、関ヶ原に到着する高校生は、一日3万4千人。167万人がすべて集まるまでに49日かかる!

最初に着いてしまった高校生たちは、その後49日間何をしていたのだろう? 夏休みより長い期間だから、自由研究もできるし、読書感想文も書けるが、ケンカのために来た連中がそんなことをしたかなあ?

集合に49日かかったということは、撤収にも同じだけの日数がかかる。もし、最初に来て最後に帰った高校生がいたとしたら、彼は98日間もこの戦いに奉仕したことになる。留年にならないか心配だ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆関ケ原町の方々は大迷惑!

それにしても167万人がひとつの町に集結するというのは、ただごとではない。現在の関ケ原町の人口は7千人。マンガのなかで天下分け目の戦いが行われた70年でも1万人ほどである。そこに、人口の167倍の高校生たちが、ケンカをするためにやってきたのだ。

当時はコンビニなどないから、食事を確保するのも大変だったに違いない。一日3度の食事をおにぎり1個ずつで済ませるとしても、500万個が必要だ。これを心優しい関ケ原町の人たちが提供したとすると、町民一人あたり毎日500個を握らなければならない。仕事や学校に行っているヒマなどないだろう。

当然、寝る場所にも困る。関ケ原町に民家が3千軒あり、町内の皆さんが自宅の使用を認めてくださったとしても、一軒あたり557人! どんなにザコ寝をしようとも、絶対に入りきれない。

――こういう騒動を経て、『竜馬翔ける』の舞台が整ったわけである。そして関ヶ原の戦いを制した結果、徳川学園は各県に1校ずつ、以前から徳川グループだった学校を置き、他の高校を支配するという新体制を築いた。

この作品が発表されたのは86年だが、それに近い85年のデータによれば、このときの高校の総数は5453校。このうち徳川グループの高校は都道府県の数と同じ47校のはずだから、たったそれだけで、他の5406校を支配するわけで、比率としては1対115である。ガラスのようにもろい支配体制であり、他の高校が一斉蜂起すれば、ひとたまりもなく崩壊するのではあるまいか……。

史実を見れば、徳川支配体制は成功し、徳川幕府は260年も続くことになる。だが、同じことを高校生でやろうとすると、とんでもなく面白いことになってしまうのだ。

筆者はこの『竜馬翔ける』の壮大な世界観が大好きで、関ヶ原合戦の日に紹介させていただきました。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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