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西側テック企業のロシア撤退で中国企業に商機か アップルのシェアを中国メーカーが手に入れる?

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
ロシアでスマホシェア2位の中国・小米と3位の米アップル(写真:ロイター/アフロ)

ロシア軍によるウクライナへの侵攻を巡り、西側諸国の多くのテクノロジー企業がロシア事業の一時停止を決めた。こうしたなか、中国企業がこの商機をどう生かすべきか検討していると、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた

ロシアは欧州最大のスマホ市場

これまでにロシアでの販売停止を表明したテクノロジー企業には、スマホメーカーの米アップルや韓国サムスン電子、パソコンメーカーの米HPや米デル・テクノロジーズ、ソフトウエア大手の米マイクロソフト、スウェーデンの通信機器メーカー、エリクソンなどがある。

一方で、中国のテクノロジー大手は沈黙を守ったまま。ロシアでの事業停止を表明する兆しは見られない。その多くは過去数十年の間、同国と強い絆を築いており、一部のテクノロジー製品はロシアで4割以上のシェアを持つ。

ロシアのテクノロジー市場は比較的規模が小さい。例えばスマホとパソコンの出荷台数は世界全体のわずか2%にとどまる。だが、ロシアは欧州最大のスマホ市場で、同国では西側諸国メーカーと中国メーカーが首位の座を争いし烈な競争を繰り広げている。

アップル、ロシア市場のシェア15%

米調査会社のIDCによると、2021年7〜9月期のロシアにおけるスマホメーカー別出荷台数の上位3社はサムスン、中国・小米(シャオミ)、アップルの順。それぞれのシェアは34%、26%、15%だった。

香港の調査会社カウンターポイント・リサーチによると、中国ブランドには小米のほか、realme(リアルミー)やHONOR(オナー)などもあり、これらを合わせた中国製スマホのロシアにおけるシェアは41%。アップルが販売を停止した今、これら中国メーカーはアップルが持っていた約15%のシェアを手に入れる可能性があるという。

米、露へのハイテク禁輸を発動

一方、米国は21年2月下旬、日本や欧州連合(EU)などと協調し、ロシアへのハイテク製品の輸出規制を発動した。半導体や通信部品、センサーなどの特定の製品の輸出規制を強化するもので、域外適用となる。

つまり米国製のデバイスや、ソフトウエア、設計などを採用して米国外で製造された製品も禁輸対象となる。これは米政府が20年9月に中国のスマホメーカー華為技術(ファーウェイ)に適用した規制モデルを転用したものだと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

ハイテク製品のサプライチェーン(供給網)には米国の機器やソフトウエアが広く存在するため、世界中の多くの企業が華為に製品を販売できなくなった。これにより、スマホ用の高性能半導体や設計技術、ソフトウエア、製造装置などの調達が困難になり、華為のスマホ事業は失速した。

華為は、20年4〜6月期に世界スマホ出荷台数で初めて1位になったが、この輸出規制が響き、同年7〜9月期に2位に後退。21年には5位圏外に転落した。これについて英フィナンシャル・タイムズは、「華為は、かつて重要な柱であったスマホ事業から離れ、ビジネスの再構築を余儀なくされている」と報じている

ウォール・ストリート・ジャーナルは専門家の話として「西側の輸出規制を軽視する中国のテクノロジー企業は、それらの国から罰せられるリスクがある」と報じている。香港の調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスのアナリストは、「ほとんどの中国企業にとって、ロシアは市場が小さすぎて、先進国市場から締め出されたり、制裁を受けたりするリスクに見合うだけの価値はない」と指摘する。

  • (このコラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2022年3月9日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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