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AIがもたらす検索広告市場の変容、Google牙城に挑む 米新興やアマゾンが対抗サービス

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
出所:ドイツStatista

3000億米ドル(約45兆円)規模の検索広告市場における米グーグルの支配力に陰りが見え始めたと、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じている。昨今の生成AI(人工知能)ブームによって検索市場にも変化が起きている。これにより、競合企業が新たなサービスを展開し、市場を一変させようとしている。

米新興やアマゾンがグーグルに対抗

AI検索スタートアップの米パープレキシティ(Perplexity)はまもなくAIの回答に広告を導入する。同社はこれまで月20米ドルのサブスクリプションサービスが主な収益源だったが、今後は検索広告による収益も得ることになる。

パープレキシティは、米オープンAIの技術者だったアラビンド・スリニバス氏らが2022年に設立した企業である。米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏や米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)などが出資している。

一方、アマゾンは自社電子商取引(EC)プラットフォームで検索機能の強化を図っている。23年にはECプラットフォームの商品検索に、米オープンAIのチャットボット(自動対話システム)「Chat(チャット)GPT」のような生成AIを導入する計画だと報じられた。

24年2月には商品購入を支援するチャットボット「Rufus(ルーファス)」を追加し、アマゾンのモバイル向けショッピングアプリで利用できるようにした。ショッピングアプリでは商品の視覚検索が過去1年で70%増加した。最近は5つの新しい画像ベース検索機能を導入した。

5 new visual search features that help you quickly find what you’re looking for on Amazon

https://www.aboutamazon.com/news/retail/visual-search-shopping-features

実際にアマゾンの広告事業は急成長している。同社広告事業の四半期売上高が初めて100億ドルの大台を突破したのは22年10〜12月期だった。続く23年1〜3月期は95億ドルと、大台を割り込んだが、その後は回復し、5四半期連続の100億ドル超えとなった。

グーグルの検索広告シェア、25年に5割切る見通し

WSJは、「生成AIブームは検索サービスに変革をもたらした。ユーザーの検索クエリーに対して、より完成度の高い回答や要約を提供するようになってきた」と伝えている。これにより、グーグルが支配する検索広告市場にも大きな変化が及ぶと指摘されている。

Google’s Grip on Search Slips as TikTok and AI Startup Mount Challenge

https://www.wsj.com/tech/online-ad-market-google-tiktok-9599d7e8

米調査会社のイーマーケターは、アマゾンの米国検索広告シェアが24年に22.3%となり、前年比で17.6%の成長が見込まれると報告した。グーグルは50.5%のシェアを維持するものの、成長率は7.6%にとどまると予測する。

イーマーケターによると、アマゾンの23年における米国検索広告シェアは21.1%だった。これに対しグーグルは、52.1%だった。しかしアマゾンのシェアは今後右肩上がり、グーグルは右肩下がりで推移し、グーグルのシェアは25年に10年超ぶりに50%を下回るとイーマーケターはみる。

電通の検索及びコマース部門責任者であるブレンダン・アルバーツ氏は「この市場は、だいぶ前から、大きな変革の時期に来ていた」と話している。

AIによる回答に広告挿入

図1:過去4年間における汎用検索エンジン企業の年間ネット広告収入推移
図1:過去4年間における汎用検索エンジン企業の年間ネット広告収入推移

こうした中、グーグルも検索・AI・広告の融合を図っている。同社は先ごろ、検索結果の上部に表示されるAI要約の中に広告を導入した。グーグルによると、この広告は当初、米国のモバイル検索でのみ表示される。AIを活用して検索体験を向上させ、同時に新たな収益源も模索するというわけだ。

WSJによると、例えば利用者が「ジーンズについた草の染みを落とすにはどうしたらいいですか?」というクエリーを入力する。すると、AIによる回答が表示されるとともに、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が製造するシミ取りペンの一覧も表示される。

他の検索エンジンもAIの回答に広告を挿入する実験を行っている。米マイクロソフトは「Bing(ビング)」に組み込んだチャットボットAIにスポンサーリンクや比較ショッピング広告を導入した。

ただ現在のところ、汎用検索エンジンを手がける企業の中で、グーグルのネット広告収入は断トツだ。23年におけるグーグルの年間ネット広告売上高は2379億米ドル(約35兆3200億円)だった。これに対し2位のマイクロソフトは122億米ドル(約1兆8100億円)。グーグルの金額はマイクロソフトの約20倍だった(図1)

筆者からの補足コメント:

英調査会社のNew Street Researchによると、米国消費者の約60%が、過去30日間にチャットボットを利用して商品購入に関する調査や意思決定を行ったといいます。しかし、一部のアナリストはチャットボットと検索広告の相乗効果について懐疑的に見ています。その理由はチャットボット内の広告はクリックされる可能性が低いと考えられること。「現時点で、チャットボット内広告が従来の検索広告と同じ価値を持つとは言えない」と指摘しています。

  • (本コラム記事は「JBpress」2024年10月16日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)
ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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