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【インタビュー前編】現代ギターの最高峰アル・ディ・メオラ、ザ・ビートルズを弾くアルバムを発表

山崎智之音楽ライター
Al Di Meola / photo by Masanori Naruse

2020年3月13日、アル・ディ・メオラのニュー・アルバム『アクロス・ザ・ユニバース』が世界同時発売となる。

前作『オーパス』から約2年ぶりとなる新作は、全曲がザ・ビートルズのナンバー。『All Your Life: A Tribute To The Beatles』(2013)に続くザ・ビートルズ・トリビュート第2弾だ。「イエスタデイ」「ヘイ・ジュード」などのヒット曲から通好みの楽曲まで、全14曲を収録。ほぼ全編がインストゥルメンタルで、アルのエレクトリックとアコースティック・ギターによってザ・ビートルズの世界が鮮明に描かれている。

2020年2月、“パスト・プレゼント&フューチャー・ツアー”と題された日本公演でも「ビコーズ」「ヘイ・ジュード」が披露され、大きな声援と拍手で迎えられた。

ザ・ビートルズへの想いと近況、今後の活動などについて、アルがじっくり語るインタビューを全2回でお届けしよう。まずは前編。

<ディ・メオラ家のルーツを訪れた>

●今回の“パスト・プレゼント&フューチャー・ツアー”日本公演について教えて下さい。

『アクロス・ザ・ユニバース』(2020年3月13日発売/ワードレコーズ)
『アクロス・ザ・ユニバース』(2020年3月13日発売/ワードレコーズ)

タイトル通り、自分の過去と現在、そして未来を音楽で繋ぐライヴで、もう1年半やっているんだ。最新のオリジナル・アルバム『オーパス』(2018)、その前の『エリシアム』(2015)からの曲もやっている。ザ・ビートルズの曲もやっているし、良いバランスだと思うよ。次のツアーは『アクロス・ザ・ユニバース』に伴うものとなる。このアルバムからのレノン/マッカートニーの曲に焦点を当てながら自分の曲、そしてアストル・ピアソラの曲とミックスするんだ。

●前作『オーパス』はあなたにとって、どんなアルバムでしたか?

『オーパス』は新しい家族が出来て初めて作ったアルバムだった。当時、娘が生まれたばかりだったんだ。今では4歳だよ。私にとって人生の再生であり、新しいセンセーションだった。新しい家族がいて、ずいぶん久しぶりに幸せに満たされていたんだ。それで音楽は別の次元に向かっていった。そんなあるとき、うちの嫁が私の祖父が育った小さな村の人々にコンタクトしたんだ。イタリアの中部から南部、ナポリの東にあるチェッレート・サンニータという村だ。この土地については子供の頃から父に聞いていたんだ。父はアメリカで生まれ育ったけど、祖父から聞いた話を私にしてくれた。

●ディ・メオラ家の原点ですね。

町の議会の人々は私たちを歓迎してくれて、ナポリからチェッレート・サンニータまで車を用意してくれたよ。約1時間半の距離だった。到着したら“WELCOME HOME”という看板が出ていたんだ。みんな、ディ・メオラ家が国際的に知られるようになったことを誇りにしてくれて、名誉市民として“町への鍵”をくれた。祖父が暮らした村を歩いて、当時の彼の生活について教えてもらったよ。村にはディ・メオラ姓の家がたくさんあって、玄関にはディ・メオラ家の紋章が掲げられていたんだ。それを『オーパス』のジャケットに使った。そして裏ジャケットが祖父の家の玄関だ。祖父はこの玄関を出て、アメリカに向かったんだよ。とても象徴的だしエモーショナルだと思った。新しい家族とのスタートがあって、いろんなグッド・フィーリングがあるアルバムだったね。

Al Di Meola / photo by Masanori Naruse
Al Di Meola / photo by Masanori Naruse

<ザ・ビートルズのシンプルな方法論は複雑なものよりも効果的>

●『アクロス・ザ・ユニバース』で演奏されているザ・ビートルズの音楽とはいつ、どのようにして出会ったのですか?どんなところが魅力ですか?

初めてザ・ビートルズを聴いたのは9歳の頃だった。7歳年上の姉が彼らのレコードを買ってきたんだ。一瞬でそのサウンドに魅了された。それからザ・ビートルズの進化に注目して、サウンドや楽曲に魅了されてきたんだ。ずっと彼らへのトリビュートをやりたかった。最初に作ったのは7年前、『All Your Life: A Tribute To The Beatles』(2013)だった。構成はアコースティック・ギターと少しばかりのパーカッションの、比較的シンプルなスタイルだった。他の楽器をオーヴァーダビングしたり、他の人に参加させる誘惑に負けないようにしたんだ。でもいつか、ベース、ドラムス、パーカッション、ホーン、ストリングス、タブラ...あらゆる楽器を取り入れた、フル・プロダクションのアルバムも作りたかった。それが実現したのが『アクロス・ザ・ユニバース』だよ。

●「イエスタデイ」「ヘイ・ジュード」のようなヒット曲から、決して有名曲でないナンバーまでを演奏していますが、どのように選曲したのですか?

ザ・ビートルズのレパートリーは素晴らしいものばかりだ。どの曲も歌うことが出来るし、ハーモニーも興味深い。やりたい曲は幾らでもあるけど、そうしたら2枚組、3枚組になってしまう。今回も少なくとも5、6曲、練習する時間がない曲があった。とにかく前回やっていなくて、今回リハーサルした曲をレコーディングしたんだ。もう1枚やるとしたら、14曲を選曲するのは簡単だよ。

●ザ・ビートルズの曲を演奏してみて、新たに気付いたことはありますか?

ザ・ビートルズの音楽は聴いて楽しむだけでも素晴らしいけど、実際にプレイしてみると、独特の方法論があることに気付くんだ。彼らの音楽はシンプルだけどビューティフルだ。シンプルな方法論は、時に複雑なものよりも効果的だよ。彼らのメロディックな音楽に触れることが出来たのは、重要な経験だった。フュージョンやジャズの世界では、音楽が複雑になったことで、たくさんのミュージシャンが知らず知らずのうちにメロディから距離を置くようになった。でも、たまにメロディやシンプルな音楽に戻ると、複雑な音楽よりも人々のハートに触れることが出来ることに気付くんだ。今回、私は自分のキャリアの最初にハートに触れたザ・ビートルズの音楽を再訪すると同時に、テクニック的な挑戦もしたかった。2つの世界を結びつける試みだったんだ。

●ザ・ビートルズの曲でカヴァーするのが特に難しかったものはありますか?

あまりに難しくて死にそうになった曲が幾つもあるよ(苦笑)!1枚目では、「ミッシェル」がプレイするのもアレンジするのも難しかった。『アクロス・ザ・ユニバース』で一番難しかったのは「マザー・ネイチャーズ・サン」かな。「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」もかなり難易度が高かったな。私がプレイするときはコードとメロディが一体化していて、メロディをプレイしながらコードが進行していくんだ。それを演奏するのは楽ではないよ。

アルのザ・ビートルズ・トークは終わらない。後編記事で彼は、ザ・ビートルズのメンバー達との意外な交流、また今後のプロジェクトや、伝説のスーパー・ギター・トリオについても話してくれた。

Al Di Meola / photo by Masanori Naruse
Al Di Meola / photo by Masanori Naruse

【最新アルバム】

アル・ディ・メオラ

『アクロス・ザ・ユニバース』

2020年3月13日 世界同時発売

ワードレコーズ

GQCS-90868

日本レーベル公式サイト

https://wardrecords.com/products/list.php?name=al+di+meola

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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