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映画「ゴーストバスターズ」公開の1984年12月に起きた"決戦"とは?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ゴーストバスターズ』より。写真:Everett Collection/アフロ

『ゴジラ』、『グレムリン』、『ゴーストバスターズ』。映画のタイトルとしてはもちろん、単語として一般的に認知されるメジャーなものだが、この3作が一気に公開されたのが、1984年の12月だった。当時、それぞれの頭文字を合わせて“3G決戦”などと呼ばれ、映画界は盛り上がった。

今から約37年も前のこの年のお正月映画は以下のラインナップ(この時代らしい、めでたい感じ!)。話題作だけでも、公開日順にこのような並びだった。

12/2 ゴーストバスターズ

12/8 グレムリン

12/15 ゴジラ

12/15 スパルタンX (ジャッキー・チェン主演作)

12/15 Wの悲劇/天国にいちばん近い島 (2本立て)

12/22 キン肉マン/Dr.スランプ/宇宙刑事シャイダー (3本立て)

12/28 男はつらいよ 寅次郎真実一路 (シリーズ34作目)

このうち最初の3本が、お正月映画のトップに君臨すべく、しのぎを削っていた。この時代、映画業界はいかにサプライズな映像を観客に届けるか。どんな特殊効果を仕掛けるのかで競っており、まさにこの3本は時代の空気を反映していたのである。

中でも注目されたのは『ゴジラ』だった。1954年の第1作から1975年の『メカゴジラの逆襲』まで15本が製作され、観客動員数の平均が430万人という驚異的シリーズが、その後、9年間もブランクを空け、満を持しての再開。タイトルも余計なものをつけず『ゴジラ』として勝負に出た。配給の東宝も異例の規模のパブリシティを展開。ちょうどこの1984年は、有楽町のマリオンがオープン。「日劇」という巨大な映画館も備えたそのビルをゴジラが破壊することも大きな話題となった。

一方の『グレムリン』。2年前の『E.T.』のメガヒットにあやかって「スピルバーグからの素敵なプレゼント」(スピルバーグは製作総指揮)という触れ込みで、特にファミリー層や子供たちに猛アピール。すでにアメリカでは6月に公開されており、かわいいギズモ、怖くて憎たらしいグレムリンという、キャラを前面に打ち立てた大プロモーションが展開された。

そして『ゴーストバスターズ』。やはりアメリカでは『グレムリン』と同じ6月公開(しかも同日)。さらに『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』など強力なライバルを抑え、年間トップのヒットを記録していた。ただ、日本での興行はかなり未知数だったのも事実。しかし、レイ・パーカー・Jr.のあの主題歌や、マシュマロマンという異様なキャラによって、期待感がぐんぐん上昇していたのも事実だ。

そして結果は……

ゴーストバスターズ 40億円(年間1位

グレムリン 31.8億円(年間2位

ゴジラ 17億円(年間6位

となった。(数字は配給収入で、現在の興行収入に合わせると約2倍になる。年間の順位は1985年度のもの)

お正月映画の3G決戦を見事に制したのは『ゴーストバスターズ』であった。『スパルタン』『男はつらいよ』『Wの悲劇』『キン肉マン』などは配収9〜13億円。『ゴーストバスターズ』は、わざわざ12/1の映画サービスデー(半額)を避け、12/2の日曜を初日にしたが、各劇場には早朝から長蛇の列が作られた。予約座席指定などがない時代の大ヒットの光景だ。

『ゴーストバスターズ』は翌週も数字が落ちず、『グレムリン』も前売りが伸びなかったわりに盛況のスタート。しかし『ゴジラ』は“まずまず”の出足で、そこから配収20億円と見積もられながら、結果的にその数字も下回ってしまった。3G決戦は、2G決戦にシフトしたのである。

ハリウッドに進出し、日本アカデミー賞にも輝いたゴジラ

では当時、映画界をにぎわせたこの3作が、37年後の現在まで、どのような運命をたどってきたのか。

『ゴジラ』は5年後の1989年、『ゴジラvsビオランテ』が登場。そこから1〜2年に1本のペースで新作が公開され、1999年からは「ミレニアムシリーズ」として6本が送り出された。アニメーション作品も誕生し、新作が途切れない。また1998年にはハリウッド版の『GODZILLA』が作られ、ゴジラの造形が賛否両論を呼んだ。ハリウッドでは2014年に『GODZILLA ゴジラ』として復活。そこから2021年、キングコングと戦う『ゴジラvsコング』までモンスターバースシリーズの主要キャラで世界規模の人気をキープしている。ハリウッドの「ウォーク・オブ・フェーム(スターの星型)」には、ミッキーマウス、ドナルドダックに続いて架空のキャラクターとして3例目の殿堂入りを果たした。

ゴジラ、ハリウッドにてウォーク・オブ・フェイム授賞式
ゴジラ、ハリウッドにてウォーク・オブ・フェイム授賞式写真:ロイター/アフロ

「ミレニアム」終了後の日本では、2016年に『シン・ゴジラ』が完成。大ヒットを記録したうえに、モンスター映画としては異例の日本アカデミー賞最優秀作品賞まで受賞し、社会現象を作った。形態や映画のスタイルを変えて進化しつつ、日本が生んだキャラクターで、ここまで世界的に、そして長い期間、多くの人を虜にしているケースは稀だろう。今後も日本内外でゴジラがアップデートされるのは間違いない。

ここ数年、新たな企画で復活の予感のグレムリン

『グレムリン』はどうか? もともと、このグレムリンの語源はイギリス発祥とされ、悪さをする妖精のこと。『チャーリーとチョコレート工場』の原作者として知られるロアルド・ダールが空軍時代、飛行機に悪戯するキャラとして紹介したりしていた。それが1984年の映画に登場したことでカルチャーアイコンとして広く知れ渡り、グレムリンといえば、あの邪悪なキャラのイメージで定着した。

クリスマスプレゼントがきっかけとなる物語なので、『ホーム・アローン』などと同じように「クリスマスに観る映画」の定番として、その後、現在に至るまで観続けられている。6年後の1990年、1作目と同じジョー・ダンテ監督によって、続編の『グレムリン2 新・種・誕・生』が製作された。日本では年間15位(配収13.5億円)。アメリカでは年間29位という、やや寂しい成績となり、その後、新作が作られることはなかった。

ただ、グレムリン、ギズモと“キャラ立ち”した作品なので、新作の話題は何度となく発生していた。ここ数年、それが現実味を帯び、2017年頃、1作目の脚本を手がけたクリス・コロンバス(『ホーム・アローン』、「ハリー・ポッター」シリーズなど)が、第3作の脚本のラフを書き上げたという報道があり、『アオラレ』の脚本家も参加し、現在もプロジェクトは進行中のよう。

さらに2021年の初めには、『グレムリン』の2作で主演したザック・ギャリガンが、30年ぶりにギズモと共演した「マウンテン・デュー」のCMがアメリカで放映された。

そして2022年には、HBO Maxで「Gremlins: Secrets of the Mogwai(グレムリン:モグワイの秘密)」というシリーズが配信スタートする。10歳の少年がギズモと出合い、冒険を繰り広げる物語が、中国を背景に展開。『ジュラシック・ワールド』のB・D・ウォンらが出演する。一気に『グレムリン』の世界が復活しそうな気配だ。

ゴーストバスターズは32年ぶりに理想の最新作に

最後に『ゴーストバスターズ』。金曜ロードショーの放映と同日の2/4に、32年ぶりとなるシリーズ最新作『ゴーストバスターズ/アフターライフ』が劇場公開。1984年の第1作の後、同じ監督とメインキャストで1989年に続編『ゴーストバスターズ2』が完成。今回の新作は、この2作の正統な続きのストーリーである。2016年に女性キャストに総入れ替えした『ゴーストバスターズ』はリブートという扱いだった。

この『ゴーストバスターズ』、1作目と2作目の間の1986年には「リアル・ゴーストバスターズ」というタイトルでアニメーションシリーズが製作され、1991年まで140話となる人気を得ていた。現在、日本では限定された回のみソフトで視聴できる。さらに1986年から『ゴーストバスターズ』のゲームが何度か発売されており、最新版のシューティングゲームは「ゴーストバスターズ:ザ・ビデオゲーム リマスタード」として人気を得ている。映画ではないジャンルで、その認知度は広がったのだ。

『ゴーストバスターズ/アフターライフ』より。右が主人公のフィービー
『ゴーストバスターズ/アフターライフ』より。右が主人公のフィービー

最新作『ゴーストバスターズ/アフターライフ』では主人公が12歳の少女だが、メガネとヘアスタイルを見れば、誰の家族なのかは一目瞭然。その他にもマシュマロマンやテラードッグといったゴーストキャラに、バスターズの背負ったプロトンパックや愛車のECTO-1、もちろんキャストも含めて懐かしい光景とアイテムが次々と登場。かと言って、元ネタを知らなくても素直に楽しめる作りになっている。37年もの“レガシー”を受け継いで、昔からのファンを満足させながら、新たな観客層も開拓しようとするチャレンジが、うまく機能した作品だと断言したい。何より最初の2作のアイヴァン・ライトマン監督の息子、ジェイソン・ライトマンがこの最新作でメガホンをとったことが感慨深い。名作のスピリットは、次の世代へ受け継がれる−−。

1984年の冬、日本で熱いバトルをみせた『ゴーストバスターズ』、『ゴジラ』、『グレムリン』が、こうして現在も新たな作品へと進化して、映画ファンを楽しませている事実は、それだけで胸が熱くなる。シリーズ作品に頼る映画業界はネタ切れなどと批判も受けるが、長い時間をかけてこうしたプロセスをたどる作品には、やはり普遍的な魅力が備わっていると、改めて実感できるはずである。

金曜ロードショー公式HPより
金曜ロードショー公式HPより

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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