安楽死どう受け入れる?巨匠の神々しい新作【東京国際映画祭】この一本(公式リーフレット記載ナシが残念)
10/28に開幕した第37回東京国際映画祭は、この後のアカデミー賞などに絡む傑作をイチ早く観られるチャンスでもある。ただ例年、少し前に開催されている釜山国際映画祭などに比べると、その数は限定的。ゆえに上映作品の中では貴重な存在だ。
今回、その筆頭に挙げられるのが、映画ファンにとってはマストな巨匠、ペドロ・アルモドバルの新作。『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』だ。先のベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞。つまり傑作であることは確実。スペインのアルモドバルにとっても初の英語長編作で、主演がジュリアン・ムーアとティルダ・スウィントンという超実力派スターである。これからアカデミー賞に向けた賞レースでも注目の一本になっており、作品賞予想でもつねに上位につけている。
高評価の最大の理由のひとつが、安楽死をテーマにしている点。舞台はアメリカで当然、安楽死は違法。末期癌のジャーナリスト、マーサは「癌より先に、自分で命の始末をつけたい」と、ある手段で安楽死を決意する。親友のイングリッドに「その時は、隣の部屋=ルーム・ネクスト・ドアにいて」と頼んで……。マーサは本当に自分で死の決断を下せるのか。そのタイミングはどのような瞬間か。そしてイングリッドは大切な相手の安楽死を、どのように気持ちの整理をつけて受け入れられるのか。そんなシビアなドラマが、アルモトバルらしいカラフルな美術&衣装、美しすぎる脚本、そして2人の名優の神々しいまでの演技でつづられ、強引にではなく、あまりに自然に当事者の思いに没入してしまう感覚。これこそ映画のマジックなのか……。安楽死問題は、この先、世界中で論議が進むはずで、これを秀逸なドラマで予告するアルモドバルは、まさに世界的巨匠と言っていい。
東京国際映画祭の中のセクションである「第21回ラテンビート映画祭 IN TIFF」(スペイン語圏の秀作を集めた毎年の人気の映画祭)での『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は1回目の上映が10/31に行われ(筆者もそこで鑑賞)、この回は早くからチケットが完売していたが、2回目の11/3は、わずかながら現時点(11/1)でチケットが残っている。3回目の11/5もすでに完売。2回目は会場が有楽町・よみうりホールのため、やや映画の上映には不向きではあるものの、ぜひこのチャンスを逃してほしくない。
ただ、この『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』、東京国際映画祭の会場などに置かれている上映作品案内のリーフレットに掲載されていない。スケジュールの欄にも載っていないのだ。『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』のように急遽決まった作品と違って、もう少し早くから上映がわかっていたはずなので(印刷に間に合わなかったタイミングとはいえ)これは残念。もちろん公式ホームページには出ているのだが。アルモドバル作品なのに上映を知らない人もいるかもしれない。
その他に、東京国際で次のアカデミー賞に絡みそうな上映作品は『リアル・ペイン~心の旅~』。マコーレー・カルキンの弟、キーラン・カルキンが助演男優賞、監督・脚本・主演のジェシー・アイゼンバーグが脚本賞ノミネートの有力候補になっており、こちらは2回目の11/6が残席あり。祖母の思い出をたどるためアウシュヴィッツに向かう従兄弟2人の“心の旅”は、この設定を超えて胸をヒリヒリと締めつけるものがある。こちらも傑作!
また東京国際上映のアニメーション作品の3本、『野生の島のロズ』、『Flow』、『メモワール・オブ・ア・スネイル』が、次のアカデミー賞の長編アニメーション部門での有力5本の中に入っている。こちらもオススメだが、『野生の島のロズ』と『Flow』は完売、『メモワール~』はすでに上映が終了した。改めてアニメーション作品のレベル、東京国際映画祭は格段に高いことを証明した印象。
第37回東京国際映画祭は11/6まで東京・日比谷周辺で開催中。