業界屈指の"美女子"の喜怒哀楽/レッツゴードンキ、万全の態勢で短距離王を目指す
■レッツゴードンキは美しく可愛いトップアスリート
競走馬は競馬で戦うために人間が配合を繰り返してつくられた生き物であり、より速く走ることで評価があがる。しかし、ファンがエンターテインメントとしての競馬に求める要素はそれだけではない。500キロもの体を周囲約20センチ弱という細い脚が支えている姿や、真後ろ10度以外は見渡せる大きな瞳の美しさには、ギャンブルとしての競馬を好まない人をも魅了する力がある。
レッツゴードンキはその両面を兼ね備える才色兼備な競走馬だ。歴史あるGI・桜花賞(2015年)を優勝したタイトルホルダーであり、かつ独特の愛らしさで多くのファンを惹きつけている。[レッツゴードンキ]をキーワードに入れて検索すると、サジェストで[かわいい]というワードがトップに出てくるのがその証拠だろう。美しい栗毛の馬体にクリクリとした大きな瞳はまるでアニメのキャラクターのように可愛らしい。桜花賞を勝った3歳時は人間でいうと高校生世代であり、6歳の現在は20代後半に差し掛かったくらいに値する。そして、年齢と共に幼さが抜け、可愛らしさとともに美しさに磨きがかかっている。
■海外では仲間を恋しがり、"泣き出した"ことも
競走馬生活の大半の時間を過ごす栗東トレーニングセンターの馬房でのレッツゴードンキは基本的には穏やかだ。そして、時に自分から擦り寄って甘えてきたり、つれなくソッポを向いてみたり、レースに向けて気持ちが昂り普段は丸い目を尖らせてみたり。わりと、その時の喜怒哀楽を表に出すほうだ。
時には予想外の行動もみせる。レース直前、輪乗りと呼ばれる準備運動中、自ら遠目から撮影していたテレビカメラに向かって屈託のない表情で映り込んだのだ。レース前のわずかな時間、出走する各馬はみな気合が入っており、多くが自分の世界に集中しているのだが、その中でたった1頭レッツゴードンキだけが茶目っ気たっぷりにカメラ目線で自分に向けられたレンズに歩み寄ったのだ。そんな行動をする競走馬はあまり聞いたことがない。
また、2017年暮れの香港遠征でのこと。レッツゴードンキは"泣き出した"。この香港国際競走への遠征は出走する日本馬たちが団体行動をとる。そして、彼女は牝馬同士ということもあってスマートレイアーという芦毛馬と特に多くの行動をともにしていた。競走馬は海外へ輸送するときはストールと呼ばれる窓のあるコンテナに入れられるのだが、レッツゴードンキとスマートレイアーは隣同士で顔くっつけられるくらい近くにいたほどだ。
レッツゴードンキは香港到着直後は若干興奮気味だったのだが、スマートレイアーが近くにいることもあってほどなく平静を取り戻していたと聞いていた。
しかし、レースが迫ったある日、レッツゴードンキとスマートレイアーは別行動をとることになった。
「その日の朝、レッツゴードンキは厩舎まわりの運動だけで馬場には出なかったんです。でも、スマートレイアーはいつもどおり調教場へ向かったので姿を消した。すると、ドンキやレイア―がいなくなった途端に寂しがって、寂しがって。鳴いてばかりいたんです。」(レッツゴードンキを管理する梅田智之調教師)
しかし、そんなハプニングがありながらも香港国際競走ではスタートこそ後手を踏み最後方からレースを進めたものの、ラストは果敢に追い上げて6着と盛り返してみせた。ほんの数日前に心が折れて"泣いていた"とは思えない勇ましい姿であった。
■"喝"を入れられ、程よい気合乗り。陣営「万全の仕上げ」
レッツゴードンキはこれまで短距離路線に集中するようになってからは芝ダート問わず崩れずに成績をあげている。
「毎年、GIレースの連勝馬券に絡んでいるのも凄いことだと思う。牝馬の場合、いちど調子を崩すと二度と立ち直れなくなる馬も少なくないけれど、ドンキは3歳のオークスからの7戦では3着以下の成績を続けていましたが夏の函館スプリントで3着にきてから盛り返しましたからね。こんな精神面の強い牝馬はなかなかいません。」(梅田師)
数ある名馬の中でより速く走ることに優れたものだけがその血を残し、紡ぐむことができる。2015年に桜花賞を制したレッツゴードンキは、桜花賞馬というタイトルだけでも十二分に繁殖牝馬として血を残す価値がある。中にはそのために競走生活を早めに切り上げる馬もいるが、彼女の正式な引退時期はまだ決まってはいない。
「それでも年齢的なことを考えると、それほど遠くない将来に繁殖に上がることになるでしょうし、その覚悟は出来ています。2017年は2着だったスプリンターズSはすごくドンキに適していますし、とにかく"もうひとつGIのタイトル獲らせてあげたい"という気持ちが強いですね。」(梅田師)
スプリンターズS(GI、2018年9月30日、中山芝1200m)へ向けての最終追い切りは栗東トレセンの坂路コースで主戦の岩田騎手を背に行われた。ラストはしっかり追われたこともあり動きもよく、時計も優秀で上積みが感じられた。
「しっかり"喝"を入れてもらいました。いつもと同じように行きたがる面を見せたのも良かったですね。悔いのない仕上げです」と梅田師は力強く語る。
馬房をのぞくと、"喝"を入れられたレッツゴードンキは普段の馬房でも緊張感を増したキリッとした表情でレースに向けて備えていた。その姿をぜひこの週末に見ていただきたい。