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(その1)#9月入学賛成 vs. #9月入学反対:ツイッター上で繰り広げられる賛成運動・反対運動

寺沢拓敬言語社会学者

4月30日、知事会から飛び出した「9月入学」提言をきっかけに、政府内での検討がはじまり、マスメディアの報道も熱を帯び始めた。

同様に、ひとつのムーブメントが起きつつあるのがツイッター上である。

9月入学に賛成する人々と、9月入学に反対する人々が、ハッシュタグ(例、#9月入学賛成 #9月入学反対)を活用しながら、問題の周知を呼びかけているからである。

「いいね」の数が大きいものからいくつか例をとろう。(元ツイートに関心がある人は検索してください。また、2020年5月18日22:30現在、以下の1つ目のいいね数が439で、2つ目が614である。ただし、1つ目は現在削除済みで、Yahoo!リアルタイム検索上にのみログがある)。

「賛成側」の例

九月入学のことで高三生として声をあげさせて欲しい

どうしても最後の1年をこんな形で終わらせたくない。

勉強の機会もそうだし体育祭、文化祭なども無くなっていくのにこのまま卒業なんて寂しすぎる。

大人は番組に出れて好きなこと言えるけど子供は出れるわけじゃない。

#9月入学賛成

#九月入学賛成

「反対側」の例

私は高校生ですが9月年度制は反対です

1 もう半年程、学校や予備校などに通わなければならず経済的に厳しい人は余計に学費を払わなければならない

2 同級生が変わり4~8月生まれは特に未就学児は影響を受ける

3 暑い中入試をやるのは危険

などかなり不便かと

#9月から新学期

#9月入学

#9月入学反対

すべてがそうだというわけではないが、自分の立場を表明するために賛成・反対のハッシュタグを使い、そのうえで意見や思いを表明するという形式が多い。賛否表明のフォーマットとして、ハッシュタグが機能しているのである。

したがって、#9月入学賛成 #9月入学反対 というハッシュタグに注目していけば、ツイッター上でどのように9月入学問題が論じられているか垣間見ることができるかもしれない。なお、賛成・反対いずれのハッシュタグもツイートに含んでいる、いわば「両論併記」的なツイートもある。こちらは、以下の分析では除外する。

賛成・反対のツイートの推移

Yahoo!リアルタイム検索を用いて、4月下旬から5月17日23:59まで、上記のハッシュタグを使ったツイートを抽出した(RTは除外。合計11,600ツイート)。賛成・反対のハッシュタグいずれか一方が含まれるツイートを、それぞれ「賛成ツイート」「反対ツイート」としている。ただし、両方を含んだ1,163ツイートは除外し、最終的に、10,437ツイートを分析する。

まず、ツイート数の推移を確認しよう。

日付ごとに賛成・反対のツイートを集計したのが下図である。

賛成・反対のツイートの推移
賛成・反対のツイートの推移

やはり知事会の提言があった4月30日に爆発的に伸びている。また、前日(29日)に行われた知事会のオンライン会議で「9月入学」案が飛び出したこともあり、この日も多い。

一方、連休明けごろになると動きは下火になるが、政府内での決定間近ということを察知してか、ここ数日でまた盛り上がりを見せている。

なお、図では総ツイートだけでなく、ユニークツイートでの傾向も分析している。これは、1アカウント1ツイートに限定して集計したものである。SNSでは少数のアカウントが繰り返し特定のハッシュタグをポストすることがしばしばある。こうした大量投稿者の影響を除去するための処理である。

ユニークツイートの推移(細い線)を見ると、賛成・反対も、ここ数日に関してはまったく増加していない。最近の活動の再燃は、過去にすでに意見表明していた人々が「戻ってきた」成果と見ることができるだろう。

賛成ツイート・反対ツイートによく現れる言葉

次に、賛成・反対の人々は、それぞれどのような論点に言及しているのか。

ここでは、テキストマイニングの手法を用いて、賛成側・反対側にそれぞれ特徴的なキーワードは何か、分析する(処理には統計解析環境 R の RMeCab パッケージを利用した)。

結果は下図の通り。

賛成側に多い語
賛成側に多い語
反対側に多い語
反対側に多い語

図では少なくとも100ツイートの言及があった語に限定している。

図で「○○寄り」とは、出現率に2.5倍以上の差がある語である。たとえば、あるキーワードが、賛成側のツイートには25%、反対側のツイートには10%の割合で出現した場合、その差は2.5倍であり、「賛成寄り」に分類される。

また、「やや○○寄り」は出現率が1.5倍以上2.5倍未満のものである。そして、1.0倍~1.5倍の中間的な語、つまり賛成・反対どちらにも出てくる語は、数が非常に多いので図では省略している。

この図から垣間見えることは、たとえば以下の通り。

  • 賛成側には、学習機会の保障、学校再開に関する語が多い。これは知事会の提言の根拠のひとつでもある。
  • 反対側には、未就学児、既存の制度との衝突(就職、予算等)、報道姿勢への言及が多い。

以上は、9月入学の賛否両論をある程度知る人にとって予想通りの結果である(たとえば、こちらの日本経済新聞の記事に詳しい。また、日本教育学会の声明「『9月入学・始業』の拙速な決定を避け、慎重な社会的論議を求める」も参照されたい)。

その一方で、いくつかツイッター特有の傾向も見られる。

たとえば、グローバル、国際、留学といった語が、「やや反対寄り」にある点は注目に値する。知事会の提言を思い出してみれば、その根拠の一つが「9月入学はグローバルスタンダードだから」というものだったのだが、この点についてツイッターでは賛成側の言及は多くない。むしろ反対側が批判をくわえることで言及が増えている構図である。

事実、9月入学への賛成を表明する現役高校生(と称するアカウント)は多いが、彼ら彼女らは学習機会の保障や、中止になった行事等の代替措置を声高に訴える一方で、「グローバルスタンダード」なるものには、いたって無関心である。それはもっともな話で、「9月入学はグローバルスタンダート」云々はは、当事者(高校生や教育関係者)の賛否とはまったくずれた論点だからである(そもそも「グローバルスタンダード」なのかという点については、次の記事が参考になる。「9月入学」について考える――誰のために? 何のために? / 中里透 / マクロ経済学・財政運営 | SYNODOS -シノドス-)。

今回は、キーワードの概要を見たが、もう少し詳しく分析することも可能である。たとえば、どのような語があると、賛成・反対という立場表明につながりやすいかなどである。これについてはまた後日、記事を書きたい。

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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