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Jリーグの新SNSガイドラインは、日本のスポーツの「応援」の形を劇的に変えるはず

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
サポーターの撮影した写真がメディアのトップをかざる日が来るかもしれません。(写真:アフロスポーツ)

今月からJリーグの公式試合における写真や動画の使用ガイドラインが、大きく変わることになったのをご存じでしょうか。

1月末に発表されたばかりのこのガイドラインは、まだそれほど多くのメディアには取り上げられていないようですが、日本におけるスポーツ観戦や応援の形を大きく変える可能性を秘めています。

参考:Jリーグ公式戦の写真や動画のSNS投稿が可能に!

詳細は是非ガイドラインを読んでいただければと思いますが、そのポイントをこちらでご紹介しましょう。

写真や動画のSNS投稿を許諾

この「Jリーグ公式試合における写真・動画のSNSおよびインターネット上での使用ガイドライン(以下「新JリーグSNSガイドライン」)」は、2月12日施工ですので、明日開催されるFUJI FILM SUPERCUPから適用されることになります。

このガイドラインの最も画期的なのは、試合中のピッチ映像以外の試合会場における写真や動画のSNSやインターネットへの投稿を「OK」と明言したところにあります。

Jリーグでは「Jリーグ試合運営管理規程」に「私的目的以外で、試合及び観客等の写真撮影または動画撮影」が明確に禁止行為と記載されています。

従来は、SNSやインターネットへの写真投稿というのが、この私的目的にあたるのかどうかが曖昧なため、公式試合が行われるスタジアムやその周辺で撮影した写真や動画をインターネット上に投稿することは、禁止行為と考える人が多く存在していました。

ただ、当然ながら今や誰もがスマホで、写真はもちろん動画も手軽にSNSにアップできる時代です。

そもそもSNSへの写真や動画投稿は、私的目的だから大丈夫と考えている人はもちろん、こうしたJリーグのルールを知らない人の多くは、試合観戦をしにいけば自分達の写真や動画を撮影し、SNSにアップしているのが現状だったとは言えます。

そうした観客のSNS投稿を、Jリーグやチームサイドが見て回って削除を促すという話はあまり聞いたことがありませんから、多くのケースは黙認されていたのが実際のところでしょう。

そういう意味では、このガイドライン発表前から現在も、状況はほとんど変わってないと感じる方も多いかもしれません

一般的なガイドラインは禁止を強調

ただ、今回の「新JリーグSNSガイドライン」の重要なポイントとなるのが、明確に「OK」の宣言した点です。

通常、こうしたSNSのガイドラインというのは、一般的には禁止行為の注意喚起を強調したものになりがちです。

今回もガイドライン上、試合中のピッチ上を撮影した映像や、スタジアム内の大型ビジョンで放映されたハイライト映像などが、引き続きSNSへの投稿の禁止対象になったことからも分かるように、Jリーグの公式試合の試合映像というのはDAZNなどのメディアが配信権を保有しており、SNSへの投稿は著作権上の違反行為となります。

当然、著作権者側が一番避けたいのはこうした違反行為ですから、自然と違反行為に対する警告や注意喚起というのが宣言の中心になります。例えばパ・リーグが昨年SNSへの映像投稿に注意喚起を行ったのが象徴的と言えるでしょう。

参考:パ・リーグ 試合映像のSNS投稿に注意喚起

また、映画館で映画を観る度に、観客に犯罪者がいる前提かのように流される「NO MORE 映画泥棒」の啓発CMもその1つと言えるかもしれません。

もちろん、不正行為に対する継続的な啓発行為や注意喚起は重要ではあるのですが、こうした注意喚起の連鎖が引き起こすのが、真面目なサポーターほど合法な写真や動画もSNSにアップしなくなるという現象です。

場合によっては、他のサポーターが写真や動画を投稿しているのを「これは著作権的に大丈夫か?」とスポーツ団体の代わりに指摘してまわる人が増えるケースもあるわけです。

そうすると、自然とその業界全体に萎縮効果が発生し、合法なものも含めてSNSの投稿数が減るということになります。

許諾する範囲を明確にする意義

その中で、この「新JリーグSNSガイドライン」が画期的なのは、明確にSNSへの投稿は「OK」であると明言している点です。

特に分かりにくい文章だけでなく、イラストでも非常に分かりやすく「投稿OK」と促しているのは、従来の常識から考えると革命的とすらいえます。

(出典:Jリーグウェブサイト)
(出典:Jリーグウェブサイト)

実は、これまでグレーゾーンと思われていたSNS投稿を明確に「OK」と宣言することに効果があることは、既に様々な業界で証明されています。

最も有名な事例は、「シェアする美術」という書籍の著者としても知られる洞田貫氏による森美術館の事例でしょう。

森美術館では、従来はSNS投稿が禁止だと思われがちだった美術館において、明確にSNS投稿「OK」をうたっていることで有名です。

(出典:森美術館)
(出典:森美術館)

参考:国内美術館で最大規模のフォロワー数! 森美術館の中の人が語るSNS運用術

2017年には、森美術館はSNS映えする展示内容を組み合わせることで、来館者の多数のSNS投稿を生み出し、そのクチコミ効果で2018年に開催された国内展覧会の「入場者数ランキング」の1位、2位を獲得してしまいました。

また、最近ではオーディション番組「THE FIRST」から誕生した「BE:FIRST」が、ファンによる応援であればアーティストの写真の投稿を「OK」と明確に宣言したことで、「BE:FIRST」の「BESTY」と呼ばれるファンの方々が積極的にSNSに「BE:FIRST」の写真を投稿しはじめている事例もあります。

参考:BE:FIRSTは日本の音楽業界のSNS活用に革命を起こすかもしれない

著作権者の視点からすると、グレーゾーンはグレーゾーンとして残しておく方が、いざ漫画村のような確信犯の著作権違反者が登場した際の訴訟で不利にならない、というメリットはあります。

ただ、実は現在のSNS時代においては、そのグレーゾーンを明確に「OK」と宣言して、ファンやサポーターが気兼ねなくSNS投稿ができるようにしてあげる方が、SNS投稿のクチコミ効果のメリットを最大限得られる可能性が見えているわけです。

昨年のルヴァンカップで実験済み

今回のJリーグも、いきなり無防備に今回のような解禁宣言に踏み切ったわけではありません。

実は、Jリーグは昨年のルヴァンカップ決勝において、1試合限りで今回同様のガイドラインを制定し、実験を行っているのです。

実際に、「#ルヴァンカップ決勝」でツイッター等の画像検索をすると、メディアの写真に交じって、たくさんの会場で応援したファンの写真を発見することができます。

おそらくは、Jリーグとしてもルヴァンカップ決勝の実験での結果が好ましい結果だったために、今回の公式戦全体への適用という判断になったのだと考えられます。

今回の「新JリーグSNSガイドライン」では、これまで営利目的ではないかと指摘されやすかった「YouTube収益プログラムやアフィリエイト広告」については営利目的での利用に含まれないものとしている点にもその本気度がうかがえます。

今後、試合会場からYouTubeライブでピッチを写さずに解説実況をしたり、選手が活用しているグッズの紹介をしたりという企画が増える可能性もあるでしょう。

ピッチ内の写真撮影がOKという凄さ

さらに、個人的に今回の「新JリーグSNSガイドライン」で非常に印象的なのは、試合中のピッチ内の動画撮影は禁止されている一方で、ピッチ内の写真撮影が許諾の範囲に入っている点です。

Jリーグの公式アプリにも、サポーターが撮影した写真を公式のチームロゴを使った写真に加工できるフォトフレーム機能を実装しており、サポーターの写真撮影に対する本気度が伝わってきます。

参考:写真で観戦履歴を残そう!フォトフレーム機能を追加

実は筆者は、過去にJリーグのチーム関係者と、似たようなサポーターの写真撮影促進キャンペーンの議論をしたことがあります。

その際に、放映権以外の全ての権利をリーグやチームが保持しているわけではなく、選手の肖像権は選手によっては芸能事務所に所属していたりと、権利関係が複雑で、こうしたサポーターの写真撮影を許可するのが意外に難しいという話を聞きました。

今回の「新JリーグSNSガイドライン」で明確に写真撮影を試合中のピッチ内も含めて「OK」にするためには、おそらく様々な関係者との議論や調整があったことが想像されるわけです。

さらに、試合中の写真撮影がOKということは、実は悪意のある人が写真撮影のフリをして動画を撮影していても違いが分かりにくいため、取り締まりの観点でいえばリスクのある決断と言えます。

試合中の動画撮影や動画中継を禁止したければ、映画館の「NO MORE 映画泥棒」のように禁止を強くアピールして、試合中のスマホ利用をしにくい雰囲気を作る方が安全なわけです。

その動画撮影がされやすくなるというリスクを負ってでも、今回大幅にガイドラインの解釈をサポーターの自由度が高い方に決定したJリーグ関係者の苦労は、相当なものだったはずです。

Jリーグの決断にサポーターはどう応えるか

そういう意味で、今回の「新JリーグSNSガイドライン」は、日本では「性悪説」で制定されがちなSNSガイドラインを、サポーターを信じるという形で「性善説」に大幅に振り切ったガイドラインとも言えます。

特に、「新JリーグSNSガイドライン」のJリーグが許諾していないことの項目に、「Jリーグ又はJクラブに対しての愛の無い投稿」が含まれているのがその象徴と言えるでしょう。

(出典:Jリーグウェブサイト)
(出典:Jリーグウェブサイト)

当然愛があるかどうかというのは、人によって曖昧な感覚ですから、法的に考えればこうした記載は無意味にも思えます。

ただ、大袈裟にいえば、今回Jリーグは、サポーターの「愛」を信じる判断をしたと考えるべきでしょう。

これまでのサポーターの「応援」というのは、スタジアムやテレビの前でチームを応援することだったかもしれません。

これからのサポーターは、選手の写真を撮ったり、試合観戦の感想の写真や動画をSNSにあげることで、選手のプレイだけでなく、チームやJリーグ全体の盛り上がりを「応援」することもできるようになりました。

今後「新JリーグSNSガイドライン」が機能すれば、当然、他のスポーツにおいても、同様の「性善説」でのガイドラインが導入されるきっかけになるでしょう。

そういう意味で、今回のJリーグの決断は、日本のスポーツ観戦を、ただ試合を観るだけでなく、SNSに写真や動画を投稿して「応援」するという、SNS時代ならではの形に劇的に進化させる可能性を秘めている、というのは大袈裟でしょうか。

数年後、Jリーグの今回の決断が正しかったと振り返れるかどうかは、私たちサポーター1人1人がJリーグの決断に正しく応えられるかどうかにかかっているように感じます。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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