Yahoo!ニュース

なぜバルサはヤマルと契約延長を行ったのか?ネイマールの面影とヤング・タレントの希望。

森田泰史スポーツライター
成長中のヤマル(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ヤング・タレントを、確保する必要があった。

バルセロナは先日、ラミン・ヤマルと契約延長を行った。新たな契約は2026年夏まで。16歳のヤマルが初のプロ契約を締結した。

なお、バルセロナはヤマルの契約解除金を10億ユーロ(約1500億円)に設定している。これは他クラブに対する「ウチの選手に触れてくれるな」というメッセージでもある。

シャビ監督の信頼を勝ち得たヤマル
シャビ監督の信頼を勝ち得たヤマル写真:なかしまだいすけ/アフロ

バルセロナは近年、契約延長の際、多くのヤングプレーヤーに高額な契約解除金を設定してきた。ガビ(2026年夏/契約解除金10億ユーロ)、ペドリ・ゴンサレス(2026年夏/契約解除金10億ユーロ)、ロナウド・アラウホ(2026年夏/契約解除金10億ユーロ)、アレッハンドロ・バルデ(2028年夏/契約解除金10億ユーロ)、複数選手をその手法でグリップしてきた。

バルセロナがこのアプローチを採るのには理由がある。大きかったの、2017年夏のネイマールの移籍だ。

■ネイマールの移籍

フガ・デ・ネイマールーー、「ネイマールの遁走」と称されたパリ・サンジェルマンの移籍はクレ(バルセロナファン)に多大なるショックを与えた。

それは2017年夏の出来事である。バルセロナでプレーしていたネイマールを、パリ・サンジェルマンが狙った。バルセロナ側にネイマール放出の意思はなかった。契約解除金2億2200万ユーロ(約334億円)が支払われない限り、ネイマールの移籍は成立しないはずだった。

当時、バルセロナの幹部が「200%残留する」と断言していたが、その夏のうちに、ネイマールの移籍が成立した。2億2200万ユーロの置き土産を残して、ネイマールは花の都へと発ったのである。

■MSNと呼ばれた3トップ

ネイマール、リオネル・メッシ、ルイス・スアレスの3選手は「MSN」と呼ばれ、バルセロナで破壊的な攻撃力を見せつけていた。2014−15シーズンには、チャンピオンズリーグの優勝を含め、トリプレテ(3冠)を達成。クレに歓喜をもたらした。

「MSN」は南米トリオだ。彼らはピッチ外でも良好な関係を築き、それがピッチ内で反映されていた。その化学反応を、誰もが楽しんでいた。

MSNと呼ばれた3トップ
MSNと呼ばれた3トップ写真:なかしまだいすけ/アフロ

「僕たちの間に、嫉妬心はまったくなかった」と当時を回想するのはスアレスだ。

「ピッチ外においては、僕たちはマテ茶を一緒に飲んでいた。ネイマールは飲まなかったけど、僕とメッシがいるところに来て、いつも一緒に話していたよ。いろいろな話をした。確かに、僕たちは異なる生活を送っていたかもしれない。だけど、僕たちは彼の、彼は僕たちの生活を知っていた」

「僕たちは、ネイマールに悪いところがあると、時々、それを指摘していた。ネイマールは、ビッグプレーヤーと一緒にいて、そういう話を聞くのが好きな青年だった」

■ネイマールの後継者

スアレスの“証言”が示す通り、「MSN」は完璧なコンビネーションを築いていた。

だが彼らは「解体」され、その後、バルセロナはネイマールの代役探しに奔走することになる。

コウチーニョ、デンベレ、メッシ
コウチーニョ、デンベレ、メッシ写真:ロイター/アフロ

バルセロナはウスマン・デンベレ(移籍金1億500万ユーロ/約152億円/2017年夏加入)、フィリップ・コウチーニョ(1億2000万ユーロ/約181億円/2018年1月加入)、アントワーヌ・グリーズマン(1億2000万ユーロ/2019年夏加入)を次々に獲得した。

しかしながら、ネイマールの代役を務められる選手はいなかった。

また、バルセロナはネイマールの売却で得た資金を、あっという間に使い果たしてしまった。それだけではない。多くの大物選手を抱え、なおかつ長くクラブにいる選手たち(メッシ、ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバ等)がおり、サラリーキャップの額は膨れ上がっていった。

バルセロナはネイマールの退団で、スポーツ的側面で多くを失った。加えて、財政面でガタガタになってしまったのである。

■同じ轍を踏まないために

バルセロナはネイマールの退団で苦しんだ。その記憶がある以上、同じ轍を踏むわけにはいかない。

ヤマル、バルデ、ガビ、アラウホ…。カンテラーノ(下部組織出身選手)を次々に確保して、高額な契約解除金を設定する。2億2200万ユーロであれば、支払うクラブがあるかもしれない。だが10億ユーロを準備できるクラブは、流石に存在しないだろう。

「私はポジティブになるように努めている。自然体で、自分に見えているものを伝えようとしている。魔法を使えるわけではないからね。フットボールという意味合いで、たくさんの父と呼べる人たちがいた。選手たちに言っているのは、『恐れを抱く必要はない』『チャレンジしろ』ということ。監督というのは選手の能力に依存する」

「私は現役時代、忍耐を持ってプレーしていた。バルセロナで、26番を着けて、3年間プレーした。バルサでプレーするためには、忍耐が必要なんだ」

「いま、人々は、性急に生きている。だが、世界最高のクラブでは常に競争がある。新しい世代はスピーディな成功を求めている。だがバルサのようなビッグクラブでは、忍耐を持たなければいけない」

これはシャビ監督のコメントだ。

得点を喜ぶバルサの選手たち
得点を喜ぶバルサの選手たち写真:なかしまだいすけ/アフロ

ヤマルの契約延長の意味するところは大きい。欧州のビッグクラブに対する牽制もそうだが、カンテラの選手たちにも、「ヤマルのようになれば…」というのを暗に伝えることができる。

現在と未来に賭ける。カンテラーノがトップで躍動している姿こそ、クレが最も求めているものなのだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事