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公募校長辞任でおもう、この国はだいじょうぶか

前屋毅フリージャーナリスト

■3ヶ月で子どもたちを見放しながら「不祥事ではない」

橋下徹市長による教育改革の目玉とされた大阪市立小中学校の校長を全国から公募する制度で、今春、11人が就任していた。ところが就任から3ヶ月足らずで、早くも退職者があらわれた。

退職したのは大阪市立南港緑小学校(住之江区)の校長に今年4月に就任していた千葉貴樹氏で、6月25日付で大阪市教育委員会議で退職を承認された。その日の記者会見の場で千葉氏は、「経験を生かし、英語教育に力を入れたいとアピールしたが、今の学校の課題は基礎学力の向上だった。英語教育に力を注げる環境ではなかった」と退職の理由を述べたという。

自分が期待した能力のない子どもたちだった、とも受け取れる弁だ。自分がおもっているレベルの学力のない子どもたちばかりだから捨てる、と言わんばかりだ。

10年以上も複数の外資系証券会社で勤めてきたという千葉氏は、成果主義のなかで生き抜いてきたのだろう。その経験から、短期で成果があがらなければ切り捨てる、という選択をしたのかもしれない。

言うまでもなく、教育とはそんなものではないはずだ。短期に答はでない。千葉氏が英語教育に力を注ぎたいなら、そういう環境を整え、子どもたちが教育内容についてこれるレベルに引き上げていく努力が不可欠だ。簡単にいくものではなく、時間はかかる。

しかも、公立小学校である。さまざまな子どもたちが集まっているし、教員もいろいろだ。校長が新しい方針を掲げただけで、簡単に動くわけがないのだ。

それを考慮していなかったということは、千葉氏の認識不足以外の何者でもない。にもかかわらず千葉氏は記者会見で、「何も不祥事を起こしていないし、謝罪することではない」といったそうだ。3ヶ月で子どもを放り出すのは、立派な不祥事だ。それさえ理解していない人物が、そもそも教育という職場を選ぶことからして大間違いというしかない。

■「民間」を見下す橋下市長

千葉氏の退職をうけて橋下市長は、当然、不快感を示した。そして、「自分に合わないといってすぐに辞めるのは民間の特徴だ」(『読売』電子版 6月26日付)と述べたという。

首をかしげざるを得ない発言である。「すぐ辞めるのは民間の特徴」なら、民間企業は退職者だらけということになる。「民間」を見下した言い方でしかない。

そんな「民間」を校長に採用するなど、教育現場を混乱させることにしかならない。「すぐ辞める」とおもっている「民間」を校長に採用する制度を導入した橋下市長が、そもそも混乱の元凶ということになる。

にもかかわらず橋下市長は、「公募制度が失敗だとはおもっていない」とも語り、制度を見直す姿勢はみせなかった。「民間」を見下して責任を押しつけ、「自分は正しい」といっているようなものだ。

退職した千葉市にしても、「自分は悪くない」という姿勢だけは貫いている。子どもたちは二の次で自分を守ることだけに必死な政治家と校長希望者だったというわけで、こんな人たちが教育現場を動かしている日本はだいじょうぶなのか、とおもわないではいられない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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