復旧が進む熊本城 今秋には一般見学が3年半ぶりに再開
毎年4月に講師を務めさせてもらっている、古巣の新聞社の新人研修を、今年は熊本で開催した。例年、マーケティングの研修を担当しているのだが、今年は日程に余裕があったこともあり、ルポルタージュを書くという課題も出した。新入社員らとともに、半日かけて熊本県内各地の熊本地震の被災地を周って取材。その中で、熊本城にも足を運んだ。
熊本のシンボル、熊本城。熊本地震によって天守閣や石垣が損壊し、復旧作業が続く。空き地では、崩落した石垣の石が、整然と並べられている。塀も、倒れたままの場所が目立つ。城全体としては、完全復旧に20年を要するとされており、今も規制区域内に立ち入ることはできない。
しかしながら、天守閣は地震前の姿を取り戻しつつある。この日は、立派な大天守を確認することができた。隣にいた新入社員らから、感嘆の声が上がった。整備された歩道から遠目に眺める限り、外観は、ほぼ元どおりになっているように見える。
熊本城総合事務所によると、一般見学が今年10月から、3年半ぶりに一部で再開されるという。原則として日曜祝日のみの公開だが、大天守を近くで見学できるようになる。さらに、2020年春には、橋の形状をした「特別見学通路」も完成する見通し。石垣などの復旧工事を、より間近で見られるようになる。
新入社員の一人が、私に近寄りこう口にした。「アジア圏からの観光客が目立ちますね。復旧過程でこれだけの人が訪れているとは驚きです」。確かに、歩道を歩くのは中国人や韓国人、東南アジア系の観光客ばかりだ。世界に名だたる熊本城。熊本県人として誇りに思えた。
その夜、全員分のルポルタージュが、締め切りのずいぶん前に届いた。少し緊張しつつファイルを開く。「天守閣から復旧作業の音が聞こえる」「ローマは一日にしてならず。復興も短期間にはなし得ないことを痛感した」。なかなかセンスの良い文章が並ぶ。中には、自分はまだ未熟だが、熊本城の姿を見て勇気をもらえたといった趣旨の泣かせる文章もあった。
翌日、新入社員たちは、私に深々とお辞儀をし、搭乗ゲートへと向かった。彼らの後ろ姿と今の熊本城が、なぜか重なる。熊本城総合事務所の担当者は、取材に対し「天守閣は復興のシンボル。復旧して元気になった姿を見に来てほしい」と話してくれた。いつの日か、また共に熊本城を訪れたいという思いが湧いてきた。
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熊本城の立ち入り可能エリアや、復旧工事に関する最新情報は、熊本城公式ホームページで確認できる。
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※毎日新聞連載「モリシの熊本通信」(5月25日付)の内容に、一部加筆した。