【熊本地震から6年】仮設団地“最後の自治会長” 「責任果たす」と決意
熊本地震から14日で丸6年となった。一時は4万7000人以上が仮設住宅などで仮暮らしを送っていたが、95人にまで減った。一方で、被災地を歩くと「心の復興はまだ道半ば」との声も聞こえてくる。そんな被災者らを元気づけようと、仮設住宅“最後の自治会長”と地元出身の男性が企画を立ち上げた。
「心の復興は道半ば」
県によると、3月末時点で、熊本県内の仮設住宅21戸に60人、みなし仮設16戸に35人の計95人が暮らしている。また西原村によると、同村小森仮設団地では3月末時点で5戸に12人が生活。全員が生活再建を果たす、もしくは仮設住宅の居住期限が切れるなどすれば、仮設住宅はなくなる予定だ。
同村は、地域支え合いセンターに見守り活動を委託するなど、様々な形で仮設団地の住民をサポートしてきた。同村住民福祉課は「全員が生活再建を果たすまで寄り添っていきたい」としている。
小森仮設団地で自治会長を務めるのが平島睦子さん(61)だ。県などによると、仮設団地の集約などが進んだ結果、県内の仮設団地の自治会長は今や平島さんただ一人。5年以上にわたり自治会長を務めてきた平島さんは「いろんな方との出会いに恵まれてなんとかここまでやってこられた。最後までやり抜いて自治会長としての責任を果たす」と力強く語る。
一方で平島さんは、復興の現状について「建物やインフラの復興は進んでいるが、心の復興は道半ば」と指摘する。平島さんが考える復興とは、すべての被災者が地震前の日常生活を取り戻すことにある。これには、地震によって崩壊した地域コミュニティーの再建も含まれる。
建物の再建だけでは、心にぽっかり空いた穴を埋めることはできず、心の復興とならない。地域コミュニティーを再建し、孤立を防ぐことこそが重要である。こう考えた平島さんは、仮設団地でイベントを企画・開催するなどしてきた。しかし、コロナ禍で大きなイベント開催が難しくなり、「この2年は自治会長としてできることが限られ、もどかしさもあった」と明かす。
プロジェクションマッピングで人々を明るい気持ちに
そんな平島さんの思いを汲んで立ち上がったのが、映像演出などを手がける地元企業の代表・中村圭さん(35)だ。
中村さんは宮城県の大学に通っていた縁で、熊本地震の直前まで、東日本大震災の被災地に通っていた。ある仮設団地を定期的に訪問していたが、時間の経過とともに訪れる人が減っていく様子を見てきた。その経験から、熊本地震後に地元・西原村に完成した仮設住宅を目にして、「生活再建を最後まで見届けよう」と誓った。
中村さんは、普段から平島さんとコミュニケーションを取り、これまでイベント開催などに協力してきた。コロナ前は、仮設団地の住民らと花を植えるイベントや落語会を通し、元気を届けてきた。
仕事ではプロジェクションマッピングを手がけている。持病のため自由に遠出することが難しい平島さんが、プロジェクションマッピングを観たいと思っていることも知っていた。「暗いニュースが多く、コロナ禍でイベント開催もままならない状況が長かった。仮設団地の人たちに明るい気持ちになってもらいたい」。そう考え、今回プロジェクションマッピングを、自治会と共同で実施することにした。
集まる機会をつくることが重要
西原村でも熊本地震による犠牲者が出た。追悼の意味合いも込めて、プロジェクションマッピングは地震から6年となる4月14日に実施することに決めた。日没後、小森仮設団地の仮設住宅の壁などを、光で彩る。仮設団地に関わってくれた人と村民に描いてもらった花やメッセージを、プロジェクションマッピングの形で投影予定だ(小雨決行、荒天中止)。
中村さんは「地震から6年の節目にあたる大切な日。しっかり準備して臨みたい」と決意表明。平島さんは「多くの方々の支援でここまでやってこられた。当日は支援者への感謝の思いを表現したい。また、地域コミュニティーの維持には、集まる機会をつくることが何より重要。今回をそのきっかけにできれば」と話している。