『宇宙戦艦ヤマト』のデスラー総統など、悪役はなぜ「古くさい言葉」で話すのだろう?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
強大なラスボスには、さまざまな魅力がある。
信念(歪んでいたりするけど)や、統率力(恐怖政治だったりするけど)なども興味深いが、セリフや言葉づかいもまことに魅力的だ。
なかでも、筆者が子どもの頃に見ていた『宇宙戦艦ヤマト』のデスラー総統や『仮面ライダー』のショッカーの首領は、言葉の使い方が印象的だった。
ヤマトを追い詰めたガミラス帝星のデスラー総統は、部下たちにこう言った。
「諸君、ヤマトの最期には拍手のはなむけを忘れぬようにな」。
世界征服を企むショッカーの首領は、新たな作戦を指示する際にこう呼びかけた。
「栄光あるショッカー日本支部の諸君!」。
どちらも、古色蒼然たる言葉を使っていて、それがカッコよかったのである。
しかし、なぜ彼らは、わざわざ古くさい言葉を用いるのだろうか?
ここでは、『宇宙戦艦ヤマト』のデスラー総統を例に考えてみよう。
◆冗談を言うと床がパカッ!
デスラー総統が統べるガミラス帝星は、徹底した縦社会だ。
たとえば、ドメル将軍がバラン星の基地と人工太陽を犠牲にしてヤマトを殲滅する作戦を敢行し、絶体絶命に追い込んだとき、デスラー総統からこんな電話がかかってきた。
「君はとんでもない浪費家だよ。やめてくれたまえ」。
部下が完遂直前まで進めてきた仕事を、鶴の一声で無にしたわけだ。
また、ガミラス軍の幹部を集めた場で、こんなこともあった。
デスラーが「諸君、宇宙戦艦ヤマトの無事を祈って乾杯しようではないか」と言うと、ある幹部がそれを喜んで大笑いし、「総統も相当、冗談がお好きで」と駄洒落を口にする。
すると、デスラーは露骨に不快な顔をして、手元のボタンを操作。
とたんに床がパカッと開いて、その幹部は奈落の底へ落とされてしまった。
デスラーは一言。「ガミラスに下品な男は不要だ」。
うひょ~、冗談がサムイだけで処刑! 自分も直前に冗談を言っているのに!
こういう恐ろしい縦社会を維持するには、権力を誇示する大仰な話し方が必要なのかもしれない。
まあ、それはわからんでもない話である。
◆翻訳機の開発者は誰か?
わからないのは、ヤマトのクルーたちとの会話だ。
たとえば、映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』で、ヤマトのスクリーンに姿を現したデスラーは、こう言っている。
「大ガミラスは永遠だ。わがガミラスの栄光は不滅なのだよ。ヤマトの諸君! 気の毒だが、まもなく諸君には死んでもらうことになるだろう」。
デスラー総統はガミラス星人なのだから、通常はガミラスの言葉を話していると考えるべきだろう。
それでもヤマト側とのコミュニケーションが成立したのは、おそらくヤマトの艦内に、優れた翻訳機があったからに違いない。
つまり、ヤマトのクルーにとって、デスラー総統が仰々しい話し方をしたように感じられたのは、翻訳機がそういう日本語訳をしたということだ。
ここから先は妄想になってしまうが、これはすごいことではないだろうか。
並みの翻訳機なら「ヤマトの皆さん」と訳しそうなところを、この翻訳機は「ヤマトの諸君!」と訳したのだ。
それも理由のないことではなく、おそらく話している人の年齢、性別、社会的地位などに応じて、声のトーンや使用するボキャブラリーを選択しているのだと思われる。
なぜなら、この翻訳機を作ったのは、きっとヤマト科学班リーダーの真田さんだからだ!
真田さんは、イスカンダルから届いたスターシャのメッセージを読み解いて、波動エンジンを実戦配備した超優秀な技術者でもある。
そんな真田さんが開発した翻訳機が、並みの翻訳機のはずがないっ。
で、そういう翻訳機だとした場合、開発した真田さんの頭のなかに「悪いやつは古色蒼然とした言葉を使う」というイメージがあったのではないだろうか。
そのイメージは、おそらく彼が幼少期から聞いてきた悪人たちの話し方によって形成されたものであろう。
もちろん、実際に真田さんが悪人に囲まれて成長してきたとは思えないから、だとしたらTVや映画などを通じて聞いてきたに違いない。
TVでいかにも悪人らしい話し方をする人々といえば?
そう、悪代官とか、越後屋などの悪徳商人。
「お代官さま、以後お見知りおきを」「ふふふ。そちもワルよのう」という会話を交わすヤツらだ。
真田さんは、そういう番組を幼い頃から見ていたに違いないっ!
それもあって、正義に燃える科学者になったに違いないっ!
『宇宙戦艦ヤマト』の舞台は22世紀の終わりで、その頃TVで時代劇をやっているのかなど疑問は多々あるが、デスラーの話し方を突き詰めると「真田さんは時代劇ファンだった」という魅惑の結論(妄想)に至りました。
また、今回ぜんぜん科学と関係ないですが(すみません)、でも個人的にはなんだかナットクしております。