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東日本から東北地方を襲った114年前の「壬寅(みずのえとら)年暴風雨」

饒村曜気象予報士
相模湾(写真:アフロ)

平年並みの発生数と2倍の上陸数

今年は、台風第1号の発生が記録的に遅かったものの、8月、9月で台風の発生が相次ぎ、現時点では平年並みの発生数となっています(表)。また、上陸数は6個と平年の2倍上陸しています。

表 台風の月別発生数と上陸数(今年は9月27日までの数)
表 台風の月別発生数と上陸数(今年は9月27日までの数)

非常に強い台風17号が北西進し、沖縄県の先島諸島を暴風域に巻き込んで通過して台湾に上陸、中国大陸で熱帯低気圧に変わる見込みです。

しかし、日本のはるか南海上にある熱帯低気圧が、発達して台風18号になりました(図1)。今のところ、台風17号の後を追うように西に進みながら発達中です。

図1 9月29日の予想天気図
図1 9月29日の予想天気図

まだまだ台風シーズンが続きますので、台風情報に引き続き注意が必要です。

今から114年前には2つの台風により、相模湾に大きな高潮被害と関東~東北地方に「壬寅(みずのえとら:じんいん)年暴風雨」と呼ばれた記録的な風水害が発生しています。

壬寅年暴風雨

明治35年9月28日8時頃、台風の中心が 房総半島南端付近を通過し、北北西に進んで神奈川県に上陸、9時には東京を通過しています(図2)。東京では8時55分から約10分間、風雨が止んでいますので、台風の目に入った可能性があります。最低気圧は、千葉県館山で955.8ヘクトパスカル、最大風速(当時は20分間の平均風速)は千葉県銚子で毎秒44.8メートル、茨城県筑波山で72.1メートルを観測しています。

図2 明治35年9月28日10時の天気図と台風の経路
図2 明治35年9月28日10時の天気図と台風の経路

この台風は、暴風域などの規模が小さい豆台風でしたが、その割には中心気圧は低く、特に猛烈な風による風害と、相模湾を中心とした高潮、栃木県足尾なとでの水害が著しいという特徴があります。相模湾では11時頃が満潮でしたが、このとき、海岸より大波が約2時間にわたり堤防を越えて市街地に侵入しました。

また、別の台風が、9月28日15時頃、和歌山県潮岬の東方に上陸し、神奈川県に上陸した台風の後を追うように北上しています。

●熱海街道の海嘯

29日相州吉浜特発(輻輳延着)

昨日の海嘯にて早川村家60負傷4、石橋村家16負傷4、米神村家11船13、根府川村家13負傷2、江ノ浦村家19船19、真鶴村家42船115死亡1負傷15、福浦村家16、吉浜村家90死亡10負傷20あり家は大概流出又は潰れたり

●茨城の暴風雨 28日水戸特発(不良延着)

本日午前6時頃より暴風雨起り11時幾分鎮まりしも潰家破損等ありて被害頗る多し

●福島の暴風雨 29日福島特発(不良延着)

昨日の暴風雨にて潰家9半潰れ13破壊100

●仙台の暴風雨 29日仙台特発(不良延着)

昨日希なる暴風雨あり市内潰家破損多く郡部被害も亦夥し

出典:東京朝日新聞(明治35年10月1日)

(注)「海嘯(かいしょう)」は、現在の津波や高潮をさしますが、ここでは「高潮」の意味です。

気象庁が編纂した「気象百年史(1975)」によれば、このときの被害は、「東海・関東・東北に台風、被害じん大、宮城・山形は300年来の暴風雨…」となっています。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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