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日本は秋の気配でも南の海では台風が3個並ぶ ひょっとしたら4個も

饒村曜気象予報士
南の海で3個並んだ台風(22号・23号・24号)と雲の塊(11月9日15時)

秋の気配

 令和6年(2024年)11月9日は、大きな移動性低気圧におおわれたため、放射冷却によって明け方は冷え込むところが多くなり、日中の日射による気温上昇とあいまって、1日の温度変化が大きい一日となりました(図1)。

図1 地上天気図(11月9日9時)
図1 地上天気図(11月9日9時)

 11月9日に気温が一番高かったのは沖縄県・大原の30.5度、次いで沖縄県・鏡原の30.3度で、この2地点だけが最高気温が30度以上の真夏日でした。

 また、全国33地点(気温を観測している全国914地点の約4パーセント)が最高気温25度以上の夏日となりましたが、最低気温が0度未満の冬日は157地点(約17パーセント)もありました(図2)。

図2 夏日と冬日の観測地点数の推移(11月10日以降は予報)
図2 夏日と冬日の観測地点数の推移(11月10日以降は予報)

 令和6年(2024年)は記録的な暑さが続いていましたが、さすがに10月下旬ともなると、夏日が大きく減り、11月になると冬日が増え始めました。

 日本列島は秋本番になってきました。

 しかし、日本の南海上には夏の名残の台風があり、南から暖かくて湿った空気が北上して南西諸島では大雨となっています。

 鹿児島県与論島では11月8日昼頃から断続的に雨が強まり、9日18時30分の前24時間降水量は594ミリと、1年間に降る量の約3分の1が、わずか1日で降っています。このため、与論島には一時、大雨特別警報が発表となっています。

 また、沖縄本島では線状降水帯が発生し、記録的短時間大雨情報は、沖縄本島地方で12回、鹿児島県奄美地方で2回も発表となっています。

 秋雨などの秋の雨というより、梅雨末期豪雨や台風の大雨といった夏の雨のような降り方でした。

令和6年(2024年)の台風

 令和6年(2024年)は、台風の発生が遅く、第1号がフィリピン近海で発生したのは、5月26日でした。

 台風の統計がある昭和26年(1951年)以降、台風1号が一番遅く発生したのは、平成10年(1998年)の7月9日で、令和6年(2024年)は、史上7番目の遅さということになります。

 6月に台風の発生はなく、7月も台風発生数が2個と平年に比べて少なかったのですが、8月は平年並みに6個、9月は平年より多い8個も発生し、ほぼ平年並みの発生数となってきました。

 そして、10月は平年並みの3個が発生ました(表)。

表 台風の月別発生数・接近数・上陸数(令和6年(2024年)と平年)(接近数は月がまたがる場合があり、月ごとの値の合計と年間は一致しない)
表 台風の月別発生数・接近数・上陸数(令和6年(2024年)と平年)(接近数は月がまたがる場合があり、月ごとの値の合計と年間は一致しない)

 11月4日にフィリピンの東で発生した台風22号は、西進を続け、バシー海峡を通って南シナ海に入っています。

 現在、台風22号は、南シナ海を西進してベトナムへ向かって進んでいますが、台風進路の海域は、海面水温が台風発生・発達の目安となる27度以下ですので、次第に勢力を弱める見込みです(図3)。

図3 台風22号の進路予報と海面水温(11月9日21時の予報)
図3 台風22号の進路予報と海面水温(11月9日21時の予報)

 台風22号は、日本への影響はなさそうですが、日本の南海上では11月9日15時に台風23号と台風24号が同時に発生しました。

 フィリピンの東の台風23号とカロリン諸島の台風24号の間には、積乱雲の雲の塊があります(タイトル画像)。

 この雲の塊が熱帯低気圧になり、台風に発達することで、台風が4個並ぶ可能性はゼロではないと思われます。

 台風23号と台風24号は、ともに海面水温が27度以上の暖かい海域を西進する見込みです(図4)。

図4 台風23号と台風24号の進路予報と海面水温(11月9日21時の予報)
図4 台風23号と台風24号の進路予報と海面水温(11月9日21時の予報)

 資料は少し古くなりますが、以前に、昭和26年(1951年)から昭和52年(1977年)の資料を用いて、台風について調べたことがあります。

 これによると、11月の台風は、低緯度を西進する台風がほとんどです(図5)。

図5 台風の平均経路(11月)
図5 台風の平均経路(11月)

 台風22号だけでなく、台風23号も、台風24号も西進する予報となっています。

 ただ、まれには、北上して日本の東を東進するものがありますので油断できません。

 一番遅い上陸台風は、平成2年(1990年)11月22日9時にグアム島の南海上で発生したあと西進しながら発達し、フィリピンの東海上で向きを北東に変え北上した台風28号です(図6)。

図6 最遅上陸台風(平成2年(1990年)の台風28号)の経路図
図6 最遅上陸台風(平成2年(1990年)の台風28号)の経路図

 11月末ともなれば日本近海の海面水温が低くなり、北からの寒気が南下しやすくなっていますので、北上台風のほとんどは温帯低気圧に変わるか、熱帯低気圧に衰えます。

 しかし、この年は日本近海の海面水温がまだ高く、北からの寒気南下が弱かったため、台風の勢力で、11月30日14時頃に和歌山県白浜町の南に上陸しています。

引用:読売新聞(平成2年(1990年)11月30日)

 師走台風100年ぶり近畿上陸 大阪で1411小中校が休校 交通網大混乱

 師走まであと1日の30日に、紀伊半島に上陸した台風28号。「12月にまでかかる台風は約100年ぶり」(気象庁お天気相談所)とされ、戦後の記録としては昭和23年(1948年)11月19日のアグネス台風(死者、不明11人)以来になる。…。

◆明治27年(1894年)以来の異変 猛暑高気圧が犯人

 気象庁によると、明治27年(1894年)12月10日、房総半島に上陸した例があり、今回の28号も12月1日まで勢力を保つ可能性が強く、師走台風としては96年ぶり。

 こんな異変になったのは今夏、猛暑をもたらした強い太平洋高気圧が“犯人”。

 同庁の話では、勢力の強い高気圧が日本近海の太平洋上に依然として張り出している。夏場に勢力が強くても次第に弱まり、南海上で発生した台風は北上せずに東へ流されるのが普通だが、今年は太平洋の水温が高いため勢力が弱くならない。

 水温が高い原因について気象庁は「地球温暖化も無視できない。しかし、周期的に水温が高くなることもあり、原因は一概にいえない」と、首をひねるばかりだ。

台風が3個同時に存在

 天気図上で3個の台風が同時に存在することは、ほぼ1年に1回くらいあり、それほど珍しいことではありません(図7)。

図7 同時に存在した台風(昭和26~54年(1951~1979年))
図7 同時に存在した台風(昭和26~54年(1951~1979年))

 7月から9月が多いのですが、11月にも、10~15年に1回は存在しています。

 今年、11月に台風22号、23号、24号が並びましたが、きわめて珍しいことではありません。

 ただ、4個並ぶとなると珍しくなり、5個並ぶとなると、台風の統計がある昭和26年(1951年)以降では1回しかありません。

 それは、昭和35年(1960年)8月23日15時から翌24日9時までのことで、天気図上に左(西)から台風17号、15号、16号、14号、18号という5個の台風が並んでいます(図8)。

図8 昭和35年(1960年)の五輪台風
図8 昭和35年(1960年)の五輪台風

 東京オリンピック(前回)を4年後にひかえ、ローマオリンピック開催の直前(8月25日が開会式)というタイミングであったため、マスコミはこれを五輪台風と名づけ、大きく報じています。

 最盛期の台風は、等圧線が円形となりますので、輪とみなせますが、衰弱期の温帯低気圧に変わりつつあるときには、円形が崩れます。日本海北部にある台風15号は、円形が崩れてきていますので、大小の四輪と崩れてきた一輪からなる五輪です。

タイトル画像、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

図6の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

図7、図8の出典:饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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