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ヒラリー大統領でアメリカはどう変わるのか?そして日本への影響は?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:ロイター/アフロ)

いよいよ11月8日ヒラリー・クリントン大統領が誕生する。トランプ氏が逆転する可能性はほぼ確実にない。

その理由は過去の記事で既に何度も語った通りだが(勝敗決するか、無党派層から見放されたトランプ)、いまだに「Brexitのように予想が外れるのではないか?」という声もなくはない。

しかし、これは大きな誤解であり、Brexitは予想外の結果ではない。確かにキャメロン前首相が国民投票の実施を宣言した2013年1月にこの結果を予測できたものはいないだろうが、世論調査では数ヶ月前からずっと拮抗しており(その前は離脱派が優勢だった)、前日の調査では残留支持が51%、離脱が49%と、どちらが勝っても統計上の誤差の範囲でしかない状況であった。つまり、予想外ではなく、政治家やメディアなど強い発言力を持つエスタブリッシュメントにとって期待外れの結果になったに過ぎない。

一方、米大統領選では、激戦州のほぼ全てでヒラリー氏が勝っており、もはや拮抗すらしていない。Brexitとは全く状況が異なる。逆転が起きるとすれば、逮捕レベルのスキャンダルが発覚した場合であり、10月28日FBIが捜査再開を発表したが、さすがに可能性としては相当低いだろう。

そこで気になるのは、ヒラリー大統領が誕生した後にアメリカはどう変わるのか、トランプ現象の影響をどこに引きずるのか。そして、それは日本にどう影響するのか、だ。

ヒラリーはどう勝つか

大統領選後のアメリカ政治を見る上でまず重要なのは、同日に投開票される連邦議会選の結果だ。日本にいると実感として湧かないかもしれないが、日本の首相とは異なり、大統領に立法権はなく、法案や予算案を提出することはできない。それらは連邦議会が担う。その意味で、連邦議会の情勢は非常に重要となる。

そして、現時点での予測では、上院は民主党が1議席差でリードし、多数派が逆転すると見られている。上院を奪還できれば、上院の承認を必要とする閣僚や大使の任命がスムーズにでき、人事は決まりやすくなる。そうなれば閣僚の女性の比率も高まるだろう。

一方の下院は、共和党が多数派を維持する可能性が高い。

つまり「ねじれ」が生じるわけだが、現状のオバマ大統領と同様に、現在ヒラリー氏が公約にしている「富裕層への増税」や「最低賃金の引き上げ」は実現が難しくなるだろう。

米大統領選は、ヒラリー氏が300〜350議席ぐらいは取る可能性が高いと見られているが、「ねじれ」状態では圧勝してもヒラリー政権にとっては難しい舵取りが求められる。2年後の中間選挙で下院も勝ち取らなければ相当ストレスの多い任期となるだろう。

トランプ現象の影響

だが、ヒラリー氏の獲得票数(選挙人数)が重要なことには違いない。ヒラリー氏がどう勝つかによって最も影響を受けるのは、共和党である。

仮にヒラリー氏が350議席以上で圧勝すれば、トランプ氏は政界から去り、トランプ支持者(特に白人至上主義者)も不満が燻りながらも胡散霧消し、その影響力も弱まっていくだろう。

その後共和党は、ポール・ライアン下院議長を中心に立て直しを図り、二大政党制を維持する。しかし、2年後の中間選挙では、民主党が勢いそのままに下院を奪還する可能性は高い。そうなれば、ヒラリー氏が公約としている、「富裕層への増税」や「最低賃金の引き上げ」、「男女の賃金格差」、「移民制度改革」などを実現することができるだろう。

一方、ヒラリー氏が僅差でしか勝てなかった場合は、アメリカは深刻な事態に陥る可能性が高い。トランプ氏は「選挙結果を受け入れない」と叫び、各地で訴訟が乱発。民主主義の根底にある、敗者が選挙結果を受け入れる平和的な権力の移行は行われず、アメリカの民主主義を毀損することになるだろう。

また、トランプ支持者に感じる狂気さがさらに表面化し、暴力的な事件も起きかねない。仮にヒラリー氏が銃規制を行おうとすれば、銃発砲事件が乱発するかもしれない。

トランプ現象が今回明らかにした通り(終焉に近づくトランプ現象とその先)、既にアメリカ社会は人種間、思想間で分裂が深まっているが、さらに亀裂が大きくなり、白人による黒人への"弾圧”は強まるだろう。

さらに、トランプ氏は自身の番組を作り、徹底的にヒラリー政権の批判や負の感情を掻き立てる過激な報道を繰り返すだろう。そうして"本来"の目的であったビジネス的な成功も手にする。

共和党はトランプ氏を支持するポピュリストのグループと現在の主流派である中道保守に分裂。トランプ氏は共和党をよりポピュリスト寄りに導き、主流派や中道保守派を追い出すかもしれない。そうなれば、小野党が増え二大政党制も崩れてしまうだろう。

タカ派のヒラリー

また大統領が交代することで大きな影響を受けるのが、軍事政策だ。大統領には立法権がないことは冒頭に説明したが、大統領は軍最高司令官として軍事に関する最終意思決定を行うため、軍事政策へ与える影響は大きい。

そして、ヒラリー氏はこの点において懸念が大きい。というのも、政策的に見れば、トランプ氏よりも共和党寄り、ネオコン寄りだからだ。

ヒラリー氏は昨年、対IS・シリア戦略についてスピーチを行ったが(ヒラリー・クリントンの対IS戦略によってもたらされる変化)、その中では、アサド政権を止めるべく、「オバマ大統領が承認している米特殊部隊のシリアへの派遣を直ちに実施すべき」、「アサドがこれ以上民間人や反体制派を空爆で殺戮するのを阻止するために、反ISIS有志連合のパートナーや近隣諸国とともに飛行禁止空域を設定すべきだ。」と述べている。

先日、トランプ氏がフロリダ州での遊説で「ヒラリーが大統領になったら第3次世界大戦が起こる」と発言したが、これに関しては、満更ありえない話ではない。

ヒラリー氏が主張している飛行禁止空域の設定は撃墜を前提とした強硬な措置であり、アサド政権に肩入れしているロシアとの対立も深まりかねないだろう。

女性大統領の誕生

トランプ氏の躍進に加え、ヒラリー氏自身も嫌われているため、熱気はほとんどないが、ヒラリー氏が大統領に就任すれば、初めての女性大統領になる。

未だに男尊女卑が残っているアメリカ社会にとって大きな転機となるだろう。ヒラリー政権では初めて財務省と国防総省で「女性長官」が誕生するかもしれない。

今やイギリスもメイ首相、ドイツもメルケル首相と、女性の国家元首・首長が増えているが、こうした流れはいずれ日本にも来るだろう。総裁の任期が延長され、おそらく安倍首相が2021年9月まで続投することになると思うが、その後に女性首相、その可能性があるとしたら小池百合子都知事だが、が誕生する可能性もある。

日本への影響は?

「ねじれ」である以上、基本的な路線は、現在のオバマ政権と大きくは変わらない。ただ、対外に厳しい姿勢を取るため、アメリカにも影響を与えるような、貿易や金融政策に対しては強く修正を求めてくる可能性はある。

直近の出来事でいえば、TPPが最も影響を受けるだろう。

ヒラリー氏は元々TPP推進派であったが、バーニー・サンダース氏の支持層をカバーするためにTPP反対に変え、民主党の中でも反対の声は強い。

オバマ大統領は自身の任期中に実現を目指しているが、3週間程度しかない次の議会で歳出法案に加え、最高裁判事も承認を得なければならず、おそらくTPPまでは手が回らないだろう。

また、トランプ氏がずっと主張している日本への防衛費の負担増は、いずれヒラリー氏も求めてくるだろう。

ヒラリー政権にとっては、2年後の中間選挙の結果次第で功績が大きく変わってくるため、1年目に大きな実績を残そうと試行錯誤するに違いない。

果たしてそれが何になるのか。オバマケアのような国内改革では国民の反発は避けられないため、対外政策になる可能性が高いと思うが、それが以前から強く批判している中国の為替介入であれば、日本にも大きく影響するだろう。

もしくは、TPPの再交渉がそれになるかもしれない。

実務者としては優秀であり、大統領になれば、国内的には支持率も上がると思うが、それは決して日本にとっても良い結果になるとは限らない。

だが、その振る舞い方もヒラリー氏の勝ち方や連邦議会の結果にも影響を受けるため、ヒラリー氏がどう勝つのか、また共和党がどう負けるのかにまずは注目したい。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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