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米国2例目のオミクロン株確認のアニメイベントを取材。「濃厚接触者」候補になってしまった時の話

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
アニメNYC。このイベントから感染者が出た。(c) Kasumi Abe

ニューヨークは11月の感謝祭が終わり、街がいっせいにクリスマスの装いに変わった。毎年恒例のロックフェラーセンターのクリスマスツリーも点灯され、クリスマスムード一色だ。

ロックフェラーセンターのクリスマスツリーは12月1日に点灯された。周囲には多くの人々が密状態で詰めかけ、このシーズンを思い思いに楽しんでいる。(c) Kasumi Abe
ロックフェラーセンターのクリスマスツリーは12月1日に点灯された。周囲には多くの人々が密状態で詰めかけ、このシーズンを思い思いに楽しんでいる。(c) Kasumi Abe

11月より、ワクチン接種を条件に外国人の入国が認められるようになったため、観光都市ニューヨークに世界中の観光客が戻ってきた。

屋内の飲食店や観光地はどこも、ワクチン接種証明書の提示が求められる。27日より民間企業の従業員も接種義務の対象となるが、本日(14日)より5〜11歳の子どもも、それらのスポットを利用する際、接種証明書の提示も必要になった。このように「国民皆ワクチン」の波は、子どもの領域にもジワジワと押し寄せている。

観光客で混雑する観光地。中国人らしき人は多いが日本人らしき人は見かけなかった。(c) Kasumi Abe
観光客で混雑する観光地。中国人らしき人は多いが日本人らしき人は見かけなかった。(c) Kasumi Abe

アメリカではワクチンが一般に浸透し始めた今春以降、以前のようなイベントや集会が少しずつ復活し、コロナと共存する生活が始まった。おそらく人々がコロナを意識するのは、マスク着用が義務付けられている地下鉄や公共の場など屋内活動時くらいではなかろうか。

筆者も今年の感謝祭では2年ぶりに友人に招待してもらい、友人家族とまたその友人ら十数人と共に美味しい食事を囲みながら、「コロナ前の当たり前だった時間」を楽しく過ごした。この集まりにいた誰一人として新型コロナの話題を持ち出す人はいなかった。

そのたった数日後のことである。ニュースで、世界中で猛威を振るい始めたオミクロン株という新たな新型コロナウイルスの変異種の存在を耳にしたのは。

それから2週間が経った。「イギリスでオミクロン株で初の死者」「中国本土で初確認」など、連日のようにセンセーショナルにオミクロン変異株関連のニュースが報じられている。筆者の地元・福岡では、オミクロン株の"濃厚接触者”が初確認でニュースになるくらいの騒がれようだ。

このオミクロン株騒動はアメリカでも同様である。連日、この新たな変異株の話題でメディアは持ちきりだ。ニュースキャスターも、突如現れた新語なだけに、アクセントがOに置かれたりMに置かれたりと統一されておらず、ばらつきが見られるほど。(ちなみに米語ではOmicron='オモクロン'と聞こえる)

アメリカでの初確認は12月1日

世界に数日遅れてアメリカでもオミクロン株が初確認と報じられたのは、12月1日のことだった。その翌日には国内2例目も報告された。この2例目の感染者はミネソタ州在住の男性で、発症前にニューヨークを訪れていた。滞在中の訪問先の1つに、先月19~21日に当地で開催されたアニメの一大イベントがあった。

筆者はこのアニメイベントを取材していた。イベントからもうすぐ2週間が経過しようとしていた時に入ってきたこのニュースに、とにかく驚いた。運営元の発表では、今年の3日間の来場者数は同イベント最多の5万3000人で、会場は日本のアニメやポップカルチャー好きで溢れ返っていた。日本企業も多く出展し多数の日本人も見かけた。筆者自身、2日間通って十数人のコスプレイヤーにインタビューをしていた。

そして改めて思った。大展示場を埋め尽くすほどの来場者数だっただけに、あの場で新たな変異株が拡大したとしても、まったく不思議ではない、と。

11月のアニメイベント。会場周辺にも、入場待ちの大行列ができるほどだった。(c) Kasumi Abe
11月のアニメイベント。会場周辺にも、入場待ちの大行列ができるほどだった。(c) Kasumi Abe

ただ正直に言うと、最初はまるで遠くの世界で起こった話を聞くように、ひと事のように受け止めていたかもしれない。と言うのも、このイベントに参加するには新型コロナのワクチン接種を完了していることが条件で、入り口で全員が接種証明書をチェックされたし、会場内でもマスク着用が義務付けられていた。よって、それらは、こちら側の安心感にもつながっていた。また何より、筆者自体に病気のような症状が一切なかったため「来場者の1人がオミクロン株に感染とは大変だ」と他人事だった。

他人事が「自分事」に変わったのは、2例目報道の日の夕方過ぎだ。筆者にアニメイベント主催団体から一斉メールが届いたのだ。件名には「重要」とある。メールの内容を要約すると「イベント参加者の1人に22日(イベント最終日の翌日)に新型コロナの軽い症状が表れ、その後検査を受けオミクロン株の感染が確認。皆さんにはコロナ検査を受けることを強く勧める」というものだった。その後、市内でオミクロン株の拡大が想定されているため、アニメイベントの参加者全員に対して「直ちに検査を受けるよう求める」とするデブラシオ市長の声明が、その日の朝に発表されたことを報道で知った。

つまり、あの場にいた5万3000人全員が「濃厚接触者候補」であることを意味した。筆者もその1人だ。

濃厚接触者候補になった時の気持ち

アニメイベントはすでに2週間前のことだったので、筆者にとって寝耳に水とも言える知らせだった。

まずは、イベントから5日後の感謝祭の食事会が気になった。もしも筆者がオミクロン株を含む新型コロナウイルスに感染でもしていたら、食事会のホストである友人家族にまず知らせなければならない。そして、あの場にいた招待客十数名にも伝えてもらわなければならないと思った。

また検査を受けるように通達された日(2日)の午後(通達メールの前)、筆者は70代前半になる方(夫婦)の自宅も訪れていた。この夫妻にももちろん伝えなければならない。

さらに、その週末はイベントが目白押しだった。1つは友人の誕生日パーティー、もう1つは着物の展示イベントで、主催者は半年も前から用意周到に計画を進め、この日を楽しみにしている。残念ながらすべてキャンセルだ。翌週には、あるブティックホテルチェーンのCEOとの対面インタビューの仕事も控えていた。この人物の取材はZoomにしてもらわなければ…。前々からスケジューリングされていたイベントや仕事の変更を一体どのように伝えるべきか? そんなことをグルグル頭の中で考えていたら、気のせいか少し悪寒のようなものがしてきた(気がした)。とにかくその時の筆者の心境は「イベントで変異株に感染し、周囲に迷惑をかけてしまう自分(になるかもしれない)」と後ろめたい気持ちで、不安だった。

翌日新型コロナの検査へ

考えても始まらないので、その日はすぐに床に就き、翌朝新型コロナの検査場へ行くことにした。

コロナ禍になり、ニューヨークでは通常の医療機関に加え、街中の至る所に仮設の検査場が設けられるようになった。検査費用は健康保険がカバーしてくれ、自腹を切ることなく気軽に検査を受けられる。筆者の近所でも春ごろから見かけるようになり、最初は1箇所だけだったのが数ヵ月後さらにもう1箇所でき、今では検査テントが立ち並んでいる。

検査用テントは市内の至る所にある。(c) Kasumi Abe
検査用テントは市内の至る所にある。(c) Kasumi Abe

今年6月、筆者は予約してドラッグストア経由で検査を受けたことを考えれば、このような仮設の検査場ですぐに検査を受けられるようになったのは本当にありがたい。(c) Kasumi Abe
今年6月、筆者は予約してドラッグストア経由で検査を受けたことを考えれば、このような仮設の検査場ですぐに検査を受けられるようになったのは本当にありがたい。(c) Kasumi Abe

とにかく検査をすぐに受けたかったため、近所の仮設検査場に赴いた。すでに数人並んでいたが、待っている間に、自分の携帯電話からオンラインで名前や連絡先、健康保険などの情報を入力するように言われ、そんな作業をしていたらすぐに自分の番になった。

ここで受けたのは、鼻の奥に綿棒を入れて粘膜を擦る鼻咽頭ぬぐい検査と唾液検査だ。これまでPCR検査で痛い経験をしたことがあるのでドキドキしたが、まったく痛くなかった。

検査結果は30分以内にメールで届いた。ドキドキしながらメールを開いた・・・。

「Negative(陰性)」というワードがすぐに目に飛び込んできた。喜びと安堵感で、それまでの憂鬱な気分が一気に吹き飛んだ!

アニメイベントで取材していた人にもコンタクトをとったが、「大変驚いた」と同じような気持ちだったようだ。その人もすぐに検査を受け、陰性を確認したとのこと。

当地では症状のようなものが表れたら、外出せずステイホームすることが奨励されているが、この経験を通して気軽に検査を受けられ、すぐに検査結果を知ることができること、またそれらをすることで自分と周囲への安心感に繋がることがわかったのは収穫だった。今後も積極的に検査を受けない手はない。

最後にオミクロン株についての、アメリカでの現状や受け止め方について。CDCの発表によると、現在30州以上で43人が確認されている。ほとんどの感染者は軽症で、死者は確認されていない。また、ほとんどの感染者がワクチン接種済みで、うち14人はアニメイベントの2例目の男性のようにブースター接種まで終えていた。

各メディアでは感染症のさまざまな専門家が見解を述べているが、オミクロン株が国内で確認されて何せまだ2週間しか経っていないので、どの専門家も依然ワクチンのブースター接種と屋内でのマスク着用を推奨しながら、しばらくは様子見のようだ。

(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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