謝らないで 新型肺炎対応の医師ら「バイ菌」扱いには抗議が正しい理由
ー新型コロナウィルス感染者でお亡くなりになった方々には哀悼の意を表すと共に、現在、感染された方々にはお見舞い申し上げます。また、医療の最前線で従事している方々には感謝と敬意、そして激励を送ります。ー
2月25日、政府は新型コロナウィルスについての対策基本方針を決定して公表しました。情報提供を進めること、検査の機能を向上させて国内での感染状況を把握すること、企業にはイベント自粛やテレワーク等の感染拡大防止策を要請、重症者の医療体制構築、入国制限に加え、患者や医療従事者への人権に配慮することなどを発表しました。今回のような社会全体に影響を及ぼす危機が発生した際にはどのような言葉や表現、態度を示すことが望ましいのでしょうか。
私が今回の新型コロナウィルスで当初から懸念していたことは、社会不安から、感染者への差別や人権侵害の言葉が蔓延することでした。SARSの時も感染者を出した学校が謝罪会見をするといったおかしなことが発生していたからです。人は不安になると他者に責任転嫁したり、攻撃する行動を起こすからです。その懸念が現実となりました。2月22日、一般社団法人日本災害医学会が「新型コロナウィルス感染症対応に従事する医療関係者への不当な批判に対する声明」を発表したのです。ダイヤモンド・プリンセス号で対応した医療従事者が「ばい菌」扱いされていたり、謝罪を求められていることに対する抗議文でした。
この声明は、感染者への哀悼とお見舞いの言葉から始まり、ダイヤモンド・プリンセス号での医療関係者がどのように奮闘したか具体的件数と共に説明し、称えられるべき行為が人権侵害となっているとしています。
現場で人命を救うために自分の身を危険にさらして活動した医療者の中から、職場において「バイ菌」扱いされるなどのいじめ行為や子供の保育園・幼稚園から登園自粛を求められる事態、さらに職場管理者に現場活動したことに謝罪を求められるなど、信じがたい不当な扱いを受けた事案が報告されています。当事者たちからは悲鳴に近い悲しい報告が寄せられ、同じ医療者として看過できない行為であります。もはや人権問題ととらえるべき事態であり、強く抗議するとともに改善を求めたいと考えます。(声明文一部抜粋)
こういった抗議声明を出すことは勇気ある正しい行いです。いわれなき人権侵害には沈黙ではなく、「抗議」がふさわしいからです。事実を正しく認識せず、やたらと謝罪したり、されたり、あるいは沈黙する社会的風潮こそ危険です。
リスクの分類方法は純粋リスクとビジネスリスクに分ける方法など様々ありますが、メッセージ発信のあり方から要因によって3種類に分類される*とする考え方を私は採用しています。その3つの分類とは、企業の過失、社員による横領など組織内部に要因があり事前に回避すべき「予防系リスク」。テロなど外部からの攻撃によるリスクで要因が外部にある「半予防系リスク」。戦争や災害、パンデミックなど社会や自然を要因とする「非予防系リスク」。
予防系リスクは要因が組織内部にありますので、発生した際には当事者である組織は謝罪すべきですが、今回のウィルスは個人や組織が自らの力で発生を事前回避できない社会全体におよぶ「非予防系リスク」になります。したがって、発生時には謝罪ではなく、いたわりやお見舞いの言葉、あるいは励ましの言葉がふさわしいのです。感染者や医療従事者を謝罪させる社会であってはならないと思います。
政府の方針発表にも人権配慮の言葉はありましたが、具体的な表現は現場の人に任せられます。各企業、学校における広報や危機管理担当者、リスクマネジャーは、対応方針だけではなく、災害発生時同様、お見舞いやいたわり、励ましの言葉を添えるなど、社会的危機に立ち向かうにあたってふさわしい表現を一文加えてほしい。それが被害を最小限にするダメージコントロールになるからです。
*「広報・パブリックリレーションズ入門」2007 猪狩誠也編著
<参考サイト>
朝日新聞 2月22日 新型肺炎対応の医師ら職場でバイ菌扱い 学会が抗議声明
https://www.asahi.com/articles/ASN2Q52PHN2QPLZU001.html
日本災害医学会「新型コロナウィルス感染症対応に従事する医療関係者への不当な批判に対する声明」