金正恩氏「健在誇示」、でもすっきりしない……映像を点検してわかった、その理由とは?
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に健康不安は本当になかったのか? 国営朝鮮中央テレビが2日放映した「順川リン酸肥料工場」(平安南道)の竣工式の映像を点検し、金委員長にまつわる違和感を整理してみた。
◇むくんだ?
金委員長は過度の喫煙や肥満、過労などから、健康に問題を抱えているというのが通説だ。2014年当時(写真1と2)と比べると、2020年(写真3と4)はかなり太くなっている。
金委員長は2014年に手術を受けた際にも動静が40日間途絶えた。写真1は手術前の2014年8月31日に、写真2は手術後の同年10月19日にそれぞれ報道されたもので、金委員長の表情は写真2ではややむくんでいるように見える。
一方、写真3は今年4月12日に報じられたもの、写真4は5月1日に撮影されたもので、こちらの比較でも、若干のむくみを感じ取れ、“病み上がり”に見えなくもない。
◇右手首
朝鮮中央テレビの映像をみると、金委員長の右手首に何かが付着したような薄黒いものを確認できる。韓国の北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNK」が先月20日に「金委員長が4月12日に心血管系の手術を受けた。術後の経過は良好」と報じており、この薄黒いものを「手術のあとではないか」と主張する声もある。
だが、韓国大統領府関係者は3日、韓国紙の朝鮮日報などに対し「総合的に判断して、手術を受けたということではないとみている」との見解を示している。軽い手術も受けていないという見方を示したうえ「情報機関の判断であり、対外的に発表すべき内容はない」と述べるにとどめている。
北朝鮮に対する配慮からか、詳細への言及は避けており、すっきりとした答えになっていない。
◇カート
金委員長は竣工式で工場内を移動する際、カートを利用した。
カートで思い出されるのが、金委員長の父・金正日総書記の時のことだ。金総書記は08年8月に脳卒中で倒れたあと、短い距離の歩行も難しくなったとされ、カートを使用することが増えた。現地指導に出向いた場所には、7~8段程度の小さな階段でも真新しいエレベーターが設置されるなど、側近たちによる細心の配慮も施されていた。
ただ、今回の映像を見る限り、金委員長が歩きにくくしているような様子はなく、「細心の配慮」によるカートの準備であるか判断はできない。
◇「主体」がない
一方、「重病説」の引き金となった4月15日(金委員長の祖父・金日成国家主席の誕生日)に錦繍山太陽宮殿を参拝しなかった点に関連して、竣工式のひな壇の背後に「竣工式」という文字とともに「2020年5月1日」との西暦が記されていた。今年3月17日に開かれた平壌総合病院の着工式でも日付は西暦表記のみだった。
北朝鮮では金主席が生まれた1912年を「主体元年」として、西暦よりも「主体〇年」という表記を前面に出してきた。だが、金委員長の時代に入り、それが少し変わってきたようだ。
金委員長は最高指導者になって間もないころ、党幹部に「現在、商品に生産日や保管期日などを主体年号で書いている。これでは他国の人が主体年号をみてもよくわからない。主体年号を使わなくてもいい」(2012年2月12日)との考え方を示してきた経緯がある。
金委員長は現代的な指導者としての地位を固めるため、北朝鮮住民に義務付けられている肖像徽章をつけないなど「金主席離れ」を進めているという指摘がある。主体年号の不使用も参拝不参加も、同じ流れで考える必要があるかもしれない。