お金よりも休みがほしい 部活動手当増額の問題点
■時給は数百円
部活動が真っ盛りの季節だ。学校の先生は、土日も夏休みも関係なく、練習や大会引率のために汗水を流している。
この休日の部活動指導が、最低賃金以下で先生たちに任されてきたことは、ほとんど知られていない。現在のところ、文部科学省の指針としては、休日は4時間以上で3000円だ。
ここでは「4時間以上」という点に留意しなければならない。じつは8時間働いても、3000円のままである。朝8時に集合し、練習試合を終えて16時に帰宅で3000円。時給にして数百円の水準である[注]。
■休日の部活動指導 手当2割増額
このような現状を打開すべく、文部科学省は先週の27日、公立中学校の教員に支給される休日の部活動手当を、来年度から2割増額することを決めた。4時間以上で3000円だったのが、3600円に増額となる。
さて、この方針について、「いくらか事態はマシになった」と判断するのは早計である。じつのところSNS上では、「NO!」を突き付ける教員の声が目立つ。
「NO!」の主張を理解する上で重要になってくるのが、部活動の指導は、教員の義務ではなく、ボランタリーな活動に過ぎないということだ。
■お金よりも休みがほしい!
部活動は制度的には、教員が自主的に指導していることになっている。だからこそ、学期中の平日は夜遅くまで指導しても残業代は一切支払われないし、休日も時給数百円で済まされている。
だが現実には、ボランタリーな活動ではなく、「全員顧問」といった慣行により、中学校では全国的にほぼすべての教員が、部活動の指導にあたっている(部活動 「全員顧問制度」に異議あり)。つまり、仮に指導をしたくなくても、「自主的」の名のもとに、強制的に指導せざるをえないのだ。そのうえ、休日がつぶれてしまう。
部活動の指導に積極的なやりがいを感じている教員にとっては、手当増額の方針は朗報である。
だが強制的にやらされていると感じる教員にとっては、強制的であること、休日がなくなってしまうことこそが問題なのである。私の周りには、「お金を払ってでも、休日の部活動指導をやめたい」という教員さえいる。
■文部科学省の矛盾
文部科学省は6月に、全国の教育委員会に対し、部活動において休養日の設定を徹底するなど、教員の長時間労働を改善すべく、通知を出している(文部科学省「学校現場における業務の適正化に向けて」)。通知に添付された資料において、文部科学省は次のように踏み込んだ発言をしている
つまり、休日にまで部活動指導に時間を費やしている現状が「正常ではなく」、まずもって肥大化した部活動指導を、縮小化させることが重要である。
■手当増額で現状を是認するのか?
文部科学省は同資料において、休日の練習時間に関して以下のような適正化の具体例をあげている。
ここでは、「3~4時間以内で練習を終えること」が目指されている。休日4時間以上の手当を増額させる以前の問題だ。そこを徹底すれば、そもそも手当を増額する必要もない。
休日の手当増額は、むしろ4時間以上の部活動指導を積極的に推奨するかのようにさえ見えてくる。文部科学省の方針は矛盾している。
■外部指導者の導入と部活動の縮小化
文部科学省は、2013年度の時点では、2014~2017年度までの4年で休日の手当を4800円にすると計画していた。その実現性はともかくも、今後さらに部活動手当の増額はありうる。
私が期待するのは、その増額分の予算を、教員の負担軽減のために充てるという方法だ。たとえば、外部指導者をいっそう導入するという選択肢がありうる(ただし、外部指導者の質の確保は重要である)。
そして、それ以前の問題として、肥大化してきた部活動指導そのものを縮小化させるべきである。縮小化に、予算は不要である(この点は別稿で詳述したい)。
手当増額という善意は、部活動問題の解決をいっそう困難にするかもしれない。大局的な観点からの制度設計が求められる。
[注]
自治体によって、具体的な額は異なっている。また、休日の部活動指導の手当と、休日の大会引率の手当には、額に若干の相異がある。