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部活動 外部指導者の導入に「待った」―― 子どもの安全・安心を考える

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
運動部活動における一週間あたりの適切な活動日数[神奈川県調査]

■多岐にわたる部活動問題

部活動改革のうねりを感じる。

27日にYahoo!ニュース「個人」に投稿したエントリ「部活動顧問の過重負担 声をあげた先生たち」に多くのアクセスをいただいた。2014年末にウェブ上で本格化した議論が、着実にその歩みを進めている。

ただ正直に言うならば、私にとって部活動改革の見取り図は、まだまだ漠たるものである。それは部活動が単に制度上のグレーゾーンに位置している(教育の一環だけれども、正課外の活動)というだけでなく、そもそも論ずべき項目があまりに多岐にわたっているからである[注1]。

いま私たちが取り組まなければならないのは、「子どもの事故・暴力被害から先生の勤務問題まで」(「部活動リスク研究所」のコンセプト)部活動に関連するさまざまな事項について、できるだけエビデンス(科学的根拠)を用いながら現状を記述し、部活動のこれからについて語るための材料をそろえていくことである。

■「外部指導者=善きもの」という前提

今回は、前回のエントリでとりあげた顧問教員の負担について、その対応策として急速に導入が進められている「外部指導者」に注目したい。

大阪市は2015年度から一部の市立中学校の部活動を、全面的に外部に委託する。大阪市のような本格的なかたちではないにしても、多くの自治体で外部指導者を活用する取り組みが進められてきた。

それらの動きのなかで、私が気がかりなのは、教育行政における「外部指導者=善きもの」という前提である。外部指導者には二つの役割が期待されている。一つが教員の負担軽減で、もう一つが生徒への専門的指導である。教員の助けにもなるし、生徒の技能向上にも貢献してくれる。まるで救世主のような存在である。

外部指導者は、保護者や地域のスポーツ指導者、退職教員、大学生など多様な人材から成る。したがって、その専門性も指導力も、じつに多様である。それにもかかわらず、「外部指導者」は、とくに根拠もないままに、一様に「善きもの」として信仰され、学校現場に導入されている。

■練習量は「より多くの日数、より多くの時間」

運動部における一週間あたりの適切な活動日数[神奈川県] ※報告書より筆者作成
運動部における一週間あたりの適切な活動日数[神奈川県] ※報告書より筆者作成
運動部における平日一日あたりの適切な活動時間数[神奈川県]※報告書より筆者作成
運動部における平日一日あたりの適切な活動時間数[神奈川県]※報告書より筆者作成

生徒の安全・安心を考えたときに、気になるデータがある。神奈川県教育委員会が実施した調査[注2]に目をやると、運動部に関わる教員と外部指導者との間にいくつかの相異をみることができる。

たとえば、一週間における部活動の適当な指導日数については、「6日以上」と答える者の割合は、教員よりも外部指導者のほうが高い。

また、平日一日あたりの適当な活動時間数についても、同様の結果が得られる。「2時間以上」の活動が適当であると考える者の割合は、教員よりも外部指導者の方が高い。

つまり、運動部において外部指導者は教員と比べたときに、より長い時間、より多くの日数を部活動に費やすべきと考えている。

なお、やや古いが、2001年実施の文部科学省による全国調査では、外部指導者導入に関連する8つの課題のうち、中学生は3番目、高校生は2番目に「練習内容が厳しくなる傾向にある」ことをあげている。

休みなしの練習による生徒への身体的負荷が懸念されるなか、外部指導者のもとでは練習量がさらに増加する可能性がある。

■安全面への配慮は?

「部員のスポーツ障害の予防」を選んだ者[神奈川県] ※報告書より筆者作成
「部員のスポーツ障害の予防」を選んだ者[神奈川県] ※報告書より筆者作成

同調査には、運動部の指導において重視すべき、「部員の技能レベルの向上」「部員の自発的・自主的な活動」「勝負へのこだわり」「部員のスポーツ障害の予防」など計10項目のなかで、とくに重視したいと思う項目を2つ選ぶという質問がある。

ここで「部員のスポーツ障害の予防」を選んだ者の割合に、注目しよう。教員は約4割が「部員のスポーツ障害の予防」を選んでいるが、外部指導者でそれを選んだのは2割に満たない。

運動部を担当する教員にとって「部員のスポーツ障害の予防」は、「部員の技能レベルの向上」に次いで2番目に重要な項目である。他方で外部指導者にとっては、「部員の技能レベルの向上」がもっとも重要で、「部員の自発的・自主的な活動」が2番目、「部員のスポーツ障害の予防」は5番目である。

■生徒の安全・安心を考えるならば・・・

総体的にみれば、運動部について教員と比べて外部指導者は、より多くの練習量を生徒に課し、さらに安全面への配慮を後回しにしがちである。たしかに外部指導者は、教員よりも「経験豊か」であるかもしれない。だが、それは必ずしも、安全面への配慮を意味するものではないし、スポーツ科学の知識にもとづいた指導を保証するものでもない。

むしろデータからは、外部指導者のほうが、根性論的に生徒に負荷を与えるタイプの人が多くいる可能性が示唆されている。これでは部活動の改革は、むしろ後退してしまう。

私自身は、目下のところ、部活動改革にあたって外部指導者の導入は重要な選択肢であると考えている。いかんせん、これまでのエントリでくり返し主張してきたように、顧問教員の負担は外部の手も借りながら、何とか減らさなければならない。でもこの現状では、教員が自分の負担を受け入れてでも、生徒のためには、外部指導者より自分が指導したほうがよいと結論してしまうことにもなりかねない。

個人的には、素敵な学校外の指導者をたくさん知っている。生徒の安全・安心を第一に考えてくれる指導者に、部活動をもってほしいと思っている。生徒のことを考えるならば、外部指導者の質をいかに確保すべきか、これが外部指導者導入の最重要課題といえる。

注1)ウェブサイト「部活動リスクによろしく」(本間大輔氏)のトップページに、部活動に関連する多種多様な問題が列挙されている。それでもまだ拾いきれていない項目があるように思われる。

注2)神奈川県教育委員会「中学校・高等学校生徒のスポーツ活動に関する調査報告書」。2007年の6月から7月にかけて実施。神奈川県内中学校、高等学校に在籍する生徒とその保護者、神奈川県内中学校、高等学校に在職する教員などが対象。同一の質問が、教員と外部指導者に出されているため、とても貴重な知見が得られる。調査の詳細は、こちら。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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