「シン・虎の穴」だ! 阪神タイガース新ファーム施設の建設現場で藤川SA、糸井SA、岩田CAが激励
■2025年に誕生する「ゼロ カーボン ベースボール パーク」とは
今月初め、阪神タイガースは来年3月開業予定の新ファーム施設「ゼロ カーボン ベースボール パーク」の内覧会を行った。来年度、タイガースのファーム施設は現在の西宮市鳴尾浜から、尼崎市小田南公園(球場と池があった場所)に移転するのだ。
阪神電車の大物駅から徒歩3分の場所に位置する同施設は、「スポーツによるまちづくりと脱炭素社会の両立」をテーマに、発電した電力を利用することで野球場で使われる年間電力量の80%強をまかない、不足する電力は廃棄物発電によるクリーンエネルギーを活用する。また一方で、エネルギーの使用を積極的に抑制する。
創エネと省エネの“二刀流”でCO2の排出を実質0にするという全国初の野球施設であり、地域と未来をつなぐ脱炭素社会のシンボルともいえる。
さらに野球施設以外にも、ファンや地域住民の憩いの場となる芝生広場のある公園を整備し、散歩やランニングなどに活用できる周遊ルートなども設置される。
環境に配慮したさまざまな取り組みにより、自然豊かで四季折々の風景を楽しめる空間は、都会の中のオアシスとして癒しのスポットとなることだろう。
■エールとグッズ贈呈
この日は建設工事中の現場を球団本部付スペシャルアシスタント(SA)の藤川球児氏、スペシャルアドバイザー(SA)の糸井嘉男氏、コミュニティアンバサダー(CA)の岩田稔氏が訪れ、作業に従事するみなさんに激励のメッセージを送るとともに球団グッズを贈呈し、一人一人とハイタッチを行った。
糸井SAは、それぞれの名札を見ながら「〇〇さん」と呼びかるフレンドリーさで作業員さんたちを喜ばせていたが、安全にと願う思いからだったのだろう。
その後、3人はタイガース仕様のヘルメットを着用して工事中の施設内を歩いて見て回り、要所要所で立ち止まっては写真撮影をしたり感想を口にしたりしたが、あまりの壮大さに終始驚きの表情が顔に貼りついていた。
■メイン、サブ、内野のみの各球場
メイン球場「日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎」は両翼95m、中堅118mで内野は黒土、外野は天然芝(外野フェンス際は人工芝)。
ファウルグラウンドの一部が人工芝など、方角やグラウンドの形状、仕様は甲子園球場と同じである。甲子園球場特有の浜風と同じ向きの風も吹く。
ブルペンはホーム側・ビジター側ともに各2レーン、グラウンド外(外野スタンド)には長さ200m超の専用走路が作られる。
ナイター用のLED照明6基を備え、バックスクリーンには19.2m×7mのビジョンも設えられる(甲子園球場は約30m×約8m)。
スタンドの座席は約3600席(車いす席が20席(介助者席同数))で、外野にも座席はないが800人が収容可能となっている。
サブ球場「(仮称)小田南公園野球場」は両翼90m、中堅93mで、内野が黒土、外野が天然芝なのは同じだ。LED照明が4基、観客席も約50席あり、こちらはタイガースが使用しないときは、尼崎市民が軟式野球場として利用できる。
さらに、投手らがノックの練習などに使う黒土の内野のみのグラウンド「(仮称)タイガース練習場」もある。現在の鳴尾浜球場では、投手の練習には道路を挟んだ向かいの球場を借りることが多かったが、同じ敷地内で練習ができるようになるというわけだ。
■室内練習場
グラウンドだけではない。隣接する室内練習場のデカさには度肝を抜かれる。広さは約65m×約90mの6168平方mで、なんと甲子園球場の新室内練習場の1.5倍にあたる。
60m×60mのダイヤモンドで内野の守備練習ができ、ブルペンは6レーン。打撃練習場所も6レーンあり、固定の3レーンにはボール自動回収機能も付いている。
ほか、コンディショニングエリア(トレーニングエリア)やシャワーのある更衣室、ロッカールームなども完備されている。
また、室内練習場横に、ダッシュなどの利用を想定している坂路を設置。阪神なんば線のすぐ横であり、阪神電車の中から坂道ダッシュで鍛錬する若虎の姿を見ることができる。
■選手寮は三代目・虎風荘
選手寮兼クラブハウス「虎風荘」は、三代目としてその名を継承する。3階建てで38部屋。
約300平方mのトレーニングルーム(現在の鳴尾浜施設は約220平方m)に、約260平方mの選手ロッカー(同約120平方m)のほか、画期的なのはリハビリ・トレーニング用の流水プールもあることだ。これは甲子園球場にはあるが、鳴尾浜施設にはないものである。
■最新鋭のデータ
さらに「トラックマン」によるデータ分析に加え、メイン球場内に8台の専用カメラを設置することで「ホークアイ」による分析も導入される。
また、試合や練習の様子をあらゆる角度から撮影する専用カメラを施設全域に約20台設置し、選手に支給しているタブレット端末からいつでも自由に確認できるようになる。
■甲子園球場と同じ左打者泣かせの風に糸井SAが反応
これらの施設はすべてまだ工事中で、3人は完成予想図を描いたパネルを見ながら説明を受け、イメージを膨らませていた。
ホームベース付近で記念撮影をしたとき、左打席の位置に立った糸井SAは吹く風に身をすくめた。甲子園球場と同じ向きということは、それは現役時代に散々泣かされた浜風だ。「今日、風けっこうきついな。これは左バッター、飛ばんなぁ」と笑いながら、来年以降ここに立つであろう“未来の虎の大砲”を思いやっていた。
ぐるりと一回りし、すべてを見学し終えた3人は、それぞれ感想を述べた。
■藤川球児球団本部付SA
「1軍の選手がうらやむような施設になるかもしれない。来年は(球団創設)90周年ですけど、100周年のときには阪神タイガースが12球団で最も素晴らしい施設を持っている、そしてその中で育った選手たちは12球団でトップになる、アメリカまで入れても最高の選手たちが揃ってきたと言えるように、この施設も使い方ひとつだと思う。
ハイブリッドな使い方をしなければ。現場はいかにここを上手に使うかがポイント。いくらいいものは持っていても、扱いきれなければ。そこは現場の力でしょうね。
現場のスタッフ、指導者がしっかりと学んで、使い方を把握した上で(選手に)提供する。できるだけ会社の中でシミュレーションをやる必要があるんじゃないかな。最高の施設ができるので、使い方、動き方の流れはシミュレーションをたくさんしなければいけないという気はします。
選手にトラブルが起きないようにスピーディに対応していかないと。僕もそういう担当の近くにはいるので、見守っていかなければいけないし、外国からも育成選手が入ったりしていますから、そういう部分を考えても戸惑いが選手のつまずきになるので、いかにスムーズに発進させられるかが大事。
今、プロ野球自体も地域密着になってきている。大阪と(甲子園球場のある)西宮の沿線上に球場ができたのは素晴らしいことだと思いますし、ファンの方々は電車で甲子園に行くたびにここを通り過ぎて、(車窓から)選手の背番号が見えてね、『あいつ、今2軍なんだ』という光景も、選手はなにくそというメンタルも磨けるのかなと。
悔しいっていう気持ちは大事なんでね、そのへんも期待したいですね。
甲子園球場に行く前、デーゲームをこちらで見てからナイターにということもできますし、コアなファンにとってはこちらで次世代を担う選手を見て、いつか甲子園でこの選手たちが…とまるで家族のように思ってもらえればいいかなと思います。
OBとして、野球が次世代に残っていくんだなというふうに、こんな施設ができたことでまた感謝…そういう思いですね」。
■糸井嘉男SA
「すごい施設ができるんやなっていうのは感じました。将来のタイガースが楽しみです。
球場もですけど、室内(練習場)の大きさとか、あとバッティングセンターみたいな自分で(打ったボールを)拾ったりしなくていい。タマスタ(筑後)で1回見せてもらってすごいなって思ったんですけど、それが尼崎に…!
鳴尾浜ではなかなか若手が好きなときにバッティングをするというのが厳しかったけど、打てる場所が増える。ここは、いつでも野球に打ち込める環境。若いうちは練習しといたほうがいいんで。
今はバッティングの角度であったり、どういうボールのスピンだったりっていうのは数値化されてるんで、そういう意味では最前線のシステムを取り入れて選手はできるので、うらやましいですね。
12球団でもナンバーワンでしょ、これ。施設がいいと野球に打ち込めるし、最高です。
(メイン球場の)バッターボックスにも立ちましたけど、ほんまに風を感じました。久々のバッターボックスのあの風、僕あんまり好きじゃないんですけど(笑)。甲子園と向きも同じなんで、左バッターは苦戦するんじゃないの(笑)。
タイガースファンは多いので、2軍でも集客できると思う。お客さんに慣れるという意味でもいいんじゃないかな」。
■岩田稔CA
「素晴らしい施設ができ上がるんで、僕もいちファンとして楽しみっていのがありますし、若手がどんどんここから育って、さらに強いタイガースと一体となっていくんじゃないかな。
選手との距離感が近い場所になるので、犬の散歩しながら来たりという環境。若手の子たちの成長をしっかり見守れる場所だと思います。
甲子園と同じ位置で作られているということなので、打った感触でホームラン入ったとか、これやったらいかないなとかっていうのもここで確認できますし、ピッチャーはピッチャーでそういう攻め方っていうのも、甲子園の事前練習をちゃんとできる。
鳴尾浜は室内練習場もあまり大きくないので、雨の日は甲子園に行かないとできなかったり…(1軍の)試合がデーゲームの場合だったらできなかったので、ほんとに環境に左右されないレベルアップができる。
去年、タイガースは優勝して、若手はだいぶ刺激を受けたと思うので、もっともっと刺激し合いながらできる場所が、来年でき上るのは楽しみですね。
『虎風荘』、三代目でしょ。なんかかっこいいっすね(笑)。虎風荘って僕らからしたら登竜門というか、そういう場所でもありますし、それがずっと受け継がれるっていうのは、伝統あるタイガースならではかなと思いますね。
僕も引退して3年目になりますけど、鳴尾浜に向かうときってやっぱ気持ちが入るんですよ。しゃんとしな、みたいな。来年、ここができたときには、そういう子たちがどんどん増えていくのかなと思いますね」。
■「シン・虎の穴」からどんなスター選手が誕生するか
何から何まで最新鋭の設備が完備される「シン・虎の穴」。ここで鍛えられた若虎が、さらに強いタイガースを作り上げる。
ただ、藤川SAが話すように、素晴らしい施設ができたから強い選手が育つわけではない。これを使いこなせなければならないわけで、選手たちにはより一層の意識の向上と鍛錬が求められる。
このゼロ カーボン ベースボール パークが存分に活用されるとき、タイガースは確実に常勝軍団になっているだろう。そして、日本球界を代表するスター選手が誕生しているに違いない。
2025年3月の開業が待ちどおしい。
(表記のない写真の撮影は筆者)