チームが低迷するなか、今オフにFAとなるスラッガーの捕手は、なぜ、トレードで移籍しなかったのか
シカゴ・カブスは、大きく負け越している。トレード市場では売り手に回り、4人のリリーフ投手、デビッド・ロバートソン(→フィラデルフィア・フィリーズ)、スコット・エフロス(→ニューヨーク・ヤンキース)、マイケル・ギブンス(→ニューヨーク・メッツ)、クリス・マーティン(→ロサンゼルス・ドジャース)を放出した。
けれども、噂が出ていた野手2人、捕手のウィルソン・コントレラスと外野手のイアン・ハップのトレードは実現しなかった。
昨オフにマーカス・ストローマンや鈴木誠也を迎え入れたことからも窺えるとおり、カブスは、再建を始めようとしているわけではない。ブルペンの整備は、同じ投手でも、先発投手陣より容易だ。
ただ、来シーズンも保有できるハップと違い、コントレラスは今オフにFAとなる。昨年の夏、カブスはFA直前の野手3人、クリス・ブライアント(→サンフランシスコ・ジャイアンツ/現コロラド・ロッキーズ)、アンソニー・リゾー(→ヤンキース/現ヤンキース)、ハビア・バイエズ(→メッツ/現デトロイト・タイガース)を放出した。コントレラスも、彼らと同じ道をたどると思われた。
7月26日に行われた、トレード・デッドライン前の最後のホーム・ゲームでは、リグリー・フィールドの観客がコントレラスとの別れを惜しんだ。
捕手の需要が皆無だったわけでない。例えば、ヒューストン・アストロズはクリスチャン・バスケス(←ボストン・レッドソックス)、シアトル・マリナーズはカート・カサーリ(←ジャイアンツ)、ミネソタ・ツインズはサンディ・リオン(←クリーブランド・ガーディアンズ)を獲得した。
アストロズがバスケスを手に入れたのは、マーティン・マルドナードと併用するためだ。今シーズン、アストロズは、マルドナードとジェイソン・カストロの捕手2人を擁し、開幕を迎えた。だが、カストロは打撃不振の上、6月下旬に離脱。左膝の手術を受け、復帰は来シーズンとなる。代わって昇格したルーキーのコリー・リーも打てず、マルドナードは10本塁打ながら、出塁率は.250に届いていない。OPSは.600未満だ。一方、移籍前のバスケスは、ホームランがマルドナードより2本少なく、出塁率も.327とそう高くないものの、20本の二塁打を打ち、OPS.759を記録していた。
バスケスとコントレラスを比較すると、打撃はコントレラスが勝る。バスケスも2019年に23本塁打を記録しているが、コントレラスのシーズン20本塁打以上は、2017年と2019年と2021年の3度を数える。2017年と2019年はOPS.850以上。今シーズンも、14本のホームランを打ち、OPSは.820を超えている。
今オフにFAになるのは、バスケスも同じだ。今シーズンの年俸は、バスケスが700万ドル、コントレラスは962万5000ドルだが、残り分の差額は100万ドルに満たない。
コントレラスが移籍しなかった理由は、ディフェンスにあるような気がする。そこには、新たな投手とバッテリーを組むことも含まれる。
あるいは、トレードの打診はあったものの、こちらもディフェンスがマイナス要素となったのか、カブスが納得できる交換条件ではなかった可能性もある。今オフ、カブスがクオリファイング・オファーを申し出て、コントレラスがそれを断って他球団と契約すれば、カブスにはドラフト指名権が与えられる。コントレラスを放出して得られる選手とドラフト指名権を比べ、カブスは後者が上と判断し、トレードに応じなかったのかもしれない。
今オフのFA市場においても、同じことは起こり得る。もっとも、投手との関係は、スプリング・トレーニング中に構築する時間がある。また、捕手ではなく、DHや一塁手として契約しようとする球団が出てきてもおかしくない。その場合、コントレラスは、ビクター・マルティネスやカルロス・サンタナ(現シアトル・マリナーズ)のようなキャリアを歩むことになる。
なお、マーティンとエフロスのトレードについては、それぞれ、こちらで書いた。