新監督・橋本大祐(元阪神タイガース)が指揮を執る今年の兵庫ブルーサンダーズ(関西独立リーグ)
いよいよ開幕だ。
NPB(6月19日)、BCリーグ(6月20日)、四国アイランドリーグ(6月20日)に先駆け、関西独立リーグは北海道ベースボールリーグ(5月30)に続いて6月13日に幕を開ける。
三木総合防災公園野球場での開幕戦(VS堺シュライクス)を前に、兵庫ブルーサンダーズの橋本大祐監督が今季に懸ける意気込みを語った。
■新監督は元阪神タイガースの橋本大祐氏
元虎戦士である橋本監督は、2015年から2018年までブルーサンダーズの2軍であるインパルスの、昨年は山崎章弘監督の元でブルーサンダーズのそれぞれ投手コーチを務めてきた。
ところが山崎氏が今年、巡回打撃コーチとして読売ジャイアンツに復帰したことにより、監督の要請を受けた。
「『今、このブルーサンダーズで自分の後を任せたいのは橋本くんだけや』と山さん(山崎氏)からの強い推薦があって、山さんの言葉で決めた」と、その思いに応えることにした。
引き受けるにあたって、山崎氏からは「今までのブルーサンダーズの色なんか壊してもらっていいから、自分の色を出すように。自分のやりやすいようにやってくれたらいい」と背中を押してもらったという。
「なので、山さんのいいところは引き継ぎながら、自分の思っていることもしっかり出していこうという感じでやっている」。
昨年も山崎氏の方針に共感してやってきた。特に「萎縮する選手もいなくて、のびのびできる環境を作ってこられた」というところは、自身も実践していくつもりだ。
ただ、“のびのび”というのは加減が難しく、ともすれば緩んでしまうおそれもある。
「楽しくやるのとふざけるのは紙一重。そこは永山(英成)コーチが締めてくれるんで」と、年上であるコーチが怒り役を買って出てくれていることに「そういう意味では僕はやりやすい」と感謝している。
■“橋本カラー”は考える力
一方、“橋本カラー”はどう出していくのか。その方針をこんなふうに語る。
「若いチームなので、なるべく自分で考えるように。野球だけじゃなく私生活でも。独立リーグは練習場所も時間も限られているんで、その中でNPBに行くためにいかに考えてできるか。たとえNPBに行ったとしても、考えられる選手じゃないとやっていけないと思うんで、そういう力を身につけられるようにとやっている」。
しかし「考えろ」と言われて、中には何をどう考えたらいいのかわからない選手もいるだろう。
「そこはヒントを与えて、『自分はどう思う?』『これ、こうやけど、どう思う?』とか、『なんでそうしたん?』とか、まず考えて答えさせるようにしている。
それでわからないときは『俺はこう思うんやけど、自分はどう?』って訊いたりとか、なんとか答えを引き出そうとしている。
でも本当にわからないような若い子には『これはこう思うから、これについて考えながらやってみ』と頭ごなしにではなく、自分で考えられるよう順序だてて話す。
歳が上の子には何も言わずに、言い方は悪いけど、やりたいようにやらせている」。
考える力を養いながら自主性を重んじて行動させる。NPBでもそうだが、一般社会でも役立つ“人間力”も向上させるように導いている。
■自主トレ期間中に力がアップ
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、開幕も見送られ、チームとしても活動は自粛せざるを得なかった。
ただ、まったく動かないわけにはいかない。ジャージを着て自主トレという形で、各自で考えながら体は動かしていた。
そして、いよいよ5月25日、約2カ月ぶりに全体練習を再開した。
ここで橋本監督はビックリしたという。
「ピッチャーは球速が上がったりして、この自主トレ期間中にみんなよくなっていた。バイトも休みだったのでYouTubeを見たり、トレーニングコーチに出してもらったメニューをじっくりやったり。自分で考えながらできるプラスの時間にしていた」。
災い転じて福となす―。自粛期間で考える力が向上し、技術力アップに繋げることもできた。早くも“橋本イズム”が浸透しはじめている。
■近年でもっとも強い戦力が終結
橋本監督が「若いチーム」というように、メンバーはガラリと入れ替わった。
「ピッチャーで残っているのは藤山(大地)だけ。野手もレギュラーでは小山(一樹)と濱田(勇志)の2人。ほぼ入れ替わった」。
全28人中、ルーキーが13人を占め、そのうち高卒ルーキーが7人だ。たしかにフレッシュなチームである。
しかし、「僕もブルサンを何年か見てるけど、今年が一番強いと思う、能力的には」と、その戦力の充実度はかなり高いと橋本監督は胸を張る。
実はそれだけの戦力を集められたのには、わけがある。これまではリーグが開催するトライアウトの受験生や、チームの練習会に参加してきた中からセレクトしていた。しかし、なかなか思うようなレベルの選手が来なかった。
しかし今年に向けて方針を変えて取り組んできた。昨年、高校や大学を回り、スカウト活動に力を入れた。足で稼ぐスカウティングで選手を口説き、NPBへの野望を持った好素材を独自に発掘したのだ。
■地域とともに
コロナ禍で開幕は2カ月以上遅れはしたが、充実した戦力を得て、監督として初めて迎える開幕に胸を高鳴らせている。
これまでも投手コーチとしては関わってきたが、今年はチームを束ねる立場となり、より一層、地域におけるチームの位置づけを考えるようになった。
「やっぱり独立リーグなんで地域に愛されて、地域密着っていうのが大前提やと思うんで、みんなに応援してもらってやっていきたい。ここ数年、そこが疎かになっていたので、今年はより地域に貢献できるようにやっていきたい」。
たとえば朝、小、中学校の前でユニフォーム姿にて「おはようございます!」と声をかける挨拶運動。これは7月から小学校2校と中学校6校で2回ずつ行う予定だ。
そして三田駅周辺のゴミ拾い。三田市が行う美化運動に、球団として全員で参加する。
また、未就学児や小学校低学年の児童によるキッズクラブで野球教室も開き、野球の楽しさを伝えていく。
こういった地道な活動に積極的に取り組んでいる。
■役職が人を変える
中でもキャプテン・仲瀬貴啓選手の奮闘が光る。率先して後輩たちを引っ張っている。
今年3年目を迎える最年長の仲瀬選手は、自らキャプテンがやりたいと申し出てきたそうだ。
「最後の1年に懸けるというのと、自分も昨年できてなかったけど、周りを見ていて『もっと真剣に野球やろうよ』って思っていたみたいで。これまでの選手がガラッと抜けたんで、残ってる自分が率先して引っ張っていかなあかんというのがあって、やりたいと言ってきた」。
昨年までは、そういうタイプではなかっただけに、橋本監督も驚いたのだ。
「じゃあ、チームのことはすべて背負わせてやろうと思って、『悪かったら全部、お前のせいにするよ』って言って。『2軍に落ちてもやりたいの?落ちるかもしれんよ』と言っても『やりたい』って言うんで、その意気込みを買った」。
そしていざ任せてみると、人が変わったようになった。
「去年とは打って変わって、いきなりめっちゃ頑張る子になって。ゴミ拾いとかの汚れ仕事も自分からやるようになって、しっかりチームを引っ張っている。人に言うには自分がやらなあかんなと思っている。役職が人を変えたかなと」。
前向きな姿勢に目を細める。
■常にNPBを意識する
開幕を前に今、チームはまとまっている。練習での雰囲気も非常にいい。
「すごくいい感じだと思う。仲もいいし、その中でも野球のことで言い合いもしたりする。選手同士で教え合いもする。教えるって考えないと無理だし、自分が理解していないとできない。また、教えてるときにふと自分が気づくこともあるんで、それはいい方向にいってるかなと思う」。
そして、この雰囲気を作り出している大もとは橋本監督だ。醸し出る柔らかい人柄が、今の若い選手たちに合うのだろう。
「NPBを目指しながら、もちろん勝ちにこだわってやろうと思っている。選手それぞれがこのリーグでの成績に満足せずに、何をするにしてもNPBを意識してやってほしい。そうすることで個々のレベルも上がるし、それがチームの勝ちにも繋がる」。
NPBでプレーしたいという選手たちの夢を最大限、バックアップするつもりだ。そして勝つことで地域のみなさんを喜ばせたいと考えている。
例年は48試合あった公式戦も、今年は約6割の30試合だ。明日、いよいよそのスタートをきる。
(兵庫ブルーサンダーズの戦力分析は⇒ドラフト候補を探せ!)
(撮影はすべて筆者)