サーミ先住民が語る、ノルウェー社会の見えない抑圧
ノルウェーにおける先住民サーミのコミュニティは、独自の文化や言語を持ちながらも、長い間差別や同化政策の影響を受けてきました。
最新の報告書『マイノリティ・ストレスの経験』では、サーミが抱える具体的な問題とストレスについても言及されています。
サーミの人々は、歴史的にノルウェー政府の同化政策に苦しんできました。この政策は、サーミの言語や文化を抑圧し、ノルウェー社会への同化を強制するものでした。これにより、サーミのアイデンティティが脅かされ、多くの人々が自分たちの文化を守るために闘ってきました。
ノルウェー語が主流の社会、言語の壁
現在、サーミがいかに日常生活や公共サービス利用において多くのストレスを感じているかが、以下のように指摘されました。
サーミ語を話す人々は、公共サービスや医療機関で言語のバリアに直面しやすいです。ノルウェー語が主流であるため、サーミ語を話す人々はコミュニケーションに困難を感じることがあります。
私たちは「見えない存在」
マジョリティや特定のグループによって、あるいは公的制度の不備によって、「自分たちが積極的に非可視化されている」とマイノリティは感じています。
サーミ人においては、サーミ人としてのアイデンティティや文化が不可視化されていることに「苛立っている」ことが報告書で強調されました。
同時に、民族衣装などの「明らかにサーミっぽいもの」を身につけていなければ、周囲の人々が「サーミ人として見ない」傾向が強く、このことがアイデンティティに影響を及ぼしています。
またサーミ人は「北極圏フィンマルクという地域にしか住んでいない」という印象操作により、南部出身のサーミ人は「まるで南サーミ人の生活様式が非可視化されているかのよう」「フィンマルク出身ではないと、サーミの一員と見なされないみたい」と報告しています。
認めてもらうために、「トナカイ飼育」を強調
サーミ人の生業として典型的な「トナカイ飼育」を隠していた時代もあれば、サーミであると証明するためにトナカイ飼育を強調しなければならない時もあります。
民族衣装を着るまでは「目に見えないマイノリティ」
サーミだと知ってもらうために、サーミ人が使う指輪や衣服を「シンボル」として使うこともあります。
サーミであることを否定される
サーミ人ではない近親者が、サーミの血を引く親戚をマイノリティの一員と見なさない体験もあげられました。
ノルウェー人とは異なる存在として扱われることが多いため、サーミの若者は特に自己評価が低くなる傾向があります。
「醜い」存在として、隠される
父親がサーミ人である回答者は、サーミ人ではない母親から「私のインド娘」と、母の友人に紹介されたときの感情的な反応について語りました。
このエピソードに関しては、「マイノリティの肌や髪が敵意の目印として、あるいはフェティシズムの象徴として機能している。いずれにせよマイノリティのアイデンティティに望まぬ注目を集めることになる典型的な例である」と報告書で指摘されています。
ノルウェー政府の周知不足で、サーミ人は知られていない
マイノリティを代表する責任が、肩にのしかかるストレス
ノルウェーが大々的にサーミ人に対して行ってきた同化政策などを可視化させない結果、ノルウェー国内や国外で「サーミ」という言葉がそもそも知られておらず、誰かに会うたびに「教育しなければいけない」ストレスもあります。
このように多くのサーミの人々は、文化や歴史に対する理解が不足していると感じています。足りていないのは、公共サービス提供者や一般市民に対する教育と意識啓発です。
執筆後記
このような相手を権力者が非可視化するテクニックは、ノルウェーでは「抑圧テクニック」とも言われています。自分の土地で国からの圧力で「見えない存在」にされることが、いかに苦しいかは、日本でもマイノリティの立場に立ったことがある人は想像ができるのではないでしょうか。
「ノルウェー政府がサーミ人の歴史や文化を教育制度に十分に盛り込まなかったから、多くの人がサーミのことをよくわかっておらず、偏見と差別につながっている。
知らないという人たちに『教育しなければいけない』ストレスと責任を背負っている」という意見は、筆者が普段から取材するサーミの若者たちが頻繁に口にすることでもあります。
今、若いサーミの世代は、サーミがいかに植民地主義の犠牲になってきたか、いかに今も差別と抑圧が続いているかを、InstagramやTikTokを使い、積極的に世界へ英語で発信しています。
このような責任感を背負いながら、サーミの若い世代は毎日を送っているのです。マジョリティだったら送らなくても済んだことです。
本当にノルウェー政府が反省をしているなら、この世代の「教育しないと」という重圧が少しでも減るように、教育支援や差別対策をするべきでしょう。さて、そういえば日本政府は、マイノリティに対してどうのようなことをしているでしょうか。