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井上尚弥へ挑戦めざすWBC1位ピカソがネリにストップされた男に12回判定勝ち

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ホバネシアン(左)の左を食らうピカソ(写真:Zanfer Boxing)

KO勝ちを宣言したが……

 メキシコシティのアレナ・シウダー・デ・メヒコで24日(日本時間25日)行われたスーパーバンタム級12回戦でWBC1位アラン・ダビ・ピカソ(メキシコ)がアザト・ホバネシアン(アルメニア/米)に3-0判定勝ち。WBCスーパーバンタム級シルバー王座の防衛を果たしたピカソ(24歳)は29勝16KO1分無敗。同級4団体統一王者井上尚弥(大橋)挑戦に一歩、前進したかたちだ。

 前日の計量が終わると「ホバネシアンを10ラウンド以内にノックアウトする」と宣言したピカソだが、昨年2月に米カリフォルニア州で行われたWBCスーパーバンタム級挑戦者決定戦でルイス・ネリ(メキシコ)に11回KO負けしたホバネシアン(36歳)をストップすることはできなかった。スコアカードは2ジャッジが118-110、もう一人は120-108でピカソの勝ち。

 ちなみにメインイベントはレジェンド、フロイド“マネー”メイウェザー・ジュニア(米)と元有名ギャングの孫で総合格闘技UFCの選手ジョン・ゴッティ三世(米)のエキシビションマッチ。セミファイナルで登場したピカソは母国では世界チャンピオンと同等かそれ以上ともいわれる知名度をさらにアップさせ、周囲の期待の大きさを物語ることになった。

 ではモンスター、井上の脅威になるかというと昨夜のパフォーマンスを見る限り答は「ノー」だ。今後、井上との対戦があるかもしれない身長185センチを誇るWBO世界フェザー級王者ラファエル・エスピノサ(メキシコ)と2週間前に同じくメキシコシティでIBF世界フライ級王者に就いたアンヘル・アヤラ(メキシコ)を従えてリングに登場したピカソ。これまで何度も触れているが、メキシコの最高学府UNAM(メキシコ国立自治大学)で学び、しかも優秀な成績を収めている背景がファンの耳目を集める要因になっている。今こそ実力の向上に全力を傾けて取り組むべきだろう。将来のスターとして育てられながら腕を磨き押しも押されぬ存在に昇りつめたのが4階級制覇王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)だ。同胞ピカソのケースは異なるが、未来のスター候補として育成されているところはカネロと共通している。

フェザー級王者エスピノサ(後方・白Tシャツ)らを従えて登場したピカソ(写真:Zanfer Boxing)
フェザー級王者エスピノサ(後方・白Tシャツ)らを従えて登場したピカソ(写真:Zanfer Boxing)

パワーはネリより劣る

 メキシコでピカソをプロモートする「サンフェル・ボクシング」の公式フェイスブックページがホバネシアン戦直後にピカソにインタビューしている。それを紹介してみよう。

 目標に挙げたKO勝ちが実現しなかったことに関してピカソはこう弁解している。

 「ハードなテストだった。アザトは試合中ずっと手強い選手だった。『さあ、もう倒れる、もう倒れる』と思ったけど、手を出してくる。どこにいったい彼の強さがあるのかわからない。そこで長い距離を置いた戦法を選択した。ダメージはあるけど、いきなりパンチを繰り出してくる。とても危険な状態に見えたからアウトボクシングを選んだ。でももしドンピシャリの一撃が当たっていたら、彼は倒れていただろう」

 ピカソは3回と8回にホバネシアンに攻勢を許すシーンがあったが、それ以外のラウンドはパンチの的中率で勝り、無難に乗り切ったように思えた。特に断続的に相手の出鼻を捉えた左アッパーカットが有効だった。そして終盤も右オーバーハンド、ボディー打ちで仕掛け押し切った。中盤に一度ホバネシアンをロープへ後退させたのがハイライトか。ただフィニッシュに持ち込めなかったのは一撃のパワー不足だと推測される。左強打で井上をマットに這わせたネリよりもパワーで劣ることは否定できない。それでも収穫は多かったと彼は胸を張った。

 「今日はチームといっしょにノックアウトを狙って戦った。でも途中で作戦の変更を迫られた。それはアザトが強かったからで、ノックアウトするかされるかの展開になったからだ。だから距離を置きながらも先手を取り、ボディーも攻めて打ち勝った」

前日の計量でポーズを取るピカソとホバネシアン(写真:Zanfer Boxing)
前日の計量でポーズを取るピカソとホバネシアン(写真:Zanfer Boxing)

今でも井上に挑める!

 ホバネシアンと激闘を繰り広げ、最後はストップに持ち込んだネリのファイティングスピリットを私は評価するが、ピカソに言わせれば、アウトボクシングのスキルを披露したというところか。彼は威勢がいいと同時に反省の言葉も口にする。

 「改善すべきことがたくさんある。ボクシングはずっと学び続けなければならない。今日、アザトというストロングな相手と戦い、今後イノウエというもっと強靭で速い選手が待っている。より綿密な作戦とカンビオ(チェンジ)が要求される。カンビオに次ぐカンビオ……。テクニックでもパワーでも私は見違えるように変身する」

 とはいえ、WBCスーパーバンタム級挑戦者決定戦として承認されるとも予測された一戦で快勝したピカソは、このホバネシアン戦を井上挑戦の“前哨戦”として捉えている様子もうかがえる。「それは気が早い」と忠告したくなるが、メキシコの俊英は時期が到来しているとアピールする。

 「WBCが(挑戦の)チャンスを与えてくれることを望んでいる。ベストな選手、アザトに勝ったから。WBCが短期間でイノウエ戦をオーダーすることを心から願っている。そうなれば具体的な作戦も立てられる」

 ネリとの試合からリングに上がっていなかったホバネシアンは、どの団体のランキングにも名前がなくベストな選手とは言えない。カネロのケースでも冒険マッチはいくつかあった。まずは同じサンフェル・ボクシング傘下のネリとサバイバルマッチを組んでもらいたい。もしネリ(現在WBCスーパーバンタム級4位)が応じないなら、少なくともランカーの一人と対戦してほしい。変身するのは瞬時でなくてもいい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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