Yahoo!ニュース

『帰ってきたウルトラマン』のグドンとツインテール。怪獣の「食物連鎖」エピソードから見える驚愕の未来!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『帰ってきたウルトラマン』の第5~6話の前後編は、傑作であると同時に、空想科学的にとても興味深い内容だ。

2匹の怪獣が登場するのだが、片方の「ツインテール」という怪獣は、地面に顎をつけて逆立ちしたようなフォルムが斬新。筆者は「うーむ、この怪獣はどうやってフンをするのか?」など訝しんでいたのだが、当時売られていた怪獣図鑑には、もっと驚くべきことが記されていた。

「生まれたてのツインテールは、エビのような味でとてもおいしく、グドンの大好物だ」。

怪獣がエビの味! 幼い頃から数多くの怪獣図鑑を見てきたが、味についての言及を読んだのは初めてだ。

エビのような味ということは、ツインテールも相当うまいのだろう。

味が判明しているからには、誰かが食ったに違いない。しかも、エビの味がするのは「生まれたて」に限ることまで明言されている以上、その人は成熟したツインテールにもかぶりついたのであろう。ツインテールは身長45mもある大怪獣なのに、勇敢な人がいたものだ。

◆話をややこしくするウルトラマン

見ず知らずの人物を尊敬している場合ではない。ツインテールが登場したのは、こんな物語だった。

西新宿の工事現場(現在の新宿新都心)で怪獣の卵が発見され、同じタイミングで怪獣グドンも出現した。正義のチームMATが文献を調べると「グドンはツインテールを常食する」との記述が見つかった。

やがて卵からツインテールが孵化し、グドンが襲いかかってきて、2匹は激しく戦い始める。

なんと、怪獣同士の食物連鎖! 怪獣も生物なのだから、食物連鎖の輪のなかにいるのは当然だ。つまり西新宿での戦いは、グドンによる「狩り」に、ツインテールが必死で抵抗しているシーンだったのだ。

それを正面から描くとは、なんと科学的な番組であろうか。

などと感動しながら見ていたら、物語の終盤、グドンとツインテールが戦っているときに、ウルトラマンが登場。両者の戦いに加わった。

なんてことするんだ、ウルトラマン! それは、ライオンがシマウマを襲っているところに、割って入るようなもの。

そんなことをしたら、グドンは妙な野郎がエサを横取りしにきたと怒るだろうし、ツインテールも敵が増えたと焦って凶暴になるのでは……。

案の定、劇中のウルトラマンは、2匹に攻撃されてピンチに陥った。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

幸い、グドンがツインテールを倒し、怪獣が1匹になったおかげで、ウルトラマンは何とか勝つことができた。

しかし、両者は「食う・食われる」の関係にあるのだから、放っておいても、いずれは1匹になるのである。そうなってから出ていけば、満腹で闘争心も鈍ったグドンだけを相手にラクな戦いができたのではないかなあ。

◆グドンを一匹見かけたら……

では、ウルトラマンが邪魔しなかったら、両者のあいだにはどんな食物連鎖が成り立っていたのだろう?

問題の焦点は、食われるほうのツインテールの数である。

食物連鎖においては、食われるほうは食うほうより圧倒的に多くなければならない。1匹のグドンがいるとき、ツインテールは何匹いるのか?

グドンの体重は2万5千t。ライオンの食事量から計算すると、この怪獣が1日に食べるツインテールの肉は52tと見られる。

ツインテールの体重は1万5千tだから、単純に計算すれば、ツインテール一頭はグドンの290日分の餌となるわけだ。

だが、ここで重要なことを思い出そう。そう、ツインテールはエビの味!

ということは、その体を作るタンパク質も、エビと同じように自家融解(死後に酵素が出てタンパク質を分解する)しやすいはず。賞味期限はせいぜい3日と見た!

グドンは、ツインテールを倒したら、新鮮なうちに食い溜めする必要がある。再びライオンのデータから計算すると、グドンが3日間で食い溜めできるツインテールの肉は、最大で77日分である。

一方、これもライオンから計算すると、体重1万5千tの動物は、生殖可能になるまで53年を要する。

すると、77日に一匹のペースで食われてもツインテール種が絶滅しないためには、最低でも250匹が常時存在する必要がある。

つまり、グドンを1匹見かけたら、250匹のツインテールがいることを覚悟せねばならない。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆ツインテールは何を食べる?

これだけの数となると、心配である。食われる側のツインテールも、何かを食べているはずだが、いったい何を食べるのか。

ツインテールは、尾を振り上げ、アゴが地面のすぐ近くにある。その口の大きさは、上下1.5mほどだ。口にはワニのような歯が並んでいるから、明らかに肉食動物である。

すると、この怪獣が捕食するのは、地上で生活する体高1.5mほどの動物……まさか、人間!?

なんと、グドンとツインテールの食物連鎖を他人ごとのように分析してきたが、その食物連鎖において、われわれ人間はツインテールの下に位置していた可能性があるということだ!

これは認識を改めなければ。われわれは食物連鎖というと、なんとなく「食べられる側がカワイソウ」という気持ちになる。だが、そのまた下に人間がいるとなれば、話は逆だ。

人間にとってグドンは、害獣ツインテールを食べてくれる大益獣。ぜひ盛大にツインテールを召し上がってください。

ウルトラマンも、グドンの邪魔をするなど言語道断。グドンのためにツインテールを捕まえてくるなど、かいがいしく世話を焼いていただきたい。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

なのにウルトラマンは、グドンを倒してしまった。なんてコトしてくれたんだ、ウルトラマン!

しかも、劇中でグドンが倒したツインテールは、250匹いるはずのうち、たったの1匹である。これによって、ツインテールはドンドン増える。そして人間はドンドン食われる……。

うーむ、この物語、この後どうなったのだろうか? 描かれなかった「その後」が気になって仕方がない『帰ってきたウルトラマン』の第5・6話である。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事