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NFLが本気で取り組むフラッグフットボールの五輪競技化 日本の子どもたちもプロモーションに参加

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
NFL主催のフラッグフットボール世界大会でプレーする日本チーム(撮影:三尾圭)

 30秒間のテレビCMが700万ドル(約9億円)と超高額なことで知られるNFLの優勝決定戦『スーパーボウル』で、オリンピックでの新種目採用を狙うあるマイナー・スポーツのCMが2分間も流れた。値段にして約36億円のプロモーションをして、五輪採用を目指したのはフラッグフットボールだ。

 タックルの代わりに腰に着けた旗(フラッグ)を取るフラッグフットボールは、アメリカンフットボールからボディコンタクトの要素を取り除いたスポーツ。年齢や性別を問わずに楽しむことができる。

 今回、スーパーボウルの生放送中に流されたフラッグフットボールのCMはNFLが制作したもの。

 NFLは毎年のスーパーボウルで、現役のスーパースターや過去の殿堂入りレジェンド選手を多数出演させる豪華なCMを作ってきたが、今年はメキシコ人の女性が主役に抜擢された。

 この女性はディアナ・フローレス。ディアナは昨夏にアメリカのアラバマ州で開催されたワールドゲームズの女子フラッグフットボールで、大本命だったアメリカを撃破して、メキシコを金メダルに導いた立役者だ。

 NFLがスーパーボウルという全米中の注目が集まるビッグイベントで、フラッグフットボールを題材にしたCMを制作したのは、2028年ロサンゼルス五輪でフラッグフットボール採用を狙ってのもの。

 ロサンゼルス五輪では、フラッグフットボール以外にも、野球とソフトボール、空手、ブレイクダンス、クリケット、ラクロス、キックボクシング、スカッシュ、モータースポーツの9競技が開催都市提案枠の最終候補に残っている。

 五輪で採用されるには、「男女平等」と「若者層への求心力」の2要素が重要視される。

 ボディコンタクトがないフラッグフットボールは男性だけでなく、女性も手軽に安全に楽しめるスポーツ。NFLがフローレスをCMの主役に起用したのも、女性もプレーできるスポーツだという事実を強くアピールしたかったからに他ならない。

 また、若い世代への影響力に関しては、小学校世代からプレーできることをアピールするために、スーパーボウルの1週間前にネバダ州ラスベガスで開催されたNFLのオールスター戦『プロボウルゲームズ』期間中に、『NFLフラッグトーナメント』と銘打った大規模な少年少女によるフラッグフットボールのトーナメントを開催。米国中から勝ち抜いた子どもたちと共に、NFLから招待を受けた8ヶ国の子どもたちもプレー。

 NFLが招待した8ヶ国は、フラッグフットボールが世界中に浸透していることをアピールするために、北米(カナダとメキシコ)、アジア(日本と中国)、オセアニア(オーストラリア)、ヨーロッパ(イギリスとドイツ)、そしてアフリカ(ガーナ)とバランス良く選ばれ、12歳以下の少年少女による国際トーナメントで戦った。

NFL主催の国際大会でオーストラリアチームと戦う日本チーム(写真:三尾圭)
NFL主催の国際大会でオーストラリアチームと戦う日本チーム(写真:三尾圭)

 日本アメリカンフットボール協会(JAFA)の常務理事としてフラッグフットボール委員長を兼務し、国際アメリカンフットボール連盟(IFAF)の普及活動担当理事も務めている輿亮氏は、「フラッグフットボールは急速に拡大しています。昨夏のワールドゲームズに採用されたことが大きかったと思います。ワールドゲームズを踏み台にして、ロサンゼルス五輪での採用を目指しています」と説明する。

 フラッグフットボールは世界中に広まっており、100ヶ国以上で楽しまれている。

 アメリカが頂点に立っているのは事実だが、昨夏のワールドゲームズでは男子決勝戦でイタリアがアメリカと好勝負を演じて、アメリカとそれ以外の国の差は縮まっている。女子部門ではフローレス率いるメキシコが決勝でアメリカに圧勝してみせた。

 このワールドゲームズは、フラッグフットボールが初めて大規模な国際総合競技会に組み込まれた記念的な大会。

 ワールドゲームズでの成功を見たIFAFのピエール・トロシェ会長は「フラッグフットボールはスポーツとエンターテインメントの繋がりにおける総合競技大会の新時代を具現化する。このワールドゲームズで、そのポテンシャルを披露できた」と手応えを得た。

 ワールドゲームズ大会中にNFL幹部から「プロボウル期間中にNFLフラッグトーナメントを開催することと、国際トーナメントもやりたいこと」を打診された輿氏は、全面協力すると返答。

 日本に帰国後、年末に開催される『NFLフラッグフットボール日本選手権』小学生部門の優勝チームにラスベガスでのNFLフラッグトーナメントへの出場権利を与えることを決めた。

IFAFの輿亮理事、ディアナ・フローレス、ピエール・トロシェ会長(写真提供:輿亮氏)
IFAFの輿亮理事、ディアナ・フローレス、ピエール・トロシェ会長(写真提供:輿亮氏)

五輪競技に適しているフラッグフットボール

 東京五輪では新種目として3人制バスケットボールが採用され、7人制ラグビーも2016年リオ五輪から正式種目となったように、最近のオリンピックは少人数のチームスポーツを好む傾向がある。

 フラッグフットボールは5人制が基本であり、フィールド上でプレーする選手の人数はアメリカンフットボールの半分以下。また、3人制バスケと同じく、試合展開が速いのも、オリンピック競技に向いている。

 基本的には男女でチームが分かれるが、日本の子どもたちが参加したトーナメントは男女混合チームであり、この点も五輪新競技採用のアピールになりそうだ。

 「フラッグフットボールは性別にこだわらないジェンダーフリーかつ、年齢も問わないジェネレーションフリーなスポーツ。ボールゲームで男女が同じルールで、また同じフィールドで、一緒にプレーできるのは稀であり、フラッグフットボールはその1つ。これはコンタクトがないからできることです。それでいて、競技性が高く、得点もよく入るので、ゲームとして非常に面白い」(輿氏)

 スピーディーかつ戦術性が高い点はビデオゲームにも通じる部分があり、Z世代も熱中できるゲーム性を持っている。

 プレータイムも前後半各20分なので、約1時間で試合を終えることができる。

 「フラッグフットボールはフィールドが小さく、サッカーの半分以下です」と輿氏が説明するように、プレーをする場所を選ばず、室内でも屋外でもプレーが可能。まさに新世代のオリンピックに適したスポーツである。

プロボウルゲームズ期間中に開催された12歳以下の国際試合は男女混合で行われた(写真:三尾圭)
プロボウルゲームズ期間中に開催された12歳以下の国際試合は男女混合で行われた(写真:三尾圭)

デンバー・ブロンコズ・チアリーダーの村田夕奈さんもNFLフラッグトーナメントに参加した日本の子どもたちにエールを送った(画像:デンバー・ブロンコズ・チアリーダー公式インスタグラムより)
デンバー・ブロンコズ・チアリーダーの村田夕奈さんもNFLフラッグトーナメントに参加した日本の子どもたちにエールを送った(画像:デンバー・ブロンコズ・チアリーダー公式インスタグラムより)

NFLが本気でフラッグの五輪化に取り組む

 世界中のプロスポーツリーグの中で最も多くの収益金を稼ぐNFLは、国際団体であるIFAFと協力しながら、28年ロサンゼルス五輪でのフラッグフットボール採用を本気で狙っている。

 その第一弾が昨夏のワールドゲームズでのフラッグフットボール導入であり、第2弾ではさらに強力な武器としてプロボウルでフラッグフットボールを採用。これまではオールスターゲームとして開催されてきたプロボウルのフォーマットを大きく見直して、ヘルメットなどの防具を着けたアメリカンフットボールではなく、フラッグフットボールの試合に変えたのは、NFLの本気度の表れである。

 ケガを恐れた選手が明らかに手を抜いてプレーしていたプロボウルは、アメリカ4大スポーツのオールスターゲームの中で最も退屈で、つまらないオールスターゲームと言われており、観客席には空席が目立っていた。

 それがフラッグフットボールの試合が行われた今年のプロボウルゲームズは、6万人近いファンがスタジアムを埋め、NFLのスーパースターたちが繰り広げるフラッグフットボールの試合を熱心に応援していた。

プロボウルで行われた世界最高峰のアスリート集団であるNFL選手による本気のフラッグフットボール(写真:三尾圭)
プロボウルで行われた世界最高峰のアスリート集団であるNFL選手による本気のフラッグフットボール(写真:三尾圭)

 プロボウルゲームズには、NFLフラッグトーナメントを終えた世界8ヶ国の子どもたちも招待され、憧れのスター選手のプレーに目を輝かせていた。

 始めは観客席で見ていた子どもたちだったが、イベント中盤になると、NFL側の粋な計らいでフィールドに降りて、試合を見せてもらう。

 そんな子どもたちにNFL選手自らが近づき、サインをしたり、一緒に写真を撮ったりという国際交流も行われた。

 今回、貴重な経験を積んだ子どもたちの中から、2028年ロサンゼルス五輪の代表選手が生まれるかもしれない。

ボルティモア・レイブンズのマーク・アンドリュース(左)と一緒に写真に収まる日本チームの子どもたち(写真:三尾圭)
ボルティモア・レイブンズのマーク・アンドリュース(左)と一緒に写真に収まる日本チームの子どもたち(写真:三尾圭)

NFLのスーパースターによる第2のドリームチーム?

 もしも、フラッグフットボールがロサンゼルス五輪で採用されれば、NFLはトップクラスの選手をオリンピックに送り込むとの噂もある。

 NFLのスーパースターたちがオリンピックの舞台でフラッグフットボールをプレーすれば、それは1992年にNBAがマイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンなどの『ドリームチーム』をバルセロナ五輪に送り込んだシーンの再来となりそうだ。

 身体能力お化けであるNFLの選手たちによるフラッグフットボールの試合は、フラッグフットボールやアメリカンフットボールに馴染みのないファンをも夢中にさせる魅力を持っており、それこそがNFLがフラッグフットボールの五輪化に力を入れる最大の理由である。

LA五輪で採用される可能性は…

 ロサンゼルス五輪で採用される新競技は、今年中に開催されるIOCの総会で決定する予定だが、フラッグフットボールは選ばれるのだろうか?

 輿氏は「チームスポーツが選ばれるのであればフラッグフットボール。選手数が少なく、男女が共にプレーできる平等性、フィールドも小さく、日に何試合もできるコンパクトさ、そしてアメリカ大陸以外の地域が、アメリカ大陸に伍せるグローバル性で図抜けている」とフラッグフットボールの五輪競技化に高い期待を寄せる。

 NFLという強力な後ろ盾も持つだけに、フラッグフットボールがロサンゼルス五輪の大舞台で披露される可能性は高そうで、そのときには新たな人気スポーツとして注目を集めそうだ。

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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