異例の対立、高市氏VS小泉環境相どちらが正しい?脱炭素は核融合か再エネか
地球温暖化を防止し、その破局的な影響を防ぐため、2030年までに温室効果ガス排出を大幅に削減する―脱炭素社会にむけ、世界経済のあり方が大きく変わる中、日本にとっても温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー利用をどう変えていくかは、重要な課題だ。現在、石炭や天然ガスによる火力発電に頼る電力を原発か再生可能エネルギー、どちらを優先すべきかで、先日、自民党総裁選での候補者の一人、高市早苗・前総務大臣の発言に、小泉進次郎・環境大臣が強く反発する場面があった。
○高市氏、エネ基案の見直し主張
火力発電は温室効果ガスであるCO2を大量に排出してしまう。とりわけ、石炭火力発電は特に排出が多く、最優先に廃止していかなくてはならない。経産省「エネルギー白書2021」によれば、日本の電力全体のうち、火力発電は75.7%。これに対し、太陽光や風力等の再生可能エネルギー及び水力による発電は18.1%、原発は大半が停止中であるため、わずか6.2%だ。温暖化の破局的な影響を防ぐためには、2030年までにいかに温室効果ガス排出を削減できるかが重要であるが、今年8月、経産省がまとめた「第6次エネルギー基本計画案」では、2030年の電源構成は、再エネが36~38%、原発が20~22%、火力(石炭、天然ガス、石油)が41%を目標にするという。
この「第6次エネルギー基本計画案」に噛みついたのが、自民党総裁選の候補者の一人、高市早苗・前総務大臣だ。今月13日、出演したBSの番組の中で、「あれでは日本の産業が成り立たない」として、自分が首相になったときには修正すると主張した。これに対し、小泉進次郎・環境大臣は強く反発。今月19日の会見で、「再生可能エネルギー最優先の原則をひっくり返すのであれば、間違いなく全力で戦っていかなければならない」と釘を刺した。一方、高市氏は原発や核融合炉に重きを置いている。今月21日、地方各紙による合同取材に「原発の再稼働が必要。リプレース(建て替え)も必要なら、やらざるを得ない」と発言。日経新聞のインタビュー(今月16日)に対しても、「小型核融合炉の開発、実用化を急ぐべき」と語っている。
○高市氏と小泉環境相、どちらが正しい?
温暖化対策は一刻の猶予も許されない、時間との戦いであることは、今年8月に公表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の最新報告書が示している通り。「2030年までに温室効果ガス排出を46%削減」し、「さらなる高みも目指す」という日本としての目標は、これでも十分なものとは言えないのが科学的な見解だ。徹底的な温室効果ガス削減を速やかに実現する上で、原発を推進する高市氏、再エネを重視する小泉環境相のどちらが正しいのか。
結論から言えば、小泉環境相に軍配が上がる。何故なら、再エネは圧倒的なスピードで新規導入することができ、特に太陽光発電は設置が容易だからだ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、昨年、世界全体での再エネの新規導入量は261ギガワットに達したとのこと。1ギガワット=100万キロワットは、大型原発の発電容量とほぼ同じだから、昨年の1年間だけで、原発261基分の発電容量が再エネによって得られたということである。
一方、高市氏の主張のように、原発の再稼働をどんどん行ったとしても、原発事故以前の2010年の時点で、日本の発電量全体における原発の割合は25%程度だ。原発は夢のエネルギーのように語られがちだが、発電量自体は大型火力発電と変わりない。温室効果ガス排出削減のためには、火力発電所、とりわけ全体の3割を占める石炭火力発電所を真っ先に停止していくべきであるが、これを今ある原発全てを再稼働させ、さらに新たに原発を導入、あるいは増設して補うなど、福島第一原発事故を被った日本では、全く非現実的な話だ*。
*そもそも、老朽化原発が増加する中で電源比率で原発を20~22%とする、第6次エネルギー基本計画案にも大きな問題がある。
核融合炉の活用はもっと非現実的で、実現化の目処は全く立っていない。原子核どうしを融合させ、その際に発生するエネルギーを利用する核融合炉は、太陽が熱と光を発しているのと原理的には同じで、実現すれば膨大なエネルギー源となると言われる。ただ、核融合の実用的な技術が確立するのは早くて今世紀半ば、普及するのは今世紀末ともされている。核融合の研究開発の是非は置くとしても、あと10年もしないうちに結果を出すことが求められる温暖化対策において、核融合炉は選択肢にもならない。それより既にイノベーションをなし遂げており、新規導入スピードに優れる再エネを活用すべきなのだ。
○もはやフェイク、アンチ再エネ論
なお、日本では再エネについて、世界の状況から周回遅れの否定的意見が公の場でもよく主張されている。高市氏に限らず、再エネ中心のエネルギー政策に不安を感じる人々は、もはやフェイクとも言うべきアンチ再エネ論に影響されすぎているのだろう。例えば、「再エネは発電コストが高いし、天候任せで不安定」という意見もがあるが、この10年ほどで再エネのコストは劇的に低下、世界的にもっとも安価な電力は太陽光および風力によるものとなってきている。日本では政府の火力・原発優遇策や大手電力による抵抗のため、他の国々ほど再エネのコストが下がっていないものの、あと数年内に原発より安価になると見られている。
また、安定性に関しても、広域での電力融通や地域での「仮想発電所」(下図を参照)による融通、大規模蓄電施設の活用で対応できるようになっている。アンチ再エネ派が「日本では太陽光発電を設置する場所がなく、これ以上増やそうとすれば、山林を切り開いて自然破壊するしかない」と主張することがあるが、これも誤り。農地と共存したり、耕作放棄地を活用したりする太陽光発電、いわゆるソーラーシェアリングのポテンシャルは膨大で、環境省試算によれば、これだけで日本の総電力需要を確保して、なお余りあるくらいだ。
再エネの活用は、脱炭素のみならず、現在、石油や天然ガス、石炭等の化石燃料を輸入するため国外に流出している年間およそ25兆円の資金を日本国内で流通させ、エネルギー自給と経済活性化を両立させうるものでもある。誰が自民党総裁になるにせよ、時代錯誤の偏見を捨て、再エネ主力電源化へ注力すべきだろう。
(了)