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バスケットボール選手やコーチにとって、英語ができることはメリットでしかない(1)

青木崇Basketball Writer
高校でガードコンビを組んだ伊藤と松井 Photo by Takashi Aoki

新年度がスタートする4月、バスケットボール部に入部する新入学生は全国にたくさんいるだろう。中学生になると英語を本格的に勉強することになるが、大人になってもバスケットボールに関わっていこうという気持を持っているならば、本気で勉強することをお勧めしたい。それは、選手やコーチとしてトップレベルを目指し、海外でやってみたいという夢があるならば、絶対にそうすべきである。

留学した経験があるBリーグ選手の中でも、アルバルク東京の松井啓十郎はコロンビア大、伊藤大司はポートランド大というNCAAディビジョン1でプレイした経歴を持つ。2人は留学して英語が話せるようになっただけでなく、松井が経済、伊藤がビジネスを専攻し、4年間できちんと卒業している。そんな彼らに、なぜアメリカでやろうと決意したかを質問すると、こんな答えが返ってきた。

「はっきりしたのは(NIKEが主催した横浜アリーナでのイベントでマイケル)ジョーダンと1対1をしたあとくらいですかね。10歳のときにやって、あれから本格的に視野へ入れ始めたというのが本当です」(松井)

「12歳です。兄(アルバルク東京の伊藤拓摩コーチ)が先にアメリカへ行って、帰ってきた夏に、僕が小5、6ですかね。リングなしのドリブルだけの1対1をして、ワーすごいなと思った。あとは向こうの高校のビデオや当時And1ミックステープが流行っていて、派手なプレイですけど、あれを見て影響されました。小6にはアメリカ行きたいと思っていました」(伊藤)

伊藤の留学を決断させたのは兄拓摩(白)の存在 (C)Takashi Aoki
伊藤の留学を決断させたのは兄拓摩(白)の存在 (C)Takashi Aoki

行くと決断した2人はすぐに英語をしっかり勉強しようと動き始めたが、環境に大きな違いがあった。松井が小学校卒業後に東京都内のインターナショナル・スクールに通って英語を学んだのに対し、伊藤は中学校の英語の授業でいい成績をとるために努力し、週1〜2回英会話教室に通っていた。しかし、なかなか身につかないまま渡米すると、すぐ言葉の壁に直面したのである。

「アメリカの場合、バスケットと学力の両方があって、勉強のほうは特に苦労しました。そこがアメリカははっきりしていて、できない、しないとバスケットをさせてもらえない。勉強のほうがすごく苦労して、時間をかけて朝の3、4時まで宿題をしていたのがほとんど。バスケットのほうでも苦労はあったんですけど、悪い言い方をすればまだごまかしが効くというか、体で表現できるわけですから。そういう部分がありますね」

インターナショナル・スクールでの2年間で英語力を上げていた松井は、授業の英語よりも、日本で学ぶこと機会のなかった黒人が話す独特な英語に悩まされたという。8年生(日本の中2)としてモントロス・クリスチャン・スクールに編入したとき、“高校の1軍メンバーになれるのか?”という不安もあったが、結果を出さなければいけないという強い気持は決して失わなかった。もちろん、プレイする機会を得るためには、しっかり勉強して成績を残さなければならないことを意味する。

モントロス時代の松井。横にいるのがスチュ・ベターコーチ (C)Takashi Aoki
モントロス時代の松井。横にいるのがスチュ・ベターコーチ (C)Takashi Aoki

高校のときにしっかりと勉強し、バスケットボールでも活躍できたからこそ、2人はNCAAディビジョン1の大学に進学できたのだ。例えば、現在NCAAでプレイする渡邊雄太(ジョージ・ワシントン大)や八村塁(ゴンザガ大)のように、日本の高校卒業後に留学する場合でも、勉強をしっかりやってGPA(評定平均値)の数字を高くしたほうがいい。それは、松井の「GPAが高ければ高いほど、チャンスは広がる。選んでくる大学のオプションも広がるから、そこを粗末にしてはいけないと思う」という言葉でも明らか。伊藤は「向こうに行ったら、嫌でも勉強しなければならないわけじゃないですか。しないとバスケとさせてもらえない。日本からアメリカに行くとなると、日本にいるとき勉強する癖というか、家に帰ったら宿題はやる。どれだけ疲れていても、勉強はする、宿題はするという習慣をつけることが大事」と、わずか30分の短い時間であっても、毎日やり続けなければならないと強調。アメリカでバスケットボールをやりたい、NCAAの舞台でプレイしたいという夢を持ったとしても、英語を理解できるようになっただけでは不十分なのだ。2人が通ったモントロスのスチュ・ベターコーチは、学業成績が悪い選手をチームから追放することを恐れない人で、中心選手だったケビン・デュラント(ウォリアーズ)にも出場停止処分に科したことがある。

松井と伊藤にとって、勉強する習慣を身につけるうえで助けになったのが、学校の終わりから練習が始まるまでの間にあった1時間だ。「3時に学校が終わり、3時15分から1時間、スタディーホールというのが毎日あったんですよ。そこで勉強するヤツもいるし、勉強しないでダラダラするヤツもいる。1時間をどう有効に使うのは自分次第だし、そういう習慣があったからこそ、大学に行ったときもスタディーホールがありましたから」と松井が話せば、伊藤も「大学に入ったとき、高校のときのそういった時間が役に立ちました」と口にする。2人が通っていたモントロスのように、練習の前に自習や宿題をやることが、日本の高校でも慣習になっていいのではないか…。その理由は、バスケットボールが習慣のスポーツと言われるように、勉強することも習慣化できれば、学業成績向上に役立つという気がするからだ。(2)に続く。

危険なシューターとして存在感のある松井 (C)アルバルク東京
危険なシューターとして存在感のある松井 (C)アルバルク東京
伊藤はリーダーシップを発揮できる司令塔 (C)アルバルク東京
伊藤はリーダーシップを発揮できる司令塔 (C)アルバルク東京
Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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